(つかの間の)休息(2)
「ゲームの説明をしたり、『勝者』を読み上げるあんたの口調がナレーションぽいっていうか、『実況』みたいな感じがしたからさ。たぶんあんたが個人的趣味でこのイベントを開催して、自分で楽しんでるだけじゃなく。広く一般にというわけにはいかないだろうが、会員限定コンテンツとかで、配信してるんじゃないかって。そう思ったんだ」
確かに言われてみれば、ガイドマンの言葉は参加者に語りかけるだけでなく、ゲームの様子を「実況」しているようにも感じられた。第一のゲームでアタルたちが身を投じた「亀裂」の上に橋をかけたり、この広めのスカッシュ場でも、壁からレーザーとか天井からダミー人形とか、様々な仕掛けが施されていたし。それを考えれば、会場内のどこかに配信用のカメラやマイクが仕込まれていて、何も不思議はない。
『まあ、これは答えてもいいと思うから、この際教えてあげよう。君の言う通り、このイベントは第一のゲームが始まった時から、限定配信されている。正確に言えば、私が開会宣言をする、その少し前あたりからかな、しかし配信については事前に知らせてなかったし、私も何も言わなかったのに、よくわかったな』
休憩時間ということもあるのか、自分に話しかけてきたダイスケもタメ口だったので、ならば自分もそれでいいと思ったのか。ガイドマンはそれまでと違ったフランクな言葉遣いで、ダイスケの問いに答えた。ダイスケは「やっぱりね……」と頷きながら、自分の「推理」を語り始めた。
「あんたが、スポンサーたちがどうのこうのって言ったからさ。スポンサー、つまりこのイベントに金を出した奴がいるってことは。このイベントそのものが『金になる』ってことだろ? でなきゃわざわざ、金を出したりしないもんな。俺たちから参加費を取ってるわけじゃなし、取ったところで大した額になるわけじゃなし。となれば、スポンサーが付くような『儲け方』といえば、そりゃもう有料会員向けの限定配信しかないだろってことさ」
ダイスケの説明に、拓也も「なるほど」と頷いていた。……最後まで残った敗者は、スポンサーに「肉体奉仕する」っていうあれか。その時は、そんな悲惨な毎日を送ることになるのか、としか考えられなかったけど。ダイスケって奴は一見チャラいように見えて、色々考えてるんだな……。
「とはいえ、こんなイベントを大っぴらに宣伝するわけにもいかないだろうから、あくまでコネとか口コミとか信頼できる筋を当たって、会員を集めたんだろうけどね。しかし逆に、こんなコアなイベントを見ようって考える奴は、よっぽどの『好きもの』だと容易に想像できる。集まった参加者が次々に自ら死んでいくイベント、そんなものがあったら大枚はたいてでも配信を見たいって奴は、少なからずいるだろう。
しかし、公募は口コミとかでなんとかなっても、いざ配信するとなったら、それなりのリスクは伴うと思うんだよな。こんな配信がいわゆる『当局』に見つかったら、タダじゃすまないだろ? まあその辺りも、ちゃんと考えてはいるんだろうけどな」
少し探りを入れるようなダイスケの問いかけに、ガイドマンは『ふふふ……』と小さく笑い。『ああ、ちゃんと考えている。極めて安全にこのイベントを遂行し、配信も出来るようにね』と、自らその詳細を語り始めた。
『限定配信を視聴可能な会員は君の言う通り、一定のレベル以上の信頼が於ける人物のみを招待しているからね。というより、そういった会員はある程度の社会的地位がある者ばかりだから、他人にこの秘密を漏らそうと考える者はいないだろう。それで自分の地位を失うなうようなことは、間違ってもしてはならないとね。そして例え配信が見つかったとしても、このイベントの会場、つまり「配信元」へはたどり着けないようなシステムを構築してある。
何人かのハッカーを雇い、それぞれがそれぞれに回線上にブロックを作り上げ、その複数のブロックを組み合わせた頑強な守りを敷いているんだ。だからそのうちひとつのブロックをプログラムしたハッカーですらも、全てのブロックを破ることは不可能だ。上手く行って、オトリとして作ったニセサイトへと導かれるくらいだろうな。だからこそ、スポンサーも安心して資金を提供してくれるというわけだよ』
何か自慢げというか、配信システムがいかに素晴らしいものであるかを得意げに語るガイドマンの口ぶりに、拓也は一瞬「ムッ」としたものの。そんなことに腹を立てたところで、この現状がどうにかなるものではなかった。ダイスケもそれは承知だと思うが、どんな意図で今の質問をしたのか……?
「なるほど、わかったよ。休憩中のいい暇つぶしになった、ありがとう」
ダイスケはそう言って、再び拓也の隣に座り込んだ。ガイドマンも『どういたしまして』と答え、それから『じゃあそろそろ、「本番」に戻るよ。準備はいいかね?』と聞き返して来た。いよいよ、始まるのだ。勝者と敗者を分ける、最後のゲームが。拓也はチラっとダイスケの方を伺ったが、ダイスケは精神を集中し、何か一心不乱に考え事をしているかのように、真っすぐに前だけを見つめ続けていた。
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