『お月様とお饅頭』
やましん(テンパー)
『お月様とお饅頭』
『これは、妄想性フィクションです。この世界とは、無関係です。』
お皿に盛られた6つのお饅頭さんは、今川焼とか、太鼓まんじゅうとか、場所やお店によって、いろんな名前があります。
お月見に今川焼を飾る習慣があるわけではないけれども、やましんさんは、二階のまどべの、まん丸なお月様が見える場所に、窓を開いて、ちょっと飾ってみたのです。
おしゃれかな、と、思ったから。
ついでに、ドビュッシーさまの『月の光』とか、ドヴォルザークさまの『月に寄する歌』とか、お月さまをイメージした音楽を流しておりました。
すると、お空から、何かが降りてくるのです。
『あらまあ、なにかしら。』
と、いぶかしく思っておりますと、それは、『宇宙タクシー月光』と書かれた電飾を背中に被った、実際、タクシーくらいの乗り物でした。
ただし、タイヤがありませんし、回りに、雲のような霞が掛かっていて、なんとなく不気味です。
すると、中から、運転手さんらしき、帽子を被った、まさしく、うさぎさん、が顔を出しました。
『へい。おまち。どうぞお。』
やましんさんは、当惑しました。
『え、べつに、呼んでないですけど。』
『へ? そんなはずはない。ちゃんと、ここから、呼び出し信号が来たんですぜ。ほらね。ありゃ。信号がないな。さっきまで、出てたんですぜ。あの、月営業所で、ばんばん、入ったからね。』
『そんな信号、出してないです。』
『おかしいなあ。まあ、たしかに、地球から呼ばれるのは、でっかい宮殿とか、総理官邸とか、そういう、場所がほとんどで、こんなウサギ小屋からは、来ないよなあ。』
『こほん。正直なウサギさんですな。なにかの、混信ではないですか? 最近、地球は、ややこしいですよ。』
『いやあ。確かに、地球では、全人類支配計画が、ひそかに、進んでいるらしいすけどねぇ。あら、これは、宇宙船まんじゅうでは?』
『今川焼です。全人類支配計画?』
『へえ。月では、専らの噂ですぜ。地球人が、月の支配も狙ってるらしいから、かぐや姫の時代以来の、地球との戦争になるかも、と。こいつは、宇宙船まんじゅうとか、スターシップ焼きとか、月では言われます。19世紀初頭に、地球各地を旅行した、かぐや姫の孫、美露姫(うつろひめ)が、お土産に持って帰ったことから、宮廷菓子舗製のコピー商品が出て、月の宮廷、さらに、市民にまで、大爆発的な人気が出ました。一時期は、地球から、輸入もしてたんすがね、なかなか、いまは、地球人が、生意気になって、あ、失礼。また、政情不安で、地球産はなかなか手に入らないしよ。』
『あなたに、差し上げますから、どうぞ。』
『そ、そすか。ありがとやんす。これは、大変なお宝でしぜ。いやあ。ミス配車は、減点なんす。あら、また、信号来た。ほら、やはり、この、地下辺りですぜ。』
すると、なにやら、小さな黒い影が、みっつ、地階から這い上がってきて、まどの隙間から、タクシーに乗り込みました。
『や、お客様が、乗りやしたぜ。助かったす。これ、御礼の、優待券す。無期限。月の往復ができやす。じゃ。また。』
宇宙タクシーは、ささっと、宙に消えて行きました。
おまんじゅうは、一個だけ、残りました。
さっきの、黒い影が、いったい、なんだったのかは、わかりません。
地球は、いま、まさに、謎に満ちているのです。
明日をも知れぬ、危機にあるのです。
この危機を救うのは、お饅頭さんかもしれません。
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『お月様とお饅頭』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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