(つかの間の)休息(1)


『それでは現時点をもって、第三のゲームは終了になります。ここではもう勝者になった方々より、「残った方」のお名前をご紹介した方がいいでしょうね。エントリーナンバー27番の”タクヤ”さん、エントリーナンバー29番の”ダイスケ”さん。このお二人が残念ながら生き残り、次のゲームに進むことになりました』



 多くの血肉を飲み込んだ大型扇風機は、壁の向こうへと姿を消し。そして上方へと移動していたモニターが降りて来て、ガイドマンがそう宣言した。それはすでに「参加者たち」への語りかけというより、拓也とダイスケの2人への、マンツーマンに近い言葉とも取れた。


『なお、次のゲームが最終ゲームとなります。会場を移動して頂く形になりますが、少し準備がありますので、しばらくそのままでお待ちください』


 さすがに十数人の参加者が切り刻まれたこの部屋で、最後を迎えるというのは避けようということなのか。その意図はわからなかったが、ともあれ、たった2人きりの「生き残り」となった拓也とダイスケは、床だけでなく壁も天井も血で赤く染まった広めのスカッシュ部屋で、「しばし待機」ということになった。


 そこで拓也が気になったのが、ガイドマンと主催者側の意図よりも、さっき「俺に考えがある」と囁いた、ダイスケの方である。拓也もダイスケも、赤く染まっていないわずかな箇所である部屋の隅に、「ぺたり」と尻をつき。そこで拓也はダイスケに、「あのさ……」と小声で話しかけた。


「さっき言ってたこと、本気かい? 次の『最後のゲーム』で、何か考えがあるって。いったい、何をどうするつもりなのか……」


 地下数十メートルか数百メートルかはわからないが、とにかく地下の奥深くに作られた会場で。逃げたり文句をつけたりしようものなら、あのスタンガンを持った黒服男たちがやって来る。まずもって、ここからどこかへ逃げようというのは不可能だろう。ならばいったい、ダイスケは何をしようというつもりなのか。自分を引き止めたということは、恐らくダイスケ1人だけではなく、自分にも何か関係することなのだろう。ダイスケは俺に、何をさせようっていうんだ……?

 

「まあね……とりあえず、次のゲームが始まってからのお楽しみ、ではあるけどな。その前にちょっと、確認しておきたいこともある」


 ダイスケはそう言って、「ふう~~……」とひと息吐き出すと。「よい、しょっ!」という掛け声と共に、座り込んでいた床から立ち上がった。



「なあ、ガイドマンさんよ。聞こえてるか? こっちが休んでいる時は、あんたも休んでるのかな。もし俺の声が聞こえてたら、返事をしてくれないか?」


 なんとダイスケはいきなり、これまで案内人としてモニターの中から語りかけていていたガイドマンに、こちらから話しかけた。確かに、最初にあの「ちょっと生かし合いをしてもらいます」という「開会宣言」をした後には、どういうことかとざわつく会場の様子を、ガイドマンが自分用のモニターで見ているような気配が伺えた。それから、「意味がわからないというお声、詳しく説明しろというお声。ごもっともだと思います」と語り始めた。つまりガイドマンは、同じ地下にいるのか地上にいるのかはわからないが、参加者たちの姿が見え、音声も聞こえているということになる。


 ダイスケの語りかけは、それを踏まえてのことだったのだろう。そして少しの間を置いて、モニターは点かずに、ガイドマンの声だけが響いて来た。


『ああ、聞こえています。どうしました?』


 ガイドマンの方も、この時点で参加者から何か話しかけられるとは思ってもいなかったのか。どこかで休憩でもしていた後らしく、先ほどのアナウンスのような口調ではなく、もう少し「地声」に近いような柔らかさで聞き返して来た。


「この休憩の間に、ちょっとあんたに聞きたいことがあってね。まあ、答えられればでいいんだけど」


 それからまた少し間が開いて、、ガイドマンは『そうですね……』と考えたあと。

『あなたの言う通り、答えられる範囲であればいいでしょう。もちろん私や主催者の素性とか、スポンサーの人数や金額とか。そういった具体的なことに関しては、お答えできませんが』


 ガイドマンのその返答は、至極「ごもっとも」と言えるものだった。休憩時間とはいえ、ここで素性を明かすなんてことが出来るはずがない。まあ、拓也とダイスケに素性を知られたとしても、2人がそれを「外部」へと漏らす可能性は、限りなく低いものではあったのだが。


 ダイスケは「ああ、それでいいよ」よ答えたあと、ガイドマンに最初の質問を投げかけた。


「あんたらの主催した、このバトル・スーサイドってイベント。今この休憩中はまた別だろうが、これまでに行ったゲームの様子なんかは、どこかへ『配信』してるんだよな……?」


 ダイスケのその言葉に、まだ座ったままだった拓也も、「はっ」となってダイスケの顔を見上げ。そしてガイドマンの声は、再びの沈黙に入っていた。


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