バトル・スーサイド詳細


 皆さんに、「生かし合い」をしてもらう……?


 学生たちが孤島で殺し合う、某映画での開会宣言に似た文句ではあったが、その内容は全く違うというか、「真逆」に感じられた。


「生かし合いって。どういうことだよ……?」


 すぐ脇にいたダイスケが、怪訝そうな顔でそう呟いた。それは拓也も同じ気分だったし、恐らくここにいる参加者たちのほとんどがそう思っているだろう。もしこのイベントに参加するのが初めてではなく、何回目かの参加だったらそんな疑問も抱かないのだろうが、見た限りみな不安そうな顔をしているし、誰かが他の誰かに説明しているような様子もなく。やはりここにいるのは「初参加」の者たちばかりなのだろうと思われた。



 そしてガイドマンはそんな会場のざわめきを他所に、イベントについての説明と訥々とつとつと語り始めた。


『これから皆さんに参加して頂くゲームは、互いに争って「生き残り」を決めて頂くのではなく。誰が他の人より先んじて、いち早くゲームから「脱落」するか。それを争ってもらうことになります』



 誰がいち早く、ゲームから脱落するか。……だって??


 先ほどの開会宣言以上に、その言葉は意味がわからなかった。招待状には、「優勝者に、借金帳消しの特典を付与する」と書かれていたはずだ。


「生かし合いとか脱落を争うとか、いったいなんのことだよ?!」


 我慢しきれなくなったのか、拓也たちより少し離れた位置にいた、ヤンキー風の青年がそう叫んだ。それをきっかけに、会場のあちらこちらから「そうだそうだ!」「ガイドマンとか言ってるけど、話してる意味が全然わからねーぞ!」という声が沸き上がり始め。ダイスケもここぞとばかりに、「どういうことだよ、わかりやすく説明しろよ!」と声を張り上げていた。


 ガイドマンはそんな会場の様子を、手元にあるらしい自分用のモニターで見ているのか。少しの間沈黙したのち、「ふふっ」と笑い……いや、仮面を被っているので表情まではわからないのだが。確かにそんな、「ほくそ笑む」ような声が漏れ聞こえたような気がした。



『意味がわからないというお声、詳しく説明しろというお声。ごもっともだと思います。それでは、先ほど私が述べた言葉の詳細を、解説させて頂きます。


 まず、皆様にお渡しした招待状。そこには、優勝者が抱えている借金を、上限なしで帳消しにすると記載していました。この文言に、嘘偽りはありません。私たちはその言葉通りに実行することを、ここで改めてお約束します。ただ、この「バトル・スーサイド」に於いては、特典を付与する「優勝者」の概念が、通常とは異なっているということですね。


 バトル・スーサイドでは、いち早くゲームから脱落した方を「勝者」と見なします。つまり通常のゲームとは逆に、生き残ってしまった方が「敗者」になるわけですね。そして勝者となった方の借金は、先ほど申し上げた通り、上限なしで全額帳消しに致します。ということは、招待状に記載した「優勝者」が複数名出ることになるのですが、「優れた勝者」が1人とは限らないですからね。このゲームに於いても、複数の勝者が存在するということです。


 そして幾つかのゲームを行ない、最後まで残ってしまった「敗者」の方には……それまでにゲームを脱落した方々、つまり「勝者」の方々の負債を、全て担って頂きます。集まって頂いた人数からして、相当な金額になることは想像に難くありません。


 そんな金額を背負って、果たして返済できるのか? とお考えかもしれません。しかしこの点に関しては、私どもは然るべき方法を用意しております。具体的にどんな方法になるかということは、ここでは明言しませんが。皆さんは身体的に健康であり、不慮の事故や病気にならない限り、あと数十年は生きていけます。その数十年の全て、一日24時間、年間365日の全てを、返済に充てて頂きます。


 厳重な監視のもと、敗者の健康面も確認し、決してすぐに死ぬことのないよう留意して。勝者の皆さんの借金を、一生涯をかけて返済して頂きます。恐らくは地獄のような日々が、死んだ方がましだと思うような日々が延々と続くことになるでしょう。それが、このゲームの敗者に課せられる「罰ゲーム」となるわけです。そうならないためには、皆さんは先を争って、我先にとゲームから離脱するしかありません。


 それでは、皆さんで争ってもらうことになる「ゲームからの離脱」とは、どういうことなのか。一番重要なこの点を、最後にご説明致します』



 あまりに常識外れで、色々と予想や想像をしていたその右斜め遥か上の、果てしない向こう側とも言えるとんでもない「イベント詳細」に。参加者たちが呆気に取られ、愕然とし、言い知れぬ沈黙が会場内を支配する中。前方にあった大型モニターが、ゆっくりと上方へせり上がり。モニターのあった場所に、絶望を絵に描いたような文字通りの「崖っぷち」が、静かに姿を見せ始めた。


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