最後のゲーム、開始前(1)
『それでは準備が出来ましたので、次の会場へ移動してください』
あのウグイス嬢のようなアナウンスが流れ、正面のモニターが再びゆっくりとせり上がり。先ほど多くの参加者を切り刻んだ大型扇風機は姿を消し、その奥に扉が見えた。血にまみれた床の上を通って、あの扉の向こうへ行けということなのだろう。
「それじゃいっちょ、行くとするか……!」
拓也と並んで座っていたダイスケは、そう言って「う~~ん」と腰を伸ばすと。拓也の方を向いて、あの「ニヤリ」という笑顔を浮かべた。
……結局「俺の考え」ってのを聞けないままだったな。まあ、最後のゲームがどんなものかにもよるのかもしれないけど。待機部屋の時から「策士」っぽい感じがしてたし、何か企んでることは間違いないだろうけど……。
拓也もまたダイスケに連られるようにして立ち上がり、ほぼ2人並んで奥の扉を目指した。切り刻まれた肉片のほとんどは、例の「パカリ」と開く床の下へと落ちていったが。特に清掃などをしたわけではないので、真っ赤に染まった床は気を付けないと足を滑らせそうなほど、そこらじゅうが血糊でズルズルになっていた。
……まあ、こんなひでぇ現場を見せつけられたら、感覚がマヒして頭がイカれちまうのも無理はないだろうけどな。俺はあの倉庫で「今まさに、人が生き埋めにされようとしている現場」を目撃していたことで、他の奴らよりは耐性が出来てたのかもしれないな……。
まだ何か「ぼおっ」としたような顔をしている拓也を見て、ダイスケはそんなことを考え。そして同時に、自分が体験したこととこのイベントとの、不思議な「類似性」を頭に思い描いていた。
……まずもってここに降りる前に入った倉庫、あの寂れた感じ。あれがなんとなく、田村が捕まってた倉庫を思い出させたんだよな。そん時はまだ、それほど気にしてなかったが。最初のゲームでエレベーターに乗ろうとした奴、そんでそいつの後についてきた奴。黒メガネの奴がスティックのスタンガンを持ち出した時は「うわっ」と思ったな。下半身丸出しで電撃を受けてた田村みたいで、まともに見てられなかったな……。
それから、最後の敗者が負債を返済するための方法。肉体労働はいいとして、スポンサーに「肉体奉仕」をするっていうのは……俺が闇金の借金を返すために、口髭野郎から紹介された「あの仕事」、そのまんまじゃないのか? ここまで似ているところがあると、口髭野郎たちとこのイベントとは、どこかで繋がってるって考えた方が自然かもな。
まあ奴らも仕事柄、借金を背負ってる奴とかの情報はどこかから仕入れてるだろうしな。招待状を渡す参加者の候補みたいなリストを、提供していた可能性はあるか。後は、スポンサーをこのイベントの主催者に紹介してたとかな。俺がチ〇ポをくわえさせられた奴の他にも、その手の輩は知っているだろうし。言いなりになる性奴隷をキープできるなら、金を出しましょうってことになってるのかもしれんな……。
しかしそれより今は、これから始まる「最後のゲーム」のことだ。俺の想像通りだったらいいんだがな。これまでと違い、「2人きり」でやらされるゲームと言えば……。
ダイスケは、自ら幾つかの「オリジナル特殊詐欺」を考え出したその経験を生かし、これからのゲームについて自分なりにシミュレーションをしていた。もちろん想像以上のことが起きる可能性は十分にあるが、ここまで感じていた「類似性」も含めて、選択肢は意外に絞れるんじゃないかと考えていた。
そして2人は扉の前に立ち、そこで新たな指示がないのを確認して、「じゃあ、行くか」というダイスケの言葉と共に、「がちゃり」と扉を開いた。
扉の向こうはこれまでと様相を変えて、小さめの「個室」になっていた。入って来た扉側の壁が横に4メートル、そこからの奥行きが縦に7、8メートルくらいだろうか。中央に正方形に近いテーブルがあり、2脚の椅子がテーブルを挟んで向かい合うように置かれていた。これでテーブルの上にライトでもあれば、映画やドラマなどで見る「警察の取調室」のような感じを受けた。
そしてテーブルの上には、赤と青の色をした、栄養ドリンクのような小さな瓶が2つ乗っていた。置かれている椅子がふたつ、ドリンクの小瓶がふたつ。ゲームに参加する人数も2人ということを考えれば、このドリンクがこれからのゲームに関わっていることは明白だった。
『お待たせしました。それでは、最終ゲームの説明を致します』
扉から見て正面の壁が、「パカリ」と開き。そこにあったモニターに、もうすっかりお馴染みになった「実況モード」に戻ったガイドマンの姿が映し出され、そのよく通る声が、狭い個室の中に響き始めた。
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