第三のゲーム(1)


 多くの参加者たちを切り刻んだ、赤いレーザー光線が消えたあと。参加者たちの無残な「破片」は床下へと落ちていき、そして正面のモニターの中で、ガイドマンが「生き残った者たち」に語り始めた。


『これで、第二のゲームは終了となります。続いて、第三のゲームが始まります。皆様、しばしそのままでお待ちください』


 どうやら次のゲームは、この「広めで血まみれのスカッシュ会場」で、そのまま行われるらしい。壁からレーザーが発射されたり、天井から人形が降りて来たり、死体を落とす穴が床に開いたり。色々と仕組んでたみたいだけど、今度はどんな「仕掛け」をしてくるのかな……?


 拓也が相変わらず、この状況を客観視というか、いまいち「実感」が湧かないままそんなことを考えていると。すぐ脇にいたダイスケが、また「ボソッ」と呟いた。


「……ミヤコちゃんもきっと、ここに来る前は、相当に苦しんでたんだろうな。最後、俺たちの方を見てニコって笑ったよな? あれはなんか、ようやく死ねるんだって、ほっとしてたようにも見えたな……」


 他の参加者たちよりも「生きよう」という気持が強いようにも感じられたダイスケが、そんなことを言うのを聞くと。もしかしてダイスケも、「自ら死を選ぶ側」に傾きつつあるのか? と、拓也は一瞬考えたが。ダイスケはすぐに「ニヤッ」と笑い、今度は拓也の方を見て、自分の思いを語り始めた。


「だが、そうそう思い通りになるとか、甘く考えてもらっちゃ困るな。倉庫から降りるエレベーターとか、この部屋の仕掛けとか、ここまで相当に金をかけてるみたいだし、さっきガイドマンが言ってた『スポンサー』たちも、かなり羽振りがいいんだろうけど。こっちにだって考えが……」



 ダイスケがそこまで言った時、再びガイドマンの「案内」が始まった。


『それでは皆さん、準備が整いましたので。第三のゲームを始めたいと思います』


 そう言い終えると同時に、モニターが付いていた前方の壁が、そのまま壁ごと「ういーん、ういーん」と上方へ上がっていき。そこにはまた「新たな壁」があって、モニターが天井の中に完全に吸い込まれたあと、新しい壁が「パカリ」と左右に開いた。そしてそこから、大型の扇風機のようなものが姿を現した。



『最初に申しあげましたが、バトル・スーサイドでは段階が進むごとに、ゲームから離脱する際の「痛み」が増すように設定しています。今回は、先ほどの第二のゲームよりも、かなりの痛みを感じることになると思います』


 目の前に現れた、高さが人の背丈以上もあるかと思われる、大型の扇風機は。通常の扇風機とは違い、ファンを覆うカバーがなく。むき出しになったそのファンの縁は、遠目に見てもゾクっとするほど、鋭利な刃物になっていて。やがてそのファンが「ぐるぅん、ぐるぅん!」と、猛スピードで回転を始めた。 


 それは見るからに、その刃の回転に巻き込まれたら最後、一瞬でお陀仏になるだろうことは明らかなシロモノだった。そのことは、会場にいた十数名の「参加者」たちから、一斉にどよめきのような歓声が上がったことでも裏付けられた。あれはマジでヤバい。あれにかかったら、ひとたまりもない……! そんな共通意識が、瞬く間に皆の中に生まれていた。



『それでも今回はまだ、「数秒の痛み、苦しみ」で済むでしょう。しかし「この機会」を逃すと、次は更に激しい「痛み」を感じるゲームへと進むことになります。さあ皆さん、その前に。「栄えある勝者」を目指して、いざ!!』



 またしてもけたたましい音楽が鳴り始め、会場内は更に異様な雰囲気に包まれ。ダイスケは「マジかよ、これ。これはさすがにシャレにならねーだろ……」と顔面蒼白になっていたが、そんなことを気にしているのはダイスケと、すぐ近くにいた拓也の2人だけだったかもしれない。


 当初は30名近くいたはずの参加者も、2つのゲームを経て次々に「勝者」が生れたことで、今や半数くらいになっていた。キッチリと数えたわけではないが、恐らく残っているのは12~3名ではないか。そして拓也とダイスケ以外の10名ほどは、何かに魅入られたかのように、ぐぉんぐぉんとファンを回す大型扇風機に見入っていた。


 そして、例の「運動会音楽」が鳴り始めたのが、何かの合図だったかのように。

「う、わあああああ!」

「わああああ、あああああああ!!」

 参加者たちはそれぞれにそれぞれの奇声をあげながら、扇風機に向かって突っ込んで行った。


「うわあ、マジかよ、マジかよ?!」

 ダイスケは目を覆わんばかりに両手を顔の前にあげていたが、それでも彼らの「行く末」を、見ないわけにはいかなかった。例えそれが、どんな地獄の様相を呈していたとしても。ここで目を閉じて、現実を遮断してもしょうがない。「それ」は間違いなく、いま目の前にあるのだから。


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