最終ゲーム(6)
ダイスケは先ほどと同じくピンクを、ガイドマンもまた同じく黄色を。そして拓也は緑色の小瓶を持って、テーブルの同じ側の位置に並んだ。
「じゃあ、やるぞ。3人とも同じように、あまり大きく動かさず、手首だけを使って5回だけ振ろう。さっきやってみた感じでは、それで十分不純物は混ざるはずだ。俺の合図で、1から5まで数えて。『6』で、一斉にテーブルの上に置く。わかったな?」
いよいよこれで「どれが毒で、どれが無害か」が、わかるのかもしれない。もちろん外れの可能性もあるが、残り時間から考えて、中身の違いを判別するには、最後のチャンスだと言えるだろう。ならば、賭けてみるしかない。
先ほどまでダイスケの意見を否定したがっていたガイドマンも、ここは素直にダイスケに従っていた。ここが重要な局面であることを、ガイドマンも承知しているのだろう。
「それじゃあ、準備はいいな? せーの、で始めるぞ?」
ダイスケの再度の確認に、拓也はこくりと頷き。ガイドマンも同じく、「ああ、わかった」と答えた。さあ、遂に、これで……?!
「せーの、1,2,3,4,5……6!!」
ダイスケのカウントに合わせて、軽く5回ずつ振られた3つの小瓶は、「6!」の声と共に、ほぼ同時にテーブルの上に置かれた。向かって一番右側にダイスケの持っていたピンクの瓶、次にタクヤの緑色、一番左側にガイドマンの黄色。
そして3人は、瓶に光が当たる、テーブルに椅子の置かれていない側から、じっくりと3つの瓶に視線を集中した。瓶の中を舞っていた不純物が、やがて静かに、底の方へ向かって落ちていく。その様子を、じっと見続けていると……3人それぞれの目に、その「違い」が、はっきりとわかった。
「……これでわかったな。ピンクと緑に比べて、黄色の瓶の不純物だけ、明らかに落ちるのが遅い。つまり、この黄色の瓶の中身は、他の2つと『違う』ということになる。3つのうち、ひとつだけ『無害』なドリンクが入っているのは……『黄色の瓶』だ」
ダイスケの静かなるその宣言に、拓也は感動のあまり、泣きだしてしまいそうだった。何か、3人で協力して、ひとつのことをやり遂げたような。そんな感慨が、拓也の胸中に溢れかえっていた。
「奴ら、照明の当たる位置まで考えて、3つ目の椅子を『向こう側』に置いたんだな。小瓶の置き方も含めて、かなり用意周到に『3人用』の配置をしたつもりなんだろうが。その周到さが逆に、いいヒントになったな……」
ダイスケもこれまでと違い、何かしみじみとした口調で、そう呟いている。自分の推察が見事に的中したことで、ダイスケも感無量なんだろうな……拓也はそう思い、更に泣きそうになってしまったのだが。
そこで、それまで黙っていたガイドマンが。自分の目の前にあった黄色の小瓶を、両手で「がばっ!」と掴み取ると。そのまま抱きかかえるようにして胸元に引き寄せ、自分は部屋の隅の方へと後ずさっていった。
「わははは、もらったぞ! 無害なやつは、俺が頂いた! お、俺は最初から、このゲームに参加する予定じゃなかったんだから。この無害なやつは、俺に飲む権利がある! 生き残る権利が一番あるのは、俺なんだ!!」
あまりに突然の出来事に、拓也は唖然としてガイドマンを見つめ。そしてダイスケは、ガイドマンを説得するように、「いや、それは……」と、近づきながら話しかけようとしたが。
「来るな、近寄るな! それ以上近付いたら、その場でこれを飲むぞ。いいか、ひとつしかないこのドリンクを、飲み干すぞ? それが嫌だったら、近づくんじゃない!!」
ガイドマンの目は血走っていて、息もはあはあと荒くなり、もはやまともな説得は通用しそうにない。それでもダイスケは、努めて冷静に「ああ、これ以上近づかない。近づかないから……」と、両手を挙げて「降参」のポーズを取った。
「そうだ、そのままでいろ! いいな、動くんじゃないぞ?!」
まるで胸に抱えた小瓶が「人質」かのように、必死に叫び続けるガイドマンを見て。拓也の中で、何かが「プツン」と切れた。それは、これまでずっと胸の奥に押し留めていた、押し込まれ続けていた感情の、激しいリバウンドだったのかもしれない。
「うわあああああああ!!」
拓也は自分でもビックリするくらいの大声をあげ、ガイドマンに猛然と飛びかかっていった。「うわあああ?!」ガイドマンは、拓也の突然の豹変を受け止め切れず、飛びかかって来た拓也もとろも、部屋の床に倒れこんだ。
「くそう、離せ、離せ!!」
体にしがみつく拓也を振り払おうと、ガイドマンは片手で小瓶をしっかりと抱えながら、もう片方の手で拓也の肩や背中を、ガツガツと叩き。それでも拓也は全くひるまず、小瓶を抱えたガイドマンの手に、「がぶり」と嚙みついた。
「うがああああああ!」
ガイドマンもまたその痛みによって、自分の中のリミッターが完全に外れたのか。「くっそおおおおおお!!」と吠えるように叫ぶと、手首に噛みついている拓也の頭部を「がしっ」を引っ掴み。その勢いのまま、自分の体ごとぶつけるように、拓也の頭を部屋の壁に「がつーーーーん!!」と叩きつけた。
「……!!」
さすがに拓也も頭の中が「クラッ」となり、噛みついていた口を離すと。それが合図だったかのように、ガイドマンは持っていた小瓶のコルクを口にくわえ、「スポッ!」と引き抜き。そして、中身の黄色いドリンクを、「ゴクリ」とひと息に飲みこんだ。
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