第38話 後悔

 次の日の夜、バイトが終わって帰宅した頃、雪哉から電話がかかってきた。一瞬躊躇しつつも、雪哉の可愛い笑顔が頭に浮かび、電話に出た。

「もしもし?」

雪哉の声がした。俺が黙っていると、

「涼介、ごめん。美雪からちゃんと聞き出した。涼介は悪くないよね。でも、僕はトラウマになっていて、つい逃げ出してしまったんだ。」

雪哉が言う。誤解は解けたようだ。だが、あまり喜んでもいられない。牧谷の事があるから。

「別にいいよ。でもお前、それで昨日は牧谷を呼び出したんだろ?」

つい、冷たく言ってしまう。

「え?」

雪哉はそう言った後、しばらく黙った。だから俺は続けた。

「トラウマは分かるけどさ、それですぐに別の男に慰めてもらおうなんて、ちょっと軽くないか?」

「ち、違うよ!昨日はマッキーに借りていた本を返そうと思っただけだよ。慰めてもらおうとか、そんな事全然・・・。」

「でも、牧谷がお前の事を好きなの、知ってるんだろ?牧谷はお前からの電話ですっ飛んで行ったそうじゃないか。泣き落としで呼び出して、それで。」

「違うって!泣き落としなんて!」

「俺、なんかお前に幻滅したな。」

俺がそう言うと、しばらく黙った後、雪哉はそのまま何も言わずに電話を切った。


 うおー!俺は何をしているんだ。何て酷い事を言ってしまったんだ!言った3秒後に後悔した。雪哉は本を返す用事があって牧谷に電話をして、でも、多分泣いた後だったから声がおかしくて、それで牧谷が血相変えて出て行った。それが事実だろう。それで、会った二人がどうしたのかは分からないけど、まさかいきなり寝たりなんて事はしてないだろう。友達なんだから。

 ああ、それが分かっていながら、つい話の流れで感情が高ぶり、暴言を吐いてしまった。今までの雪哉の言動を見ていたら、そんな軽いやつのはずはないのに。俺はどうしてあいつを信じられなかったのだろう。今、声を聞いたら、ちゃんと以前の気持ちに戻っていたのに・・・。後悔先に立たず。

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