第二のゲーム(3)
それは、ガタいのいい男に注目していた参加者たちにとってもあまりに意表を突く出来事で、咄嗟に止めようとか声をかけようとか思い付くヒマもなく、そいつは本当にまっしぐらに、レーザーの交差する中へ突っ込んで行った。
そして、その直後に起きた出来事は。その場にいた参加者全員の精神状態を、ある程度狂わせてしまったと言えるだろう。参加者たちはガタいのいい男への視線を外すことなく、レーザーの中に身を投じるそいつを茫然と見つめ。そこから目の前に広がった光景を、容赦なく目の当たりにしたのだ。
まず前のめりに突っ込んで行った男の額のあたりに、「ぴっ」と最初のレーザーが突き刺さった。それでも男はすでに痛みすら感じなくなっていたのか、それともあまりに「綺麗に切断された」ので、痛みなど感じる隙がなかったのか。まるで、細い糸でぷりんとしたゆで卵を二つに切るように、男の頭部はレーザーの当たった額の箇所から、「スパッ!」と一直線に切り取られた。
それでも男の勢いは弱まることなく、それから体全体を預けるようにして、レーザーが作りだす赤きジャングルジムの中へ突き進んで行った。大きく広げていた左右の腕は、スパン! スパン! と瞬く間に、手首の先や肘の上あたり、そして肩口から切り落とされ。次いで首から下の本体も、胸の上、臍の周囲、足の受け根の少し上あたりで輪切りにされた。両足もまた、腿と膝の下、くるぶしの上あたりで計ったように三等分され。男のガタいのいい体は、瞬時のうちに十数種類の肉片と化した。
それは、さっきまでの疲弊した男の姿を見ていなければ、その前に「お試し」で見させられたダミー人形の顛末と、寸分変わらぬように思えたかもしれない。しかし今しがた分断されたのは間違いなく、ついさっきまで生きていた生身の人間であり。それが証拠に、切断されたその数秒後、レーザーの交差する辺りの空間が、男の血しぶきで真っ赤に染め上がったのだ。
そして男の、「男だった体の破片たち」は、ダミー人形の時と同じく、「パカリ」と開いた床の下へと吸い込まれた。だが、開いた床がもと通りに閉じたあと、そこで何が起きたのかを示すように、床一面が赤い絨毯と化していた。
『はい、第二ゲーム最初の勝者は、先ほど諸事情により第一ゲームを「お休み」していた、エントリーナンバー19番の”ヤスシ”さんです! 皆さんもご覧頂いたように、ほとんど痛みは感じなかったようですね。何よりです。さあそれでは、続いての勝者はいったい誰になるのか。残り時間はあと7分、張り切って参りましょう!!』
何が「何より」で何が「張り切って参りましょう」なのか、全くわからなかったが。男が切断される場面を間近に見た参加者の数名に、明らかに「異変」が起きていた。普通なら、これほどの惨劇を目の当たりにしたならば、それまで以上に恐怖を感じるところなのだが。なぜか逆に、「自分もああなりたい。いや、ああならなければ」という思いが、何人かの中にふつふつと沸き上がっていた。
もしかしたらそれは、特定の種類の動物が次々に海へと飛び込み、集団自殺をする時のような。あるいは、ハーメルンの笛に導かれた子供たちのような、そんな「共通の潜在意識」がいつの間にか、この異常な空間の中で生まれていたのかもしれない。ともあれ、はっきりとした理由は不明だが、ガタいのいい男の自決行為が、何名かの心に「火をつけた」のは間違いなかった。そしてその異常な精神状態を、ガイドマンの言葉が後押しした。
『ここで皆さんに耳寄りな、追加の情報をお伝えしようと思います。先ほど第一のゲームの際に、生き残ってしまった敗者の方は、帳消しにした勝者の方々の合計となる、莫大な額の負債を返済して頂くことになる、と申し上げましたが。では、どのようにしてそんな負債を返済するのか? についての一例を、ここで挙げてみます。
まず男性の方も女性の方も、日中は肉体労働に専念して頂きます。朝の7時から夕方の5時まで、およそ10時間程度の労働になるかと思います。そしてその後は、こちらも「肉体を使う労働」には変わりないのですが。このイベントに出資して下さって頂いているスポンサーの方々への、「肉体奉仕」をして頂きます。こちらも、「男女問わず」です。
この肉体奉仕がだいたい夜中の0時くらいまででしょうか、おおまかな目安としてスポンサー1人につき2時間、夕方から夜中まで毎日3人程度の相手をすると考えて頂ければいいでしょう。その後に就寝、そして朝6時に起きて7時から再び肉体労働と、これが負債返済のためのスケジュールになります。そんな毎日を、命の火が途絶えるその日まで、続けてもらうわけですね。
さあ、いかがですか? そんな毎日は送りたくない、そう思いませんでしたか? ならばどうぞ、我先に。栄えある「勝者」になってみませんか?!』
ガイドマンは、かなり簡潔に敗者の辿る道を説明したが。その毎日がどれだけ苦痛に満ちた、地獄のような日々になるのかは、深く考えずとも明白だった。そしてそれは、精神状態に異変が起きた奴らを刺激するのに、十分過ぎるほどの効果があった。
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