第61話 今度こそ信じて

 雪哉はうちのホテルにチェックインした。俺はその晩、宿舎に戻らず雪哉の部屋に泊まった。絶対に会えると信じていたけれど、いつになるか分からなかった。やっと目の前に現れた愛しい人は、きっと中身は立派になったのだろうが、外見はなんら変わりない、可愛らしい人のままだった。

 「雪哉、今どこに住んでるの?」

「東京。」

「そのまま、ずっと東京?」

「それは・・・。今職場を探しているところだから、まだ何とも。」

雪哉は、S大学を俺らと同じ時に卒業していた。留学した時、後は卒論ゼミを取って、卒論を提出すれば卒業出来る状態だったので、ゼミは特別にオンラインで受けさせてもらい、卒論を提出して卒業したというわけだ。俺も、雪哉がS大を卒業したという事は人づてに聞いていた。

 雪哉は頑張った。英語の勉強を頑張りながら卒論を提出し、心理学の勉強も頑張り、スクールを無事に卒業して戻ってきたのだ。

「だいたい目星は付いてるんだろ?」

ベッドに寝そべりながら、俺たちは2年半ぶりの会話をした。まずは近況報告を。いや、その前にまずは、愛を確かめ合ったわけなのだが。

「まあね。上手く行けば、都内の学校のスクールカウンセラーになれるよ。」

雪哉は、自分と同じような性的少数者を救いたいと言う。特に、思春期に戸惑う事が多い彼らに寄り添いたいのだとか。だから、中高生を対象にしたスクールカウンセラーを目指しているのだ。

「そっか。じゃあ俺も、東京に移るかな。」

俺が気軽にそう言うと、雪哉はビックリして体を起こした。

「え?どういう事?ここの系列ホテルが、東京にもあるの?」

「いいや。」

「じゃあ、どうやって?」

「転職だよ。このホテルを辞めて、東京のホテルに就職するんだ。」

「そんな、せっかくここで働いているのに、いいの?」

「どこでだって、ホテルの仕事は出来るだろ?俺がここに居たのは、いつかお前が来てくれるかもしれないと思ったからなんだから。」

働き方に縛られたくない。俺は、自分のいたい所にいる。何年勤めたからとか、スキーリゾートホテルの経験がどうとかには、こだわらない。

「お前がたくさんの少年少女たちを救うには、東京にいるのが一番いいんだろ?それなら、俺はお前の側にいる。だから、一緒に暮らそう?」

そう言って、俺は雪哉の目を見つめた。また、雪哉の目が潤んだ。

「なんで泣くんだよ?」

「だって。」

パジャマの袖で目を擦る雪哉。お前は何でそんなに可愛いんだ?

「返事は?」

そっと、抱きしめた。

「えっと、はい。」

袖を目から剥がした雪哉は、俯きながら、上目使いに俺を見て言った。

「よし。」

俺たちは一緒に暮らす。二人は居たいだけ一緒に居る。

「これからは、俺の事を信じてくれるよな?」

2年半前には信じてもらえなかったけど。

「うん。信じるよ。」

雪哉はそう言うと、俺の腰に手を回してギューっと抱きしめてくれた。

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