最終ゲーム(3)
「あんたが言うように、ジャンケンとかくじ引きで決めれば、確かに恨みっこなしになるかもな。だが出来れば俺はギリギリまで、可能性を見つけたい。せっかくこうして、最後のゲームまで『生き延びた』んだしな。その結末をジャンケンみたいな運任せにするのは、本当に最後の最後まで避けたいかな」
ダイスケはダイスケで、ガイドマンのやけっぱちな提案を真っ向から否定してみせた。まあガイドマンからしたら、安全地帯から急にこのゲームに参加することになり、まともな思考が出来ない状態になっているのかもしれないが。それを言うなら、ここまで凄惨な「自殺ゲーム」を目の当たりにしてきた拓也とダイスケも同じこと、いやそれ以上だと言えるだろう。ここへ来てまだ思考をめぐらすことのできる、ダイスケがある意味「普通じゃない」のだ。
「じゃあ、何か他にいい考えでもあるのか? 見た目じゃわからないって、自分でも言ってたろ?」
ガイドマンはガイドマンで、自分をゲームに引きずり込んだダイスケには、とことん逆らうつもりのようだ。それに引き換え拓也は何か、2人の言い合いを傍観しているような立場になりつつあったが。ダイスケはガイドマンのツッコみに対し、「ああ。いい考えかどうかは、わからないけどね」と、テーブルの上の小瓶を指差した。
「今は3つの瓶が並んでいるが、最初に俺とタクヤが入って来た時には、まだ2本だけだった。そしてその2本はテーブルの上に、入口から入って縦に並べられていた。手前側が青、奥に赤の瓶だったな。
最初はこの配置に意味があるのかなと思ったが、ガイドマンは俺たちの座る場所を、俺たち自身で決めていいと言っていた。つまりあらかじめ席が決まっていれば、椅子はテーブルを挟むように向かい合って置かれていたから、例えば俺が手前の席でタクヤが奥の席なら、俺の前に青の瓶、タクヤの前に赤の瓶があることになる。そうなると、瓶の位置にも何かしらの意味が……? とも思えるけど。手前と奥とどちらに座っても構わないんだったら、この配置自体に特に意味はないと考えるのが自然だろう。
で、そう考えてはいたんだけど。
黒服の奴が3つの瓶を置くのを見て、『おっ?』と思ったんだよ。3つをどう並べるのか、さっきみたいに縦に並べるのかなと思ったら。今度は3つを、ちょうど三角形になるみたいにおいていった。これはもしかしたら『意味があるのかも』と、改めて思い直したんだ」
確かにダイスケの言う通り、緑・黄色・ピンクの瓶は、三角形を作るようにして置かれている。これに意味があるとしたなら……いったいなんなんだ? はっきり言って、拓也には何も思いつかなかった。
「で、この三角形の配置なんだけど。追加で持ってきた、俺が座ってるこの椅子。入口から見て、テーブルの左側に置いて行った。と、すると。最初は向かい合った椅子のその前に見えるように、縦に瓶を置いていたんだから。今度は追加した3つ目の瓶も、追加した席の前にあるように置くはずだよな? ところがどっこい、瓶が作っている三角形の頂点は、どこの席も指していない。上手い具合に、それぞれの席の正面をズレるように置いていったんだ。こりゃあひょっとして、『訳あり』の配置じゃないかと思ってね」
なるほどね~……。拓也はダイスケの思考だけでなく、その観察眼にも感心していた。最初に座った時は、縦に並んだ瓶の片方を正面に見ていたが、今はちょうど、2つの瓶を繋ぐ「三角形の辺」が、やや斜めに見えている。瓶の配置からして、ダイスケとガイドマンが座っている席からも、大きくは変わらないだろう。しかし、かといって。これに何の意味が……?
「面白い意見だとは思うけどな。でも、それがわかったところでなんだって言うんだ? その配置から、毒かそうでないかを見分けられるとでも言うのか??」
ガイドマンが拓也の心境を察したかのように、ダイスケにそう問いかけた。というより、そう考えて当然だろう。これが何かのヒントになっているようには、とても思えないが……。
「この配置を元に見分けられるかどうか、確かにね。でも違うんだ、俺が考えたのは『逆』のことだよ。この配置は『毒かそうでないか』を、見分けられないようにするためじゃないかと思い付いたんだ……!」
瓶の配置が、ヒントになっているのではなく。「見分けられないため」の配置……?!
思ってもみなかったダイスケの言葉に、拓也もガイドマンも、その身を少し前に傾け。ダイスケの話に、あらてめて集中し始めた。
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