イベント待機所(3)


 するとおもむろに、部屋の扉が「ガチャリ」と開いた。拓也もアタルも、ミヤコも一斉にドアの方を見つめると。「どうも~~」と軽い調子で言いながら、短い髪を金色に染めた男が入って来た。



「お、もう3人来てるんだ。これからイベントに参加する、お仲間ってことか。俺はダイスケ。宜しくね~」


 拓也も含めて、これまでに集まっていた3人とは明らかに違い。何か「チャラい」ような雰囲気のその男は、そう言ってまず自ら自己紹介をし。拓也が何か話しかける前に、ベンチの開いている個所にどっかりと座り込んだ。


「で、君らもあれ? 借金とか何か、背負っちゃってる感じ? まあ、かく言う俺もそうなんだけどさ。みんな、同じ招待状もらったんでしょ? 最初に読んだ時はなんだこりゃって思ったけどさ、でも借金を全額帳消しにしてくれるなんて、そんな上手い話滅多にないし、ダメ元で行ってみようかなと。みんなもそうなんでしょ?」



 拓也にしてみると、借金については「各自のプライベートなこと」でもあるので、あえてアタルにもミヤコにも聞かなかったのだが。(もちろん、自分のことを話すのもシンドいという思いがあった)まさかこんな風に自分から、しかも「軽い口調で」話し出す奴が来るとは、夢にも思わなかった。というか、そんな多額の借金を背負ったプレッシャーや辛さみたいなものが、金髪の男=ダイスケからは微塵も感じられなかった。


「まあ帳消しになるのは優勝者だけで、俺らは互いにそれを目指して争うことになるんだろうけどさ。ここで知り合ったのも何かの縁だし、せっかくだから仲良くやろうよ。ねえ、そっちの女子は名前なんていうの?」


 いきなり話しかけられ、ミヤコは先ほどよりも更にオドオドした様子で、「あ、はい。あの、私は、ミヤコ……って、言います……」と、語尾が消え入りそうなくらいの小声で呟いた。それから拓也とアタルにも同じように名前を聞き、ダイスケは他の3人を見渡しながら、「なあ、俺から提案があるんだけど」と、ニヤリとした笑みを浮かべた。



「たぶん参加者はここにいるメンバーだけじゃなくて、もっと他にもいるんだろ? で、俺たちはこれから優勝を目指して、互いに争い合うことになる。だったらさ、どうせそんな風に争うんだったら。ここはひとつ、ここにいる4人で協力しないか? あ、あともう1人来るのか、そいつも誘って合計5人だな。つまり、この5人でグループを作るんだよ。


 優勝者って言うからには、借金を帳消しにしてくれるのはたぶん1人だけだろうし、最後には個人戦になるんだろうけど。でもそこに行きつくまでには、幾つかの関門を超えていかなきゃらならないかもだろ? たいがいこういうイベントやゲームでは、何段階かに分けて参加者を順番に振り落とし、最後に残った数人が優勝を争うみたいになるじゃん。その『最後に残る数名』を、5人で目指そうってことだよ。


 まあどんなゲームをさせられるかにもよるけど、最初から完全な個人戦で臨むより、途中までは5人で協力しあった方が、断然有利になると思うんだよな。もちろん他にも、こういったグループを組んでる可能性はある。だとしたら余計に、こっちもグループにならなきゃ不利になるってことだよな? 


 どんなゲームかはわからないが、とりあえず5人でグループを組み、お互いに脱落しないよう協力しあう。それで5人が最終関門に残れたら、そこからはもう恨みっこなし。賞金をもらえるなら、優勝者を含めて5人で山分けにも出来るけど、そういうわけじゃないしね。まずはこの5人が最終関門に残れるよう、最善の策を尽くすべきだと思うんだ。どうだい?」



 ダイスケの思わぬ提案に、拓也は思わず「うむむむ」と唸っていた。最初のチャラい印象とは裏腹に、そこまで考えている「策士」だとは、思いもしなかったのだ。だが、もし最初の印象通り、こいつが「芯からチャラい奴」だとしたら。こうやって俺たちを誘っておいて、自分だけが抜け駆けをする可能性も十分にあるかも……?


 そんなことを考えながら、アタルの方をチラっと見ると。アタルは未だにじっと腕組みをしたまま、何かを考え込んでいた。そしておもむろに、ダイスケの方を見つめると。「でも……そうは言ってもさ」と、自分の思いを語り始めた。


「そう言いながら、あんたが抜け駆けするかもしれないじゃん。そうならない保証は、どこにあるの?」


 それは先ほど拓也が考えたことと、ほとんど同じだった。するとダイスケはそう聞かれるのがわかっていたとでも言うように、「ふふふ……まあね」と、再びニヤリと笑った。


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