最後のゲーム、開始前(3)
「そうするとやっぱり、見ている側からしたら、もっと違う『刺激』が欲しいんじゃないかと思うんだよ。せっかく高い金払って、今日の配信を楽しみにしてたんだろう? それがこんな『終わり方』でいいのか? もっと『楽しめるやり方』があるんじゃないか。そう思わないか?」
隠しカメラがどこに配置されているかがわからないからだろう、ダイスケは部屋の壁や天井を見渡し、自らの体をぐるりと回転させながら、そう語っていた。モニターの中のガイドマンも、「こいつは何を言い始めたのか」と黙り込んだまま、ダイスケを見ている。このまま話し続けていたら、黒服男が入って来て、スタンガンで大人しくさせられるんじゃないか……拓也がそう思った時、ダイスケは「くるり」と向きを変え。ガイドマンの映っているモニターに向かって話し始めた。
「そう、この最後のゲームを、もっと盛り上げるためには。見ている奴らが、もっと『知っている人物』が参加すればいい。そうすれば、そいつが死ぬのか生きるのかと、楽しみが倍増する。じゃあ、見ている奴らがよく知っている人物と言えば? そりゃあもう、こいつしかいない。
ここまでゲームの案内をして、モニターの中にでっかく『1人きり』で映り続けている、ガイドマン。見てる奴らにはもう、『お馴染みの顔』だ。こいつが、このゲームに参加するしかない!!」
その唐突な提案に、拓也はこれまで以上に驚愕し、口をアングリと開け。そして、モニターに映っているガイドマンもまた、同様だった。いや、能面のマスクを被っているので、その表情まではわからないが。明らかに、何か「焦っている」ような様子が伺えた。
『な……何を言い出すんですか? 私が、ゲームに参加?! そんな、あり得ない……!』
そう言ったガイドマンの声は明らかに震え、うろたえているように感じられた。しかしダイスケは、尚もガイドマンの「追及」をやめなかった。
「いや、あんたはこのゲームを『面白く実況する』役目なんだろ? だったら、ゲームがより面白くなる選択をしなきゃおかしい。そうじゃなかったら、これを見ている奴らの期待を、裏切ることになるぞ?!」
煽るかのように語り続けるダイスケの言葉に、ガイドマンは明らかに気圧されていたが。それでも、「そんなことは出来ない」という理由というか言い訳を、必死に説明し始めた。
『いや、その……この、最後のゲームはですね。あくまであななたち、「2人用」に用意されているんですよ。見ての通り、用意されている飲み物は2つだけ。つまり、私が参加する猶予はないんです。それとも、あなたたちのどちらかが私に代わって「実況」しますか? そんなことは出来ないでしょう??』
このゲームに参加するのは、拓也とダイスケの2人だけ。ガイドマンを加えた「3人」で行うことは出来ない。それはもっともらしい理由に聞こえたが、ダイスケはあの「ニヤリ」という笑みを浮かべ、ガイドマンにキッパリと言い放った。
「いや、違うね。テーブルに置かれてるのは確かに『2人分』だが。ドリンクはもっと、幾つか用意してあったはずだ。たまたま最後まで生き残ったのが2人だったから、『2人分』用意してあるにすぎない。
なぜかと言うと、最後に生き残る人数は、前もって決まっているわけじゃないからだ。ここまでのゲームはみんな、『時間制限』で終了してたからな。決して『規定人数まで死んだから』、終わりにしてたんじゃない。ってことは、生き残る人数は決まってない、ってことなんだよ。だから、この最後のゲームで使用するドリンクも、2人分じゃなくて『数名分』用意してないとおかしい。
たぶんある程度参加者の人数が減ったら、まあ片手で足りるくらいになったら『最後のゲーム』に移行するように決めてたんだろうな。逆に、さっきの扇風機ゲームで生き残ったのが1人だけだったら、この最終ゲームを行うまでなく、その時点で『敗者』が決まってた。そういうアトランダムというか、不確定な要素も含んだゲームなんだから、当然最後のゲームに関しては、『十分に足りる数』を用意するはずだ。
それが証拠に、このゲームが始まる前に『準備時間』が必要だったろ? でかい扇風機くらいは、会場内の色んな仕掛けから考えれば、すぐに片づけられるはずだ。あのゲームで生き残ったのが2人だったから、この部屋に不自然に感じないように『2人分の椅子』を置き、ドリンクも2人分置いておく。それはダミー人形を天井から降ろすような『機械仕掛け』じゃなく、誰かが指示を出して、『人の手』でやらなきゃならない。そのための『準備時間』だったんだ。そうだろ?」
策士たるダイスケに、論理的にそう反論され。哀れなガイドマンは、何も言い返すことが出来なかった。それはそのまま、彼が辿ることになる「今後の運命」を、象徴しているかのようだった。
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