第37話 軽いやつ
急いで雪哉を追いかけた。しかし、マンションを出たらもう雪哉の姿はなかった。どっちへ行ったのか分からず、とりあえず駅の方へ行ってみたが、会えずじまいだった。メッセージを送ったが既読スルー。電話をかけたが出てくれなかった。もう仕方がない。夜にでもまた電話しようと思って一旦諦めた。
大学へ行って講義を終え、帰ろうとしたら井村に会った。
「あ、ミッキー、いいところにいた。」
そう言うと、俺をちょっと人の居ない方へ引っ張っていった。
「あのさ、ユッキーとはどうなってんの?」
井村は小声でそう聞いてきた。
「ああ、えーと・・・、無事つき合う事になったよ。」
以前、雪哉には恋人がいるからまだつき合っていないと話した事があったので、そう伝えた。ちょっと照れる。
「そうか、おめでとう。でも、それだとちょっと問題なんだけど・・・。」
井村は先程あった話を聞かせてくれた。
井村は、昼休みに牧谷とたまたま会って、一緒に学食で飯を食った後、座ってしゃべっていたそうだ。すると、牧谷の電話が着信した。
「もしもし、ユッキー?どうしたの?」
と、牧谷は井村の目の前で電話に出た。初めはのんびりとした調子だった牧谷は、だんだん深刻な感じになって、
「ユッキー、今からそっち行くから。今どこ?」
と言いながら立ち上がり、井村に目配せだけして、電話をしながら去って行ったそうだ。
「なんか、怪しい気がしてさ。まあ、ミッキーとユッキーがつき合ってるんだったら、俺の取り越し苦労だとは思うけど。」
と井村は言った。
その話が本当だとすると、雪哉が泣きながら牧谷に電話をかけ、辛い事があったから話を聞いて欲しいとでも言ったのではないだろうか。俺と美雪ちゃんの壁ドンシーンを目撃した雪哉が、自分を慰めてくれる相手を牧谷に定め、呼び出したのではないか。
目の前に、慰める牧谷と甘える雪哉の像が浮かんだ。男の事で辛い事があったからって、別の男に慰めてもらおうなんて・・・雪哉がそんな軽いやつだとは思わなかった。幻滅だ。牧谷に好意を寄せられている事を、雪哉も気づいているだろう。そんな、自分に好意を寄せている相手に慰めてもらおうなんて、なんて浅ましいんだ。雪哉がそんな男だったなんて。
だから、俺はその夜も電話をしなかった。
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