最後のゲーム、開始前(2)


『まずお二人とも、用意された椅子に座って下さい。どちらがどちらの椅子に座るか、それはどちらでもかまいません。お二人で話し合って決めて頂いて結構です。


 そして、テーブルの上に置いてある飲みもの。中身が赤い色をしたものと、青い色をしたものの、2種類がご用意してあります。このどちらかが即効性のある毒薬で、もうひとつはわかり易くするために色を付けてあるだけの、無害な飲料です。


 もうおわかりですね? この2つの飲み物、赤と青のどちらを飲むのかを、お二人で決めて下さい。毒薬を飲んだ方が「最後の勝者」になり、無害な方を飲んでしまった方が、最終的な「敗者」になるわけです。


 もちろん、どちらがどちらを飲むのか、とことん話し合ってもらって構いません。相手に無理やり飲ませるも結構、自分が勝手に飲み込むのも結構。臭いや味では判別がつかないようになっていますので、ご自分のカンを信じるしかない。ただこれまでにも説明した通り、毒薬を飲んだ後はすぐに「旅立てる」わけではなく、それなりの苦痛を伴うことになります。


 そして残された敗者は、相手が苦しみもがいて旅立っていく様子を目の当たりにしながら、自分が多大な負債を背負うことになる宿命を噛み締めるというわけです。さあ、当たるも八卦、当たらぬも八卦。制限時間は最後のゲームだけに、30分と長めにご用意しています。じっくりと話し合って、もしくは殴りあってでも構いません。最後の勝者は誰になるのか、最終ゲームスタートです!!』



 なるほど、悪趣味なゲームを思い付くもんだ……。

 拓也は、この期に及んで「生と死、どちらかを強制的に選ばせる」という、刹那的かつ絶望的な選択を強いられるゲームの内容に、驚きや呆れを通り越して、半ば感動に近い心境になりかかっていた。……どれだけ話し合っても、例え殴り合っても。「正解」を選べるとは限らないんだからな。いやもうここまで来たら、果たしてどちらが「正解」と言えるのか……?


 これまでのゲームで死んでいった奴らの仲間に、「勝者」として加わるのか。それともここまで生き残ったからには、例えこのあと悲惨な人生を送ることになろうとも、「生き続ける」ことを選ぶのか。他の奴らのように、その場の雰囲気や勢いに流されず、ここまで生き残ったということは。それだけ、「生に対する執着が強い」ということでもある。いや逆に、「自らの意思で死ぬ」ことすら選べない、ただの臆病者かもしれない。


 いずれにせよ、どちらを飲むかをあと30分以内に決めなければならない。もし2人して「どちらも飲まない」という選択をしたら、あの黒服男が入って来て、無理やりどちらかを飲ませられるんじゃないか。そんなことになるより、少なくとも「自分の意思で選んだもの」で運命を決める方が、ましな人生の締めくくり方と言えるかも……?


 それにしても、「考えがある」って言ってたのは。どういうことなんだろう……?  

 拓也は改めて、テーブルの前に立って2つのドリンクをじっと見つめる、ダイスケの様子を伺った。ダイスケは「ふ~~ん」と頷き、「面白いことを考えつくねえ」と、独り言のように話し始めた。



「まあ最後は2人だけになったから、死ぬか生きるかを選ばせるようなゲームになるんじゃないかなと、なんとなく想像してたけどな。こんな選ばせ方をするってのは、さすがに思い付かなかったよ。


 俺とこいつ……俺とタクヤの2人が生き残ったことで、たぶん俺たちが密かに談合でもして、最後まで生き延びようとしてたんじゃないか。この『配信』を見てる奴らは、そんな風に考えるかもな。そうやって協力してきた2人が、『どちらが死ぬか、生き残るか』を巡って、醜い争いをすることになる。制限時間が迫れば迫るほど、切羽詰まっていがみ合ったり、果ては取っ組み合ったりと。まあ、このゲームの見どころといったらそんなとこだろう。しかし、だ」


 そこでダイスケは、ぐるりと部屋の中を見渡し。自分を見ているだろう「誰か」に向かって語りかけるように、声を張り始めた。


「果たしてそれが、見ていてそんなに『面白い』かね? ここまでさんざ、人が無残に切り刻まれる『自殺ゲーム』を見て来た奴らにしたら、ちょっと物足りないんじゃないか? もしこれが、俺とタクヤに注目していて、俺たちに感情移入でもしていればまた別だろうけどな。


 だが俺たちのことは、あくまで何十人かいた参加者の中の、2人にすぎないと。そうとしか見ていなかったはずだ。後から総集編でも作って、俺たちの行動だけを追うように編集したやつを配信していたら、ちょっとは違ったろうが。みんなここまでのゲームを、『全体的』に見てただろう? それがここに来て、『2人だけのいがみ合い』を見せられて、満足すると思うかい?」



 いったい何を言い出したんだろうと、拓也は呆気に取られながら、何か熱っぽく語るダイスケを見ていたが。最初は恐らく、ゲームの配信を見ている人々に話しかけているのかと思っていたが、どうやら少し違うらしいことに気付いた。ダイスケは、限定配信を見ている視聴者と。そしてゲームの案内人、「ガイドマン」に向かっても、語りかけているのだと。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る