最終ゲーム(2)


 ダイスケは黒服男が出ていったあと、新たに追加された椅子に「よいしょ」と腰かけ。「さあ、いよいよ始まりだな」と、拓也とガイドマンの顔を見渡した。



「しかし、どうするのかなと思ってたが。1人増えたから、椅子と同じくドリンクを1つ追加するのではなく、今まであった2つを回収して、新しく3つ置くいていくのはさすがだな。


 さっきの説明では、青と赤のどちらかが毒で、どちらかが無害ってことだった。そこへ新しい色のドリンクを1つ持ってきて、合計3つのうち1つだけが無害だとしたら。そりゃあもう、新しく追加されたのは『毒』が確定しちまうからな。奴らのブレーンというかゲームの考案者も、さすがにそんなヘマはおかさないか」


 

 ダイスケはそう言って可笑しそうに笑っていたが、拓也にすると「なるほど」と、ダイスケの頭の良さに改めて感心していた。……確かに、最初からあった2つのうち1つが毒で、もう1つが無害だったわけだから、新しいのを合わせて3つになっても、最初にあったドリンクの1つが無害なのは変わらない。つまり新しいドリンクは「毒入り」ってことになるんだもんな……。


 しかし、感心していた拓也に比べ、ガイドマンはやはりダイスケの言葉を素直に受け取れないようだった。


「まあ、少し考えればそれくらいはわかるが。そんな、『ヒント』になるようなことを言っていいのか? そうやっていい人間ぶって、また何か企んでるのか??」


 どうやらガイドマンはダイスケの言動にかなり警戒心を抱いているようだが、当のダイスケは気にすることなく、例の「ニヤリ」という笑みを浮かべた。


「いやいや、ここは普通に、俺の考えを言っただけさ。さっきも言ったろ? 正々堂々、恨みっこなしでやろうって。だから、ここで考えつく限りのヒントは正直に、2人にも伝えるつもりでいる。まあ、あんたがそれに従うかどうかは、自由に決めればいいさ」


 ダイスケはそう言いながら、テーブルの上の3つのドリンクをじっと見つめている。拓也にしてみると、自分よりもかなり「策士」っぽいダイスケが自分の考えを言ってくれるのは、このゲームを進める上で大いに助かるという心境だった。今の自分では、どれが毒でどれが無害かなどと、考えようとしてもいいアイデアは思い付かず、堂々巡りになってしまうだけではないかと思っていたのだ。

 

 そしてダイスケは今しがた言った通り、3つのドリンクについての「考察」を、拓也とガイドマンに語り始めた。



「さっきまであった青と赤のドリンク、あれだったら例えば、普通に考えると『赤が危ない』ような気がするけどね。信号機の『青が進め、赤が止まれ』みたいに、通常赤ってのは『危険』を象徴する色と認識されてるからね。それを踏まえると、赤い方に毒が入っている可能性が高いかもしれない。


 しかし逆に、こちらがそう考えるだろうという前提のもと、主催者側が裏をかいて、青に毒を入れてるって可能性も十分にある。まあ、色だけではどうにも判断を付けにくいかなと思ってたんだが、今度は全く違う色になっちまった。緑と黄色、それにピンクじゃあ、どれが危なそうかのイメージが全然湧かないもんなあ。強いて言えば黄色は信号の『注意せよ』だから、危なそうだと言えないこともないけど。じゃあ緑とピンクはどうなんだと言われたら、どちらとも言えるとしか言いようがない。


 もしかしたら毒だけに、舐めてみると『ピリッ』とした刺激を感じるかもしれないけど、即効性のある毒だったらペロっと舐めるだけでも危ないかもだから、実際に味わって確かめるのは止めた方がいいだろうな。まあガイドマンの説明でも、臭いや味では判別つかないってことだったしな。


 となると、やっぱり『見て判断する』しかなさそうだけど……ドリンクの瓶をまじまじと見比べたところで、ちょっと答えは出そうにないかなあ」



 ドリンクが入っている瓶は、市販されている栄養ドリンクの「小瓶」くらいの大きさで、高さはが10センチ、瓶底の直径が2センチあるかないかくらいの、小さな容器だった。瓶自体は透明で、中に入っている飲み物に着色している形になっている。その瓶にこれも小さめのコルク栓がガッチリとはまっていて、これを抜かない限り味も臭いもわからないだろうし、いずれにせよ臭いや味では区別がつかないのなら、開けてみたところで無駄に終わるだけだろう。   


「なんだ、結局考えてもわからないってことか? じゃあどうするんだ、3人でジャンケンでもして、勝った奴から順番に好きな色を選んで、3人で一気に飲むことにでもするか。それならさっき言ってたみたいに、『恨みっこなし』にはなるだろうがな」


 考え込んでいるダイスケを茶化すかのように、ガイドマンがそう吐き捨てた。しかしそれでもダイスケはまだ、テーブルの上の3つの小瓶を、見つめ続けていた。


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