第39話 まさかのバトル

 後悔し、懺悔した俺は、改めて雪哉に電話をかけた。しかし、やっぱり出てくれなかった。


 雪哉は、俺が雪哉に対して持っていたイメージとは、ちょっと違っていたのかもしれない。あいつの性格を見誤っていたかもしれない。

 なんだかんだ一週間が過ぎ、またスキー部のトレーニングの日がやってきた。この数日の間、何度か雪哉に電話をかけたが、一向に出てくれないし、メッセージにも返事をくれなかった。

 俺が集合場所に行くと、みんな既に来ていた。雪哉もいた。どんな顔をして会えばいいのやら、とためらいながら近づいていくと、雪哉も俺が来た事に気がついた。そして、あろう事か、ササッと牧谷の横へ移動して座ったのだ。しかも、牧谷と腕を組むようにして、

「マッキー、今日暇?」

と、俺に聞こえるように大きい声で言ったのだ。周りにいた鷲尾や井村もぎょっとして雪哉と牧谷を見た。

「え、今日?うん、暇だけど。」

牧谷が少し狼狽えて答える。そりゃそうだよな、憧れのユッキーに腕を取られて話しかけられたのだから。

「じゃあさ、ご飯食べに行こっか?」

雪哉はそう言って、俺の方をこれ見よがしに見る。なんだー?俺に何か言って欲しいのか?うーん、ここで嫉妬して、俺と行こうなどと言ったら負けな気がする。

「あーあ、今日暇だなぁ。誰か一緒に飲みに行ってくれないかなー。」

つい、俺も大きい声で言いながら伸びをしたりして。ちらっと雪哉を見ると、ちょっと悔しそうに唇を引き結んでいる。しめしめ。

 すると、

「なーに?三木くん暇なのー?私も暇だから、一緒に行ってあげるわよ。」

って、スキー部外の女子から声が掛かった。

「え?」

驚いてそちらを見ると、確かにちょっと顔見知りの女だった。俺がどうしようかと思っていると、

「はいはーい!私も暇!三木先輩、私と一緒に行きましょうよー。」

今度は知らない女も寄ってきた。そして、俄にそこら辺がザワザワし始めた。

「やばい。」

俺、まずい事を言ったかも。ほら、雪哉がこれを止めてくれないと!そう思って、雪哉の方を振り返ると、ものすごく悔しそうな顔をして、こちらを見ているが、相変わらず牧谷の腕を掴んでいる。どうする?雪哉、お前はどうする?俺はどうする?

「ねえ、そしたらさ、ミッキーも一緒に行こうよ。俺たちと。」

そこへ、牧谷がたまらず声を発した。とりあえず、ナイス助け船だ。女どもは断って、牧谷と雪哉と俺の三人でご飯を食べに行くことになった。

 トレーニングが終わり、三人で近くのファミレスに入った。雪哉はササッと牧谷の隣に座る。そして、俺の事をチラ見するのだ。あーむかつく。俺は二人の前にどっかりと座った。

「あ、俺ちょっとトイレ行ってくる。」

牧谷はピューっと逃げた。あれ、なんで逃げるんだよ。二人で置いて行かれたら気まずいじゃないか。俺と雪哉は目を見交わしたが、とにかくそれぞれメニューを手に取った。

 沈黙が耐えられず、何か言わずにはいられなくなった。メニューに目を落しつつ、

「なんだよ、あれ。なんで牧谷を巻き込んでるんだよ。」

とりあえず、言いたい事を言ってみた。

「僕に幻滅したんだろ?嫌いになったんだろ?だったら、僕が誰と何しようがどうでもいいじゃないか。」

同じくメニューに目を走らせながら、雪哉が言う。完全に拗ねているな、これは。

「いや、だからそれは・・・。」

俺が言いかけると、牧谷が戻ってきた。なので、この話は一旦打ち切り、注文をした。

 三人では、とりあえず当たり障りのない話をしつつ、飯を食う。雪哉がドリンクバーの飲み物を取りに行った時、俺は牧谷にふと聞いてみた。

「そういえば、牧谷が雪哉に貸してた本って何?」

「ああ、法律の本だよ。」

と、牧谷が即答した。ふむ、牧谷は法学部だもんな。雪哉がなぜそれを借りたのかは知らんが、とにかく雪哉の言い訳は本当の事だったと認めよう。

「なんで知ってるの?ユッキーが俺に本を借りてた事。」

他意なく、牧谷が聞いてきた。

「え?えーと、この間ほら、その本を返した時の事をさ、ちょっと井村に聞いたから。」

また、バカ正直な俺が言うと、

「ああ、あの時ね。ユッキーが泣いてると思って、慌てて行ったんだよな。」

牧谷が言いながらちょっと笑う。

「そ、それで?雪哉は泣いていたのか?」

俺は前のめりに聞いたのだが、ちょうどそこへ雪哉が戻ってきてしまい、牧谷はもうその質問には答えてくれなかった。

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