第41話 やっぱりね
バイトや課題やバンドの練習などもあり、一週間はあっという間に過ぎる。次のスキー部のトレーニングの日がやってきた。
先週は、雪哉が牧谷にこれみよがしに近づいて行った。今日は一体どうなるのかと不安に思いながら俺が姿を現すと、なんと!牧谷が雪哉の肩に腕を回しているではないか!仲間内で輪になって座ってしゃべっている。牧谷が無遠慮に雪哉にくっついているものだから、鷲尾は話しながらもチラチラと牧谷の腕に視線を走らせていた。遠目で見るとちょっとおかしい。
「よう。」
俺は思わず、牧谷が雪哉の肩に回している腕を振り払うようにして、二人の間に割って入った。すると、鷲尾がニヤッと笑った。
「よう、ミッキー。」
鷲尾が言った。牧谷の顔を見ると、明らかに憮然としている。雪哉はまだ俺の物なんだよ、というメッセージを視線に込める。冗談じゃない。牧谷には負けられない。
トレーニング中も、二人組になって柔軟体操をする時などは、牧谷が真っ先に雪哉と組む。仕方なく俺は鷲尾と組む。鷲尾も面白くなさそうな視線を牧谷に送る。でもごめん、鷲尾にチャンスはないぞ。元々、自分の方がリードしていると言っていた鷲尾だが・・・鷲尾よ、残念ながら全くそうではないぞ。
ランニングも終わり、解散になった。今日はこの後の約束をしていないが、一体どうしたものか。モヤモヤしつつも、みんなで着替えて外に出た。
少々薄暗い黄昏時。みんなで門の所へ行くと、
「涼介さん、見ぃつけた!」
と、女の子の声がした。近づいて来たショートボブの女子は、
「美雪!」
雪哉にそう呼ばれた、雪哉の妹だった。
「あ、お兄ちゃんもいたの?」
美雪ちゃんがそう言うと、
「え!?」
井村、鷲尾、牧谷が同時に声を上げた。
「もしかして、ユッキーの妹?」
井村が言う。
「うん。」
雪哉が答える。
「うわー、そっくりだね。」
井村が言うと、
「よく言われます。」
美雪ちゃんが可愛く答えた。そして俺の方に向き直り、
「涼介さん、ちっともうちに来てくれないから、迎えに来たわよ。」
と、言う。
「あのね、言ってるでしょ、俺は君には興味ないの。」
俺が言うと、
「えー、嘘でしょー。」
美雪ちゃんが俺の腕を手にとってぶらぶらさせる。
「やめなさい。」
俺はぶらぶらされていない方の手で美雪ちゃんの手を剥がした。すると、
「あ、美雪ちゃんって言うの?」
「すっごい、可愛いね。大学生?」
牧谷と鷲尾がずずいっと近寄ってきて、俺と美雪ちゃんの間に入ってきた。俺は押し出されて彼らの後ろへずれる。何だ何だ?
「ユッキーに妹がいたなんて、知らなかったよ。一緒に住んでるの?」
「うん。」
「へえ。あ、俺ね、牧谷って言うんだけど。」
「あ、そう。」
牧谷のやつ、まさかとは思うが・・・すっかり美雪ちゃんに夢中じゃねえか。鷲尾もそうだが、牧谷も必死に美雪ちゃんに自分を売り込んでいる。思わず目が点。
「はあ。」
少し離れたところで、雪哉が大きな溜息をついた。はっとして雪哉を見る。そうか、雪哉が言っていたのはこれか。自分に気がある男子が、美雪ちゃんを見ると途端にそっちに夢中になってしまうという現象。
実験したいと思っていたが、図らずも結果が出た。こいつらも、やっぱり例に漏れず美雪ちゃんの虜に。
「行こう。」
雪哉が俺の腕を取って歩き出した。
「ああ。」
美雪ちゃんを囲む男子らは放って置いて、俺たちは大学を後にした。
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