最終ゲーム(5)
3つの瓶を横に並べることで、その違いがわかる。
そう言われたものの、「違い」はやはりそう簡単にわかるものではなかった。
「う~~ん、ちょっとわかりにくいなあ。この原色に近い色が邪魔してるんだよな、上手いこと着色したもんだよなあ」
ダイスケは目の前にある瓶を、指の先で「つんつん」と突きながら、ため息をついた。自分ではいい考えだと思ったものの、結果が出ないことにはしょうがない。そこで部屋の中に、先ほどゲームの説明をした黒服男の声が響いた。
『現在、15分経過。残りはあと半分、15分足らずだ。そろそろ、誰がどれを飲むか決めた方がいいぞ』
あと15分か……恐らく自分たちを「焦らせる」意味合いもあるのだろうが、確かにこうやって見つめているだけでは埒が明かない。ガイドマンが言ってたみたいに、ジャンケンでもして好きな色を選ぶ段階に来てるのか……?
拓也はそう思いながら、ダイスケの後ろから離れ。椅子を置いていない、テーブルの反対側へ回ってみた。
「もしかしたら、逆から見るとわかったりするかもしれないしね」
とは言ったものの、それほど期待はしてなかったのだが。椅子のない場所でテーブルに肘をつき、目線を瓶の位置まで低くして、もう一度観察してみると。そこで拓也は、「あっ」と声をあげた。
「反対側からだと、わからなかったけど……なんか、瓶の底が黒ずんでるような気がする。ちょっと一緒に見てくれないかな?」
「なんだって?!」
ダイスケは拓也の言葉を聞いて、椅子からガタッと立ち上がり。拓也の横に回ると、同じように目線を下げ。「どれどれ、どこら辺が……ああ、なるほど。確かにどの瓶も、底が黒ずんでるな」と呟き、「やるなあ、お前!」と、拓也の背中を「ばしん!」とはたいた。
「いやでも、どの瓶も黒ずんでるから、『違い』がわかったわけじゃないんだけどね……」
拓也はそう言って、頭をポリポリと掻いた。確かに、どの瓶も同じように黒ずんで見えるので、これだけでは瓶ごとの「違い」を指摘することは出来ない。
「しかし、向こう側からだとわからなかったけど、こっちからだと見えるってのは……ああ、なるほど。照明の関係か!」
ダイスケは天井を見あげながら、片手のひらをもう片方の拳で「ぽん!」と叩いた。
「照明は天井の中央に付いてるから、俺が座ってる位置から見ると『影』に近くなるんだ。だから反対側に回れば、『光が当たって』よく見えるんだな。しかし、この黒ずみは……」
そこでダイスケが瓶のひとつを手に取って、目のすぐ近くに寄せてみると。すぐに、「ああ、わかった!」と、再び声をあげた。
「これ、『沈殿物』だ。置いてからある程度時間が経ったから、中の液体に混ざってる不純物とかが、底の方に沈殿してるんだよ。ほら、見てみな」
ダイスケは持っている小瓶を軽く振り、拓也にかざして見せた。振ったことで底に溜まっていた沈殿物はなくなり、瓶の中を細かく黒い粒が漂っているような状態になっている。
「これも、光に透かしてみないとわからなかったな。鮮やかな原色に見えたけど、こうしてみると不純物が混ざってるんだなあ……」
そこで、まだダイスケの席の後ろにいたガイドマンが、好奇心からか、ダイスケが持っていたのとは別の瓶を手に取り、自分で振ってみた。
「ははあ、なるほど。でも、こっちも『同じように』不純物が混ざったから、これも『毒と無害の違い』を見極めるのには使えないがな」
ガイドマンはそう言って瓶をテーブルに置き、続いてダイスケも「まあ、そうだな……いい発見かなと思ったけど」と、瓶を元の位置に戻した。と、そこで。
「おい、見てみろ!!」
ダイスケが、これまでよりも大きな声で、テーブルに置いた瓶を指差した。拓也とガイドマンもつられて、置かれた瓶に視線を移すと。今度はダイスケは、少し震えるような声で、瓶と瓶の「違い」を指摘した。
「俺が持ってたピンクの瓶より、ガイドマンが持ってた黄色の瓶の方が。不純物が、『ゆっくり落ちていってる』……!」
「えっ?!」と思って、拓也もよくよく見てみると。確かに、ピンクの瓶の中で舞っていた不純物は、静かに瓶の底へと落ち始めていたが。黄色の瓶の不純物は、まだ瓶の中で舞っている状態で、底まで落ちいない……?!
「いや、俺の方が後から振ったから、ってのもあるかもしれないだろ? それを確かめるには……」
そう言ったガイドマンの目線に、ダイスケは「こくり」と頷いた。
「ああ。3人でいっぺんに、3つの瓶を振ってみて。それから、同時にテーブルに置いてみる。それで、俺の考えが正解かどうか、はっきりする」
残り時間10分を切ったところで、最終ゲームは大詰めの段階を迎えていた。
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