第63話 番外編~プロポーズ

 ショーケースを覗くと、予想外に様々なデザインの結婚指輪が並んでいる。うーん、俺が勝手に決めてもいいのだろうか。だが、あいつはアクセサリーとは無縁だし、相談しても何でもいいとか、シンプルなのでいいとか言いそうだよな。

 よし、最もシンプルなものにしよう。内側には二人の名前を入れて。

「これ、ください。」

「はい、ありがとうございます。お試しなさいますか?」

「はい。」

で、サイズを測ったら16号だった。

「お相手の方のサイズは、お分かりですか?」

と、店員に聞かれた。しまった。忘れていた。まあ、大体俺と同じじゃないかな・・・。

 とはいえ、不安だったので、試す事にした。とは言っても、内緒だ。サプライズで渡したいから。そこで俺はある計画を練った。


 夜中の1時。寝たふりをしていた俺。雪哉が寝入った事を確認し、先日作った俺の指輪をこっそりと取り出す。先に俺の分だけ作ってもらった。それを雪哉の指にはめてみて、同じサイズでいいかどうかを確認するのだ。

 慎重に、指輪を雪哉の指に差し込む。そうっと。ん?この指でいいんだよな。ちょっと、第二関節に引っかかる。ぎゅっと押し込めば入りそうだが。雪哉の指は細いと思っていたが、俺よりも関節が太いようだ。そうか、あいつバスケをやっていたから、けっこう突き指とかしたのかもな。

 というわけで、俺の指輪よりも一つ大きいサイズにする事にした。試して良かったぜ。


 「どうしたの?こんな所に呼び出して。」

おしゃれなレストラン。窓の外にはきらびやかな夜景。

「うん、今日はさ、ちょっとした記念日だろ?」

「記念日?」

雪哉は首をひねっている。だが、

「あ、分かった。僕たちが出逢った日だ。」

笑顔になってそう言った。そう、今日はあのスキー場で初めて雪哉に会った2月7日。雪哉は俺の事をその前から知っていたものの、出逢ったと言えるのはこの日だ。だから、この日に思い切って言おうと思っていた。

 食事が終わり、食後のコーヒーが運ばれて来た時、俺は小箱を取り出した。例の指輪ケース。ここに二つの指輪が入っているのだ。

「雪哉、これを受け取ってくれ。」

雪哉の方を向けて、ケースをパカッと開けた。

「え?」

雪哉は驚いた顔をして俺を見た。そして、再び指輪へと視線を落す。じーっと指輪を見て、なんと涙を流した。

「え、え?なに?なんで泣くんだよ?」

驚かせようと思ったのに、俺の方が驚いてしまった。

「これ、どっちが僕の?」

雪哉はささっと涙を手の甲でぬぐうと、笑ってそう言った。

「はめてみれば分かるぜ。」

本当は、内側に書いてある字を読めば分かるのだが。

「あ、ぴったりだ。こっちが僕のだね?」

「そうだよ。」

「どうして指のサイズが分かったの?僕自身にも分からないのに。」

「あははは、すごいだろう。」

色々あった事は、内緒である。

「ありがとう、涼介。」

「受け取ったって事は、つまりOKなんだな?」

「ん?」

「俺と、結婚してくれるんだよな?」

「・・・うん。」

照れながら頷く雪哉。俺は雪哉の左手を両手で包んだ。指輪をちょっと触る。

「ちょっと、こんなところで。」

雪哉が周りを気にする。

「大丈夫だよ。人目なんて気にするなって。」

俺が優しく言うと、

「はい。」

素直に返事をする雪哉。いくつになっても可愛いなあ。一緒に暮らしていても見飽きる事がない。

「じゃ、役所へ行こうか。」

俺がそう言って立ち上がると、

「気が早いね。」

雪哉がそう言って笑った。

「善は急げって言うだろ。」

「はいはい。」

今日の日付で結婚したかったんだ。指輪の内側にも今日の日付を刻印してもらったしな。

 今の日本では、婚姻届は受理されないし、戸籍も一緒には出来ないけれど、区役所でパートナーシップ制度の申請は出来るから。婚姻と同等の権利が認められれば、里親になれる確率も上がると思うから。

 俺たちは新たな一歩を踏み出すのだ。

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