ダイスケ(6)
やっとのことで家に帰った大輔は、すでに夜中過ぎではあったが早速グループの主要メンバーに連絡を取り、緊急事態に陥ったことを告げた。
『マジすか、田村さん大丈夫なんすか?』
『えらいことになりましたね……できるだけの協力はさせてもらいます』
大輔はグループLINEに「すまん、宜しく頼む。詳しいことは、明日また話そう」と書きこむと、倒れこむようにベッドに突っ伏した。……まあ、贅沢な暮らしがいつまでも続けられるとは思ってなかったけどな。ちょいと調子に乗り過ぎてたかもな……。
しかし、今はこれまでの生活を反省するのはさておいて、とにかく金を作らねばならない。取り急ぎ期限の明後日までに、何件かの「仕事」をこなし。それでも足りなかったら、グループのメンバーたちに頭を下げて、かき集めるしかないだろう。そのためにも、ゆっくり寝ておかなくては……。目をつぶっても、田村の悲惨な姿が瞼の裏に浮び、そう簡単に寝付けるものではなかったが。どうにか2、3時間の睡眠を取り、翌日の朝を迎えた。
正直こんな状況になったら、警察に行った方がいいかのも? とも思ったが。警察に事情を話せば、同時に今まで自分たちがやってきた詐欺のことも、全て証言せざるを得なくなる。そしたら自分や初期のメンバーはまだしも、まだ加わったばかりの末端のメンバーまでが罪に問われるだろう。それを考えると、なんとか1000万作る方がマシではないかと思えた。
3日というのはさすがに厳しいが、必死に集めればなんとかなる。そう考えていた大輔だったが、それは甘い考えだったことを、すぐに思い知らされた。まず、これからやろうとしていた特殊詐欺の詳細について、連絡を取ろうとしたのだが。グループのLINEは、ほんの数時間寝ている間に、メンバーが大輔1人きりになっていた。
「なんじゃ、こりゃ……?」
一瞬大輔は、何が起きたかわからなかったが、それでも「そういうことか」と、すぐに察した。
こいつら、バックレやがったな……?!
ヤクザ者に脅され、命の危険があるような事態には巻き込まれたくない。それが「LINEグループからの離脱」という形で現れたのだろう。試しに大輔は電話もしてみたが、もちろん繋がるはずはなかった。グループの面々は完全に、大輔と「縁を切る」という選択をしたのだ。もしかしたら大輔が寝ている間に、メンバー同士でやり取りをして、「皆で一斉に抜けよう」という選択をしたのかもしれない。
くっそう、俺のおかげでさんざいい思いをしてきたくせに……!
そうも思ったが、逆に奴らの心境も、大輔は十分に理解できた。もともとが、犯罪行為を始めようという前提で集めたメンバーである。口が堅いことが必須条件だったので、この件が他所に漏れる可能性は少ないだろうが、決して厚い信頼関係で結ばれていたわけではない。「いい稼ぎができる」というその一点で、共に行動していただけなのだ。ようするに、「金の切れ目が、縁の切れ目」というわけだ。おまけに命の危険があるとわかれば、さっさと手を引く方が賢明だろう。
これまでやって来た詐欺の手口は、どれも自分1人では実行が困難なものばかりだ。だからこそ、まずはメンバーを集めることから始めたのだから。しかし今は、そんなことを言っている場合ではない。自分1人でも、やり通さなければ……!
大輔は自分1人で可能な方法をなんとか考えだし、危険を承知であらかじめリサーチしていた「1人暮らしの老人宅」を何軒か回って、どうにか数百万の金を作ることに成功した。だが、これではまだ1000万の半分にも届かない。明日もめいっぱいやったとして、それでも足りないか。ならば足りない分は、どうにかするしかない……。
やむを得ず大輔は、それまで自分には縁がないと思っていた、消費者金融からの借り入れをしようと決意したが。定職もなく、詐欺で稼いだ金で贅沢をしていただけの大輔が、そう簡単に審査が通るはずもなく。切羽詰まった大輔は、こうなったらやむを得ないと、いわゆる「闇金」を頼ることにした。
闇金の知識はほとんどなかったが、消費者金融を回っているうちに、「ウチでは無理ですが、ここならもしかしたら……」と、俗にいう「ソフト闇金」を紹介してくれたところがあった。闇金とは違って強面の者が対応するのではなく、表向きは消費者金融と変わらないが、規定以上の利息をつけて融資をしている会社だ。そして審査の条件も、消費者金融に比べればずっと緩い。
ソフトとは銘打っているものの、もちろん「違法」なことには変わりないので、出来れば避けたいと思っていたが、背に腹は代えられない。このまま田村を見捨てたら、一生悪夢にうなされることになるだろう。大輔は何軒かのソフト闇金に申し込みをし、どうにか融資を取り付けた。
こうして必死にかき集めたおかげで、なんとか1000万を作るまでにこぎつけた大輔は、その足で例の倉庫に向かい。憔悴しきった田村を救いだすことに成功した。だが「現実の悪夢」は、これで終わりではなかった。
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