第二のゲーム(1)
『最後の勝者は、エントリーナンバー26番の”アタル”さんでした! それでは、残念ながら最初のゲームはここまでとなります。生き残ってしまった皆さんは、指示に従って次のゲーム会場へ移動して下さい』
ガイドマンの声が響き、再び大型モニターが上にせり上がった。すると、先ほどまで大きな口を開けていた亀裂の上に、鉄製の橋のようなものが架かり。どうやら、この橋を渡って次の会場へ行けということらしかった。
そこで、参加者たちが降りてきたエレベーターの扉が「すうっ」と開き。あの「サングラスで黒服の男たち」が、今度は2人ではなく5名ほどの「小団体」となって、エレベーターから降りてきた。5人はそれぞれに、あのスティックタイプのスタンガンを手にしており、「指示に逆らうことは許すまじ」という雰囲気をプンプン漂わせていた。
『それでは皆さん、橋を渡って下さい。橋に近い人から順番に、列を作って渡り、その先にある扉の中へとお進み下さい』
今度はガイドマンではなく、何か「ウグイス嬢」のような場違いとも言える爽やかな女性のアナウンスが会場に流れ、橋に近い位置にいた参加者が「自分たちのことか」と辺りを見回し、背後にいた黒服男と目が合い。黒服男の有無を言わさぬ迫力に押され、2人ずつ並んでトボトボと橋を渡り始めた。
「アタルはエントリーナンバー26番だったのか。となると、その後に俺を含めて3人が待機部屋にいたわけだから、参加者は総勢29名ってことになるな。まあ、最後にキャンセルになった奴を入れれば、30名の予定だったんだろうが」
ダイスケが両手を後頭部のあたりに回し、「なるほど~」と言った風に呟いた。……こいつは相当図太い神経を持っているのか、それとも何かの病気で感情が揺れ動かないような症状を持っているのか? 拓也が思わずそう感じるほど、ダイスケの言葉はこの状況下において、あり得ないくらいに冷静だったが。同時に、参加者29名というのはその通りなんだろうなとも考えていた。
もちろん、拓也たちの前にもキャンセルした者がいて、待機部屋に5人揃わぬままここに来た連中がいる可能性もある。だが、参加人数が30名弱というのは、先ほどまで集まっていた人だかりを見ても間違いなさそうだった。……とすると、さっきのゲームで最初の奴から始まり、アタルまで5人が亀裂に飛び込んだから、残りは24名くらい、ってことか……。
拓也はダイスケにつられるように、そんなことを考えた自分に「はっ」と気付き、改めて唇をぎゅっと噛み締め、ダイスケやミヤコと共に、橋を渡り始めた。……気を確かにしていなくては、自分もアタルのように「自ら死を選ぶ」ことになりかねない。そうならないよう、ダイスケのように冷静でいなくては……いや。それでいいのか?
ガイドマンの言う通りに、ここは先に死を選んだ奴の方が「勝ち」じゃないのか。冷静に最後まで生き残ったら、先に死んだ奴の借金を背負わされて、一生奴隷のように働かされるんだぞ……? そんな風に迷うこと自体が、すでに「冷静ではない状態にある」とも言えたのだが。拓也自身にそこまで気付けるはずもなく、頭の中で混沌とした考えが堂々巡りするばかりだった。
「しかしまあ、詳しいことは何もわからないが、アタルの奴は相当借金に苦しんでたんだろうな。飛び込んだ他の奴もそうだったけど、これまでにもきっと、死のうと考えたことが何度もあったんだろう。じゃないと、ここで決断することも出来ないだろうしな……いわばこのイベントは、決して自殺を強制しているわけじゃなく。死のうと考えてた奴の、『背中を押してるだけ』と言えるのかも。って、俺の人のことは言えないし、だからこそこうしてここにいるんだけどな」
ダイスケはポリポリと頭をかきながらそう言って、拓也とミヤコの方をチラリと見た。
「あんたらもそうなんだろ? しかし、自ら死を選ぶか、他の奴らの借金を背負ってでも、生き残った方がいいのか。どうするのが『正解』なんだろうな……?」
冷静に見えたダイスケも、自分と同じく「迷い」を感じているのだとわかり、拓也は少しだけほっとしたが。ほっとしたところで何の解決にもなっていないことも、重々承知していた。今はただ流れに任せて、「次のゲーム」に進んで行くしかないのだと。
そして橋を渡った参加者たちは、扉をくぐって次のゲーム会場へとたどり着いた。そこは先ほどまでいた「天然の洞窟内」とは違い、四方を白塗りの壁に囲まれた、殺風景な部屋だった。
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