最終ゲーム(7)


「わはははは、どうだ、見たか! 飲み干してやったぞ?! これでもう、お前らの分はない。お前らは毒を飲むしかないんだ。俺が生き残った。俺が、『勝った』んだ!!」



 まさに「勝どきを上げる」ように、そう叫ぶガイドマンを見て。拓也は全身の力が一気に抜け、その場にへたりこんだ。……飲んじまった、ほんとに飲んじまった。もう俺は「生き残れない」んだ……!


 もしかしたらガイドマンは、ダイスケの考えを否定する一方で、瓶を奪い取る隙を密かに狙っていたのかもしれない。ダイスケの推測が正解とは限らないから、文句は言う。しかし、もし「正解」だった場合は。その時は……と。


 そう考えると余計に腹立たしさが募ると同時に、生き延びるための唯一の「蜘蛛の糸」が断ち切られてしまったという喪失感で、拓也は本当に、大声で泣きわめきたいくらいだった。


 が、そんな風に感情を爆発させている、ガイドマンと拓也とは対照的に。

 ダイスケはまだ、見かけの上では「冷静なまま」だった。


 そしてダイスケは、威勢よく勝利宣言を叫び続けるガイドマンに、「びしっ」と言い放った。



「いや……確かに生き残ったのは、あんただけど。『勝った』のは、あんたじゃないよ。あんたはこれで、最終的な



 ええ……?


 ガイドマンの声は止まり、そして何か呆けたように、ダイスケを見つめている。ダイスケはそんなガイドマンに止めを刺すかのように、続けて宣言した。


「あんた自身が言ってたじゃないか。このイベントは、自ら死んでいった者が、『勝者』であり。最後まで生き残った奴が『敗者』なんだって。つまり、あんたは。これまでに死んでいった奴ら全員の負債を背負うことが、今ここで決まったんだよ」



「な……そ、そんな馬鹿な?! お、俺はお前らとは違うんだぞ?! 俺はただ、ゲームに巻き込まれただけ……」


 ガイドマンは震える声で、そう反論したが。ダイスケは天井を見上げながら、自分たちを見ている「誰か」に語りかけた。


「果たしてそうかな? なあ、無害なドリンクを飲んで『生き残り』が決まった奴は。その時点で『最後の敗者』が決定するんだよな。つまり、死んだ奴らの負債をしょいこむんだろ?」


 それから、少しの沈黙ののち。あの黒服男の声が、部屋の中に聞こえてきた。



『ああ、お前の言う通りだ。生き残ったガイドマンが、最後の敗者になる。よって、これから参加者全員の負債を返済するため、生涯に渡って働き続けることになる』



 冷酷無比な黒服男の声に、ガイドマンは「ガクリ」と床に膝をつき。「嘘だ……嘘だと言ってくれ……」と、弱弱しく声にならない泣き言を呟き始めた。そして、黒服男の声は、更に続いた。


『だが、敗者を真に決定するためには。エントリーナンバー27番、および29番の2人が、「毒」を飲まなければならない。最後の1人が生き残ったことを、決定づけるためにはな。……それも、わかってるな?』



「ああ……もちろん、わかってるさ」


 ダイスケはそう言って、拓也の方を見た。あまりの急展開に、なにがなんだかといった心境で、事の成り行きをただただ見守っていた拓也も。覚悟を決めたようなダイスケの視線に、「ごくり」と息を飲んだ。



「俺はこのイベントがどんなものかわかって、俺なりに最後まであがいてみようかと思ってたが。それでも、万が一ここから逃げ出せたとしても、この後の人生が楽になるとは思えないし。生き残ったら生き残ったで、最悪な人生が待ち受けている。だったら、やっぱり親や友人に迷惑をかけないような『終わり方』がいいんじゃないか……そう、思えてきたんだ。これまでのゲームで、先に死んでいった奴らと同じくね。


 しかしそう思い直したのは、ほんとに最後のゲームに入る直前で。俺が最終ゲームで『生き残らない』ためには、誰かもう1人、『生き残らせる』ための参加者が必要だった。だから、これまでずっと俺たちをアオってたガイドマンを、巻き込んだわけさ。あんたも同じ思いをしてみなよ、って意味も含めてね。 


 で、ガイドマンを巻き込むためには、この前の扇風機ゲームを『一緒に生き残る』奴も必用だった。でないと、俺1人が生き残ったら、その時点で『敗者』になっちまうからな。それで、タクヤが扇風機に向かって行こうとしたのを止めたんだが……俺の勝手な考えでこんなことに巻き込んで、申し訳ないと思ってる。でも、正直な話。ここまで共に生き残れたのがタクヤで、ほんとに良かったとも思ってるよ。


 アタルやミヤコちゃんじゃあ、最後のゲームをやり抜くパートナーとしては、物足りなかったかもしれないしな。それにタクヤはなんとなく、俺と一緒で、生きることを客観的に考えてるような気がしたんだ。だから、あそこまで生き延びてたんだろうとね。


 まあこれも、俺の勝手な思い込みかもしれないけどな。とにかく、タクヤになんていうか、シンパシーみたいなものを感じてたことは確かなんだよ。だから……できることなら、『最後』も一緒に迎えたかった。恨みっこなし、でね」



 ダイスケの語った言葉は、拓也がこれまで感じていたことと、ほど同じだったと言えよう。ただダイスケの方がきっと、自分より頭が回り、自分よりも危ない橋の「経験」を積んでいることは間違いない。そう考えると、最後のゲームをやり抜くパートナーに「自分」を選んでくれたことに、拓也は何か、誇りのようなものを感じていた。


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