ダイスケ(4)
大輔は男に言われるがまま車に乗りこみ、田村が監禁されている倉庫へと連れていかれた。廃業してから数年が経過したような、寂れた工場跡のひと気のない倉庫は、ここで「何か」が起きても誰も気付かないだろうと思えるくらい、ぞっとするような雰囲気が漂っていた。
「よう、大輔ちゃん! ご無沙汰だね~、元気してた? なんか最近、やけに羽振りいいみたいじゃない?」
倉庫の中に無造作に置かれたソファーの上に、「でん」と腰かけていた口髭を生やした男が、ハンチング帽男に連れられて入って来た大輔に、そう声をかけた。この口髭男は大輔も数回しか会ったことのない、恐らくは詐欺グループの主犯格と思われる男で、いかにもヤクザ風な風貌と態度が、大輔は性に合わずにいた。
だが、今はそんなことを言っている場合ではない。大輔は「あの、実は……」と、何か上手い言い訳をしなくてはと口を開いたが。口髭男はそれを制するように、更に大きな声でまくしたてた。
「でもさあ大輔ちゃん、ちょっとつれないんじゃない? せっかく俺たちが目をかけてやったのにさあ、自分たちだけで金を稼ごうなんて。そのへんの詳しいことは全部、田村ちゃんから聞いちゃったからね。ね、田村ちゃん?」
口髭男がソファーの背後を振りむくと、そこには。天井からロープのようなもので、両手首にかけた手錠を吊るされ。両足首も床の突起にガッチリと手錠で固定され、憔悴しきった表情の田村がいた。唇の端には血痕がこびりついていて、目の周りにもドス黒いアザが浮かび上がっている。ここに来るまで、そして来てから田村がどんな目に遭っていたのかが、瞬時にわかるほどの痛々しさだった。そしてあまりの恐怖と痛みに「お漏らし」でもしてしまったのか、田村はズボンとパンツを脱がされ、下半身がむき出しになっていた。
そして口髭男に声をかけられた田村は、そこでようやく大輔がいることに気付いたのか。喉の奥から振り絞るように、自由の効かない身をよじりながら、「だ、大輔……ごめん……」と、言おうとしたのだが。
そこで、田村のすぐ横に立っていた男が、手に持ったスティックのような棒の先を、田村の下半身、股間の位置に押しつけた。
……ばちばちっ、ばちばちばちっ……!!
途端に田村の股間から火花が飛び散り、田村は「ぐはああ、ぐはああああああ!!」と、両の手足を固定されたままで、ブルブルと痙攣し、その身をのけぞらせた。
「はあ、はあ、もう、やめて。お願いです、やめて……」
スティックの先が一度股間から離れ、田村は涙と鼻水とヨダレをダラダラと流しながら、横にいる男と口髭男に、必死に懇願した。だがその言葉を言い終える前に、再びスティックの先が田村の股間を襲った。
「ぐぎゃあああああ! ああああ、ああああああああ!!」
それはもう、悲鳴と呼んでいいものかどうかすら定かでないほどの「魂の叫び」で、またスティックが股間を離れたあとも、今度は何も言うことが出来ず。「はしゅうぅぅぅぅ、ふしゅるるぅぅぅぅ……」と、田村の口からは空気が漏れるようなかすかな音しかしなくなった。そしてその刹那、田村の股間から「しゃあああ……」と、両足の腿をつたって小便が垂れ流され始めた。
「わっはっはっは! こいつ、さっきも小便漏らしたばかりなのに、またかよ? まあまだ若いから、アソコも敏感なんだろうねえ、こう立て続けに電撃をくらったら、そうなっちゃうかねえ?」
口髭男はさも可笑しそうに笑っていたが、大輔はもう田村の姿を正視することが出来なかった。恐らくボディガードなどが使うスティック状のスタンガン、それで何度もこんな酷い仕打ちを受けているのだろう。
それでも大輔は、ここは何か言わなくてはと。必死に考えた末に、なんとか言い訳のようなものを絞り出した。
「はい、本当に……自分たちだけで勝手に稼いで、すいませんでした! でも……僕らは僕らの、なんていうか、オリジナルのやり方で稼いでいたので。決して皆さんと『カブっていた』わけではないと思うんですが……」
すると、つい今しがたまで大笑いしていた口髭男の表情が、急に「きっ!」と厳しくなり。ソファーから立ち上がると、あっという間に大輔の目の前に近付いて、それからおもむろに大輔の右の頬に、「ばしーーーーん!!」と強烈なビンタを食らわせた。
「カブっていたわけでは、ない? なに言ってんだお前。お前らに金を巻き上げられた連中は、俺たちに対して財布の紐がキツくなるだろうが。俺たちに迷惑をかけてるってことを理解してねぇのか、ああ??」
突然「手を出して来た」口髭男の、これまで見たこともなかったような凄みのある迫力に、大輔はヒリヒリと痛む右頬を手で押さえながら、心底ビビっていた。……やっぱりこいつら、マジもんのヤクザだな。本気になったらとんでもねえな……! しかしこれはまだ、詐欺グループ主犯格たちにしてみれば、「ほんの手始め」に過ぎなかった。
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