第二のゲーム(2)


 列の最後になった拓也たちが扉をくぐると、すぐ後に続いていた黒服男たちが、外側から扉を「がちゃり」と締め切った。見渡す限り、だだっ広い部屋の中に、他の出入り口はない。ゲームが終わるまで、ここからは出られないということなのだろう。



 部屋は扉の方から見て長方形の形をしていて、特に何か仕掛けがあるようにも見えず、倉庫内にあった円筒形の建造物のようなものも見当たらなかった。あえて例えるなら、壁にボールを打つスカッシュの練習場、あれのもう少し広いバージョンと言えるかもしれない。


 いったいここで何をするのかと、扉近くに固まったままの参加者たちが考えていると。前方の壁が左右に開き、内側にあったモニターに、能面を被った例のガイドマンが映し出された。



『それでは皆さん、第二のゲームの説明を致します。ここでも先ほどと同じく、他の人に先んじて「ゲームを離脱した方」が、勝者となります。


 では、ここではどのように「離脱」をするのか。ここは細かく説明するより、実際に見て頂いた方がわかりやすいでしょう』



 ガイドマンのその言葉と同時に、部屋の天井の一部が「パカリ」と開き。そこから、ロープに吊るされた人形が降りて来た。その人形は手足の関節をネジのようなもので繋いであり、自動車の人身事故実験などで使われる、ダミー人形らしかった。


 参加者たちはちょうど扉付近に固まっていたため、天井のほぼ中央から降りてきた人形が、参加者たちの手前に吊り下がる形になり。続いて人形を降ろした箇所から天井が縦に裂け、レールのようなものが姿を見せた。そして釣り下がった人形はそのレールに沿うように、モニターのある前方の壁に向かってするすると進み始めた。……すると。



 やにわに、壁の左右から「きーーん」という耳触りの悪い金属音が聞えたかと思うと、「しゅぱっ!!」と赤いレーザー光線のようなものが、壁から幾重にも放たれた。


 その左右から放たれたレーザーは部屋の中央で互いに交差しあい、そしてその交差した地点に向かって進んでいたダミー人形は。レーザーに触れた瞬間、「ザクザクザクッ!!」と、その体を瞬時に切り刻まれた。



 突然の出来事に、参加者たちが「ビクッ!」と身を縮こませる中。切り刻まれた人形の手足や動体、頭などが、部屋の床に無残に転がった。その直後、転がった床が「パカリ」と大きく開き、人形の破片はその下へと落ちて行った。


『ご覧頂いたように、部屋の左右からレーザー光線が発射され、そこに近付いた人物をゲームから「離脱」させる仕組みになっています。第一のゲームでの、飛び降りている間に気を失ってしまうケースと違い、今回はいくらかの「痛み」を感じることになりますが。今しがた見て頂いて通り、あっという間に全身を切断しますので、苦しむ時間はそう長くないはずです。


 さあ、それでは今回も、制限時間は10分です。10分経過するとレーザーは消え、生き残った方は次のゲームに進んで頂くことになります。では、栄えある勝者を目指して、皆さん頑張って下さい!!』



 参加者たちは互いに顔を見合わせ、「マジかよ」「あの人形みたいになるのか……?」と囁き合った。さっきは亀裂に飛び込んだ者たちの、その「死にざま」までは見ることがなかったが。今度は目の前で、生身の人間が「切り刻まれる」のだ。そこまでやるのか、このイベントは。そこまでしなくてはならないのか……?


 そこで第一のゲームと同じように、部屋の中に軽やかな「運動会音楽」が流れ始めた。かといって、それに押されてレーザーの中へと飛び込もうという動きは、今のところ見られない。それぞれの顔色を伺い、「さすがにこれは」と躊躇う気持の方が強いように思われた。

 


 と、そこで。

 先ほどくぐった入口の扉が「がちゃり」と開き、1人の男が黒服男たちに連れられ、強引に部屋の中へと押し込まれた。扉はすぐに閉まり、押し込まれた男は目の前のいる参加者たちの前で、ゆらりとその顔をあげた。それは、第一のゲームで「俺はゲームから降りる!」とエレベーターを叩き、高圧電流を浴びて黒服男に連れ去られた、あの「ゴツい体格の男」だった。


 しかし、怒り心頭といった感じでエレベーターを叩いたあの勇ましい雰囲気は、今は微塵もなく。明らかに顔がやつれ、唇の端には血が滲んでいた。恐らく電流を浴びただけでなく、連れ去られた後に、黒服男たちから何かしらの折檻を受けたのではないか。そう思うのが自然なほど、ゴツい男は全身から痛々しさを醸し出していた。


 そしてゴツい男は、いきなり「がばっ」と立ち上がると。他の参加者たちの注目を浴びる中、「あああ、うあああ……」と力なく呟き。続いて、「うわあああああ!!」と叫ぶように声を発すると、前にいる参加者たちを押しのけるようにして、部屋の前方、つまり赤いレーザー光線が交差する中へと、まっしぐらに駆け出していった。


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