イベント会場へ


「まあ、俺のことが信用出来ないっていうなら、好きにすればいいさ。俺にしてみれば、あんたたちが有利になるような条件を提示しているつもりなんだけどね? それで損をするのも得をするのも、あんたたち次第ってことだ。まあ、損をするのは目に見えてるけどね……」



 ダイスケは意味ありげな笑みを浮かべながら、アタルの問い掛けにそう答えた。何かいかにも「私の言う通りにしないと損をしますよ」みたいなことを言っているが、これは詐欺とかの常套手段だ。拓也も以前何かの勧誘メールを受け取り、断ろうとするとこんな風に「あなたに有益なお話ですのに、なぜ断ろうとするんですか?」などと、あたかもこちらが悪いような返事をされたことがある。自分から勧誘しておいて、断るとそんな風に言うなんて、居直り強盗みたいなもんだ。


 拓也はそう考えていたものの、何か言おうものならまた理屈をこねて来そうな気がしたので、言葉にすることなく黙っていた。 


「どうやらタクヤとアタルの男性陣2人は、手を組もうっていうせっかくの案に否定的みたいだな。ミヤコちゃんはどう? 女子1人で頑張るよりも、男と協力しあった方が何かと便利かもよ?」


 するとダイスケはそう言いながら、ミヤコのすぐ隣に近付き、馴れ馴れしく肩に手を置いた。ミヤコは相変わらずキョドったような目付きのまま、「あの、ええっと。いい考えだとは思うんですけど、その」と、どう答えればいいかわからないような口ぶりだった。


 拓也からすれば、せっかく一緒になった女子と仲良くなろうかと思っていたところで、金髪のチャラい男が現れ。その女子に馴れ馴れしい態度を取るものだから、少なからずムっとした気分になっていた。そこで「おい、答えを強要するような態度はやめろよ」とダイスケを制しようとした時、待機部屋のドアがおもむろに「がちゃり」と開いた。いよいよ最後の「5人目」が来たのかと思ったが、予想に反してドアを開けたのは、あの黒服の男だった。



「5人目はキャンセルになった。従って、この4人でイベント会場に行ってもらう」


 そう言って黒服の男は部屋のドアを開けたままにし、拓也たちに部屋を出るよう促した。……いよいよ、か。これからイベントが始まるんだな……? 拓也はそんなことを思いながら、キャンセルになったという「5人目」のことが少し気になっていた。


「あの、キャンセルになったっていうのは。当日になって行けなくなったとか、そういう連絡が入ったんですか?」


 試しに拓也が、黒服の男にそう聞いてみると。男はサングラス越しに拓也を「ジロッ」と睨みつけ、「余計な質問はするな。キャンセルはキャンセルだ」と、強めの口調で言いきった。


 ……もしかすると受付かエレベーター前で、「不合格」になった可能性もあるかと思ったがな。録画か録音のできる小型の機器を隠し持っていて、それを見つかったとかで。そこまでの詳しいことは、俺たちに伝えるつもりはないってことか……。


「いやあ、なんだかわくわくしてきたな。まあさっきの話はおいといて、お互いにベストを尽くそうぜ?」


 ダイスケは拓也とアタルの方を見ながら、あの「ニヤリ」というにやけた笑みを浮かべた。そこで拓也がミヤコの様子を伺うと、ダイスケの案に賛同するかどうか返答を迫られていたところだったので、少しほっとしてるように見える。……まあいずれにせよ、ここからが「本番」ってわけだ。さすがにちょっと緊張してきたな……。



 拓也のそんな思いを他所に、黒服の男は拓也たちを従えて、エレベーター前の廊下を真っすぐに歩いて行った。


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