最終ゲーム(1)


「……あんた、凄いな。まさかガイドマンを巻き込むとは、思わなかったよ」


 拓也は素直に、ダイスケの見事な言動を認めた。自分にはとてもあんなことを思い付きそうにないし、例え思い付いたとしても、あそこまで上手く相手をアオってその気にさせるのは、到底無理だと思えたのだ。……たぶんこいつは、相当にこういう「場数」を踏んでるんだろうな……。初めて見た時は「チャラい金髪の若者」にしか見えなかったダイスケが、今や何かとてつもない人物のように感じられていた。


「まあ、ここまで上手く行くとは思わなかったけどな。最終ゲームはたぶん、今までのように仕掛けに向かってランダムに死んでいくんじゃなく、俺とタクヤがマンツーマンで勝負するような感じになるんじゃないかな、と思ってさ。だったら『もう1人』くらい、追加の余地はあるだろうなと。これで更に盛り上がることは間違いないし、面白みが増したのも同じくだ。

 参加人数が3人になれば、ドリンクは毒が2つ、無害が1つって内訳になる。ここで『最後の勝者』を決めるわけだからな。そうすると、死ぬ確率は2分の1から3分の2に増えるが、生き残る確率は逆に3分の1に減る。これは面白い争いが見れるんじゃないかと、視聴者はさぞかし期待してると思うぜ?」


 そう語るダイスケの話しっぷりは、本当に「この場を楽しんでいる」ように見えた。もちろん、計画が上手く行ったというのもあるだろうが。拓也のように、死ぬこととそして生きることに客観的になり過ぎて、自ら死を選べなかったのとは違い。こいつはこんな修羅場を楽しむだけの余裕があるのか。もしくは、これまでに相当な修羅場をくぐって来てるのか……拓也はなんとなく、そんなダイスケを「羨ましい」とすら感じていた。



 と、そこで。

 ガチャリと部屋のドアが開き、黒服男に連れられた、噂の人・ガイドマンがやって来た。ガイドマンは部屋に入るなり、ダイスケを「ジロリ」と睨みつけ(未だマスクをしたままだったので、その目付きまではわからないのだが、少なくとも拓也には、ガイドマンの顔の動きはそう見えた)。黒服男がドアを閉めて部屋から立ち去っても、そのままドアの前に立ちすくんでいた。


「やあ、ようこそ、バトル・スーサイドのイベント会場へ。そんな突っ立ってないで、まあ座んなよ」


 ダイスケは自分が座っていた入口寄りの椅子から立ち上がり、これ見よがしにガイドマンにかざして見せた。ガイドマンは尚もダイスケを睨み続けながらも、言われた通りに渋々とその椅子に、テーブルを挟んで拓也の正面に座った。


「まさか自分がここに来るとは思ってもみなかったろうから、色々と戸惑いもあるかと思うが。ここは正々堂々、『恨みっこなし』で最終ゲームに臨もうじゃないか。なあ?」


 ダイスケはガイドマンに語りかけながら、拓也に同意を求めた。拓也も思わず、「あ、ああ」と返事をし、すぐ目の前にいるガイドマンの様子を伺った。仮面の下は、どんな苦渋の表情に満ちてるのか。テーブルの上に組んで置かれている両手は、よく見ると小刻みにプルプルと震えており、これ以上ダイスケがガイドマンを挑発しようものなら、すぐにでも殴りかかっていきそうな雰囲気を漂わせていた。


「正々堂々、か……。このゲームに於いては、そういうわけにはいかないと思うがね」


 ガイドマンは実況中の丁寧語ではなく、休憩中にダイスケと話していた時のような「タメ口」で、ダイスケにそう反論した。確かに、ガイドマンもそしてダイスケも言っていたように、どれが毒でどれが無害かがわからぬままドリンクを選ぶというルールでは、お互いに疑心暗鬼になり、「正々堂々」とはいかない気がする。


「ははは、正々堂々ってのはまあ、いわゆる社交辞令だよ。それより、恨みっこなしの方を頭に入れておいて欲しいな」


 恨みっこなし……どんな結果になろうとも、ということか。俺はまだしも、強引にゲームに引きずりこまれたガイドマンにしたら、そうも言ってられないだろうけどな……。拓也がそんなことを考えていると、部屋のドアが再び開き、黒服男が入って来た。最初に倉庫に入った時、拓也にトレイを差し出した奴だ。もう1人と比べて背が高く、上から見下ろすように指示をされて、圧を感じる態度だったのを拓也はよく覚えていた。 


 その黒服男はまず、テーブルの左横に新たな椅子を置き。それから、持参した小さめのジュラルミンケースをテーブルの上に乗せ、口を「パカリ」と開けると。ケースのすぐ脇にあった、それまで置かれていた赤と青のドリンクを、右手で摘まむように持ち、ケースの中に収納した。そして、新たに3つのドリンクが入った瓶をケースから出し、テーブルに並べた。



「実況者がいなくなっちまったから、俺から説明する。この3つのドリンクのうち、2つに毒が入っていて、1つだけが無害だ。後はわかるな? 制限時間は、さっき説明があったように、今から30分。生き残るか死ぬのを選ぶのか、せいぜい頑張ってくれ」


 黒服男は冷静にそう言い残すと、ジュラルミンケースを持って部屋を出ていった。テーブルの上にはそれぞれ、緑、黄色、ピンクの3色に分けられた、ドリンクの小瓶が置かれていた。


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