第一のゲーム(3)
『さあさあ、次々と勝者が誕生しています! エントリーナンバー8番の”ユウスケ”さん、同じく12番の”シンゴ”さん。そして初の女性勝者となりました、16番の”ユキエ”さん! 彼ら、そして彼女は自らの手で、栄冠を手にしました。さあ、残り時間はあと2分です。迷っているヒマはありません、早いもの勝ちですよ!!』
まるでスーパーのバーゲンセールやパチンコ屋のサービスタイムがもうすぐ終わるかのような、そんな嬉々としたガイドマンの声が、会場中に響いていた。
「おい、嘘だろ……? まさか本当に、飛び込んで行く奴がいるなんて。これ、ドッキリじゃないよな? 俺たち、騙されてないよな?!」
待機部屋での策士然とした振る舞いはどこへやら、ダイスケは目を血走らせて、拓也やアタルにそう問いかけた。しかし拓也の方も、誰かにそう問いただしたい心境だった。倉庫に入るまでは、もしかしたドッキリかもしれないと思っていたが、ものものしい黒服男の態度などから、これはどうやらマジなイベントらしいと思い始めた。そしていよいよそのイベントが始まったかと思ったら、こんな現実離れしたことが起きるなんて……!!
ガイドマンが言っていたように、先ほどまでは見上げるような頭上にあった大型モニターが、今は随分と下がって来ていて、身を屈めなければ亀裂には飛び込めないくらいの位置まで来ている。あと2分弱で、あの隙間は完全に閉じてしまうのだろう。と、そこで。
飛び込んで行った奴らをじっと見つめ、待機部屋でもそうだったように腕組みをして立ち尽くしていたアタルが。「すっ」と、前に向かって歩き出した。つまり、もうすぐ閉じようとしている「亀裂」の方へと。
拓也もダイスケも、「まさか」と思いつつ。アタルが何も言わずゆっくりと前に進んでいるのを見て、ダイスケが「おい、お前……?」と後ろから声をかけた。しかしアタルは何も聞えなかったかのように、そのまま歩き続けている。
「おい、待てよ! まさかお前、飛び降りようとか思ってるんじゃないだろうな?!」
全くリアクションのないアタルの後ろ姿を見て、ダイスケが思わずそう叫んだ。するとアタルの歩みが、ピタリと止まり。まるでゼンマイ仕掛けの人形のように、「くるり」とこちらを振り向いた。
「……ああ、そうだよ。僕はもう、思い残すことはないから。家族に借金を背負わさずに済むなら、それに越したことはない。
それに君の言ってた『グループ戦術』も、このイベントでは役に立ちそうもないからね。だから君に、僕を止める権利はないはずだ。僕がいようといまいと、君には関係ないんだから」
「思い残すことはないって、お前……」
ダイスケはなんとかアタルを説得しようとしたが、それ以上かける言葉が見つからなかった。ここで死ぬことはないだろうとか言っても、アタルの過去については何もわからない。生き続ける方がいいか死を選ぶ方がいいのか、事情を知らない第三者に判断できるはずがない。しかしこの会場に来ている時点で、誰もが何かしらの重荷を背負っているのは間違いない。ダイスケもそれは同じで、だからこそ「家族に迷惑がかからないなら」というアタルの主張は、十分に理解できたのだ。
そしてダイスケが提案した、4人で協力しあってゲームを勝ち進むという案が「役に立ちそうもない」というのも、全くその通りだった。このゲームの「勝者」とは、ゲームから離脱した者、つまり亀裂に飛び込んで行った奴らのように、自ら死を選んだ者なのだ。4人で協力して生き残っても、死んだ奴らの借金を背負うという「罰則」が圧し掛かるだけだ。
それゆえにダイスケは、再びずんずん前へと歩き始めたアタルを、止める術がなかった。強引に引き留めたところで、何も解決するわけではないのだから。拓也も何か言わなければと思いつつ、自分より口が達者に思えるダイスケが何も言えないのであれば、自分にはもっと言うことがないと考え。唇を噛み締め、アタルの背中を見送るしかなかった。
ガタガタと震えていたミヤコは、ダイスケと拓也の顔を見比べて、アタルを引き留めるようなことを言ってくれないかと期待していたようだが、それは無理な話だということに自分でも気付き。今にも泣き出しそうな顔で、アタルの背中を見つめていた。
そしてアタルはそのまま、先に飛び込んで行った奴らと同じく、全く躊躇することなく。亀裂の前まで歩いてきたスピードを緩めずに、まるでまだ地面が続いているかのように、裂け目に向かって足を踏み出し。拓也たちの視界から、「ふっ」と消えていった。
アタルの姿が消えたその数秒後に、モニターは元の位置へと着地し。亀裂は完全に閉じられ、それは「第一のゲーム」が終わったことを示していた。
「これが、俺たちへの救済企画だっていう、”バトル・スーサイド”の正体か。マジで、とんでもねえイベントだな……!」
ダイスケが吐き捨てるように言い放ったその言葉に、何か言い返そうとする者も、さりとて同意する者もおらず。拓也たちと同じく「生き残ってしまった」、しんと静まり返った他の参加者たちの間に、ただ虚しく響いただけだった。
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