ガイドマン(1)
ガイドマンは、手元のモニターの中で自分に向かって語りかけて来るダイスケを、憎々しい思いで睨みつけていた。幸い仮面を被っているので表情は見えていないだろうが、声の調子が少し上ずったり、震えてしまったのは感づかれたかもしれない。だが、ダイスケの主張は認めるわけにはいかなかった。自分がこの恐ろしいゲームに「参加する」だなんて……!
「いえ、その。私はあくまで、実況者として関わっていますので。裏の事情というか、どんな用意をしているかまではわからないのですが。しかし、例えこのゲームのためのドリンクが、あと何人か分用意されていたとしても。私はあくまで実況者ですので。私は、誰が参加するとかそういうことを決められないんです。私には、そういう権限がないんです!」
そうだ、我ながらいいことを思い付いた。私には決められない、ここで勝手に参加するわけにはいかない。強引にでも、これを言い聞かせればいい……!
しかしガイドマンの思いとは裏腹に、ダイスケはまだ「ニヤリ」という笑みを浮かべていた。
『ふーん、どんな用意をしているのかは、わからないか。ってことは、さっきあんたが言った「2人分しか用意されてない」っていうのも、単なるあんたの感想で。あてにはならないってことだよな?』
ガイドマンはダイスケの言い分に、「ぐっ」と唸った。……こいつ、見かけと違って相当頭の回転が速いな。ヘタに言い訳をすると、重箱の隅を突くように反論してきやがる……! しかしダイスケの反論は、そこでは終わらなかった。
『それから、あんたには決められないって言ってたけど。じゃあ、誰が決めるのかって言ったら。そりゃあもちろん、金を払ってる「視聴者の皆さん」だよな? 高い金を払ってるんだから、その権利はあるはずだ。
限定配信をしてるんだから、当然視聴者用のアンケート機能なんかもあるんだろ? 今ここで、アンケートを取ってみたらいい。ガイドマンのあんたが、最後のゲームに参加するのに、賛成か反対かってね。それで決めれば、主催者やスポンサーも、文句はないはずだぜ?』
ダイスケのこの言葉に、ガイドマンは少なからず衝撃を受けていた。
……しまった、してやられた。なんでさっき待機中に、配信のことを聞いて来たのかと思ってたが。迂闊に答えるんじゃなかった、ここでそれを利用するつもりだったのか……!
ダイスケの言った通り、視聴者からのアンケートをリアルタイムで取る機能は当然付いていた。更に言えば、ゲームごとに「何人残るか」のアンケートを取り、その正解によって今後の配信で使える「ボーナスコイン」を付与していたのだから、視聴者もそのことは知っている。ここで「そんな機能はない」と誤魔化すことも出来なかった。
そして、これはガイドマンが参加しているわけではなく、ただ閲覧用に用意してあるだけではあるが。視聴者による「チャットコメント」が、これまでにない勢いで書きこまれ始めた。
”面白いじゃん、やろうぜアンケート!”
”絶対その方がいい、いいことい言うじゃんこの金髪”
”早くやろうよ、ガイドマン覚悟決めなよ!”
そんな、無責任かつ野次馬的なコメントが、チャット欄を埋め尽くしていた。
……ちくしょう、他人事だからって勝手なこと言いやがって。こっちの身になってみろ、ちくしょう、ちっくしょう!!
しかしアンケートが出来るとわかっている以上、ユーザーからの希望があれば、やらなければならない。ここでスルーを決め込んだら、それこそ何かの責任を問われる可能性がある。これが無料で視聴している奴らばかりだったら問題はないが、全員が全員、高額の会費を支払った上で視聴しているのだ。更に出来もしない無理難題を押しつけられているのではなく、やれることをやれと言われているだけなのだ。逆らうことは出来ない。
ガイドマンは仕方なく、『そ、それでは。アンケートを取ってみたいと思います……』と、一縷の望みを託し。【ガイドマンがゲームに参加することについて、賛成の方はAを、反対の方はBをお選び下さい】と、チャットのアンケート記入欄に入力した。そしてその結果は、あっという間に判明した。
「…………」
手元に表示されたその結果を見て、茫然とするガイドマンに。モニターの向こうから、ダイスケがさも可笑しそうに問いかけた。
『どうした、結果が出たんだろ? あんたが映ってるそのモニターに、その結果を出してくれないかな。見てる人にもわかりやすいようにさ』
ガイドマンは再び「ううう……」と唸りながら、アンケート結果をモニターに表示した。人数までは表示されないが、ぱっと見てすぐにわかる結果が、そこに映されていた。賛成98%、反対2%。圧倒的多数が、「賛成」の意思を表明していた。
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