最終ゲーム(4)
「まず最初に奴らは2つの瓶を縦に置いたのに、その瓶が3つになったら、今度は三角形になるように置いた。では、この違いは何か? と考えると。
普通に考えると、というか最初の並べ方に沿うなら、3つの瓶をそのまま『縦に置く』はずだよな? しかしそれをしなかったのは、なぜかと考えた時に。『何かを悟られないためにそうした』と考えると、辻褄が合う気がするんだよな。
じゃあいったい、何を悟られたくなかったのか?
これは、三角形に置いた今の状態を見るよりも、実現されなかった『3つを縦に並べる』状態を想像した方が、気付きやすいんじゃないかと思うんだ。奴らはその状態を、見せたくなかったわけだからね。まあ、あくまで俺の推理ではってことだけど。
じゃあ、実際に3つ並べたところを想像してみると……そこで、『最初との違い』に気付いたんだ。何が違うのか、わかるかい?」
ダイスケにそう話を振られたものの、拓也には何がなんだかサッパリわからなかった。それでも、「う~~ん……そうだな」と必死に頭を働かせて、拓也なりの回答をひねり出してみた。
「3つを縦に置くと、そうだな、俺とガイドマンの位置からは、目の前の瓶の向こうに他の2つが並んでるような感じだから、全部の瓶が見えにくいけど。新しく持ってこられた椅子の位置、つまり今ダイスケが座ってる位置からは、3つが『横に並んで見える』……ってくらいかなあ? それが何を意味するのかは、見当も付かないけどさ」
苦し紛れに絞り出した答えではあったが、ダイスケはそれを聞いて「そう、それだよ! タクヤ、いいカンしてるじゃん!!」と、思わぬ「高評価」をもらってしまい、拓也は逆に恐縮してしまった。
「いや、誉めてもらえるのは嬉しいけどさ。それで何がわかるのか、あるいはわからないのかは、全く思いつかないんだよね……申し訳ない」
恐縮するあまりなぜか謝ってしまった拓也だったが、ダイスケは「いやあ、それに気付くだけでも大したもんだよ。なかなか素質があるな、タクヤには」と上機嫌な様子で、今度は自分の推察を語り出した。
「いまタクヤが言ったように、もし3つの瓶を『縦に並べて』いたら、俺の位置から見ると、3つの瓶が綺麗に『横並び』になってるはずなんだよ。しかしあえて最初と違う三角形に置いたのは、その『横並びの状態』を見せたくなかったんじゃないかと思うんだ。
つまり、この3つの瓶に入っている飲み物は、それぞれに着色されてて、パッと見はどれが毒でどれが無害かの判別がつかないようになってるけど。もし『3つを並べてじっくり観察』したら、その微妙な違いがわかってしまう。奴らは、それを避けたいと考えたんじゃないか。
3つのうちどれかが他と違うって聞かされたら、やっぱり人の心理としては、ひとつひとつをじっくり見たくなるんじゃないかと思うんだよな。まずひとつ目の瓶を手に取ってよく観察し、次に別の瓶をじっくり見る、みたいなさ。そうじゃなくて、3つを並べて『いっぺんに見る』ことで、違いがわかるとしたら。この『不可解な配置の変化』にも、説明が付く。
いま置かれてる三角形の配置からすると、3人ともまず目の前に2つの瓶が斜め横に並んでいて、その奥にもうひとつの瓶がある感じだろ? もし横に並んでる2つの瓶が両方とも毒だったら、並べてみてもその違いがわからない。片方が毒だったとしても、目の前の2つの違いはわかるかもしれないが、奥にあるもうひとつまでは、はっきりとわからない可能性が高い。
これがもし、それぞれの瓶を3人の目の前に置いた、つまり三角形の頂点がそれぞれの席を向いているような形だったら。目の前に置かれたのが毒だったら、奥にある『もうふたつ』との違いがわかりにくいかもしれないけど。目の前の瓶が『無害』だったら、奥のふたつとの違いがわかるかもしれない。3人のうち『わかり易くなる』のは1人だけだけど、奴らはその可能性も消しておきたかった。だから今の形、三角形の『それぞれの辺が、それぞれの席を向いている』配置にしたんだ。
と、いうわけで。じゃあ実際に並べて、何がどう違うのか。じっくりと、見てみようじゃないか」
そう言ってダイスケは3つの瓶を手に取り、自分の前で横に並べてみせた。
「俺1人じゃ気付かないかもしれないから、タクヤとガイドマンも良かったら、こちら側から見てくれよ」
ダイスケにそう言われ、拓也は「じゃ、じゃあ」と席を立ち、ダイスケの後ろから観察するような体勢を取った。ガイドマンは渋々といった感じだったが、「まあ、お前の考えが当たってるかどうかはわからんが。試してみる価値はあるかもな」と、拓也の横に移動し。そして3人は、横並びになった3つの瓶を、穴が開くほどじっと見つめ始めた。
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