第19話 しっぺ返し

 梨花とは無事に別れる事が出来た。梨花から会おうという連絡が来ても、頑なに断り続け、とうとう梨花の方が諦めたのだ。

 俺が梨花と別れたという噂は、どうやら学内に広まっているらしい。そして、今までと同様、知ってる子知らない子、色んな女子がやたらと俺に会いに来る。

「三木涼介さん、私とつき合ってください!」

通りすがりにいきなりそう言ってきて、プレゼントを渡されたり、

「三木くん、今フリーなんでしょ?今度は私とつき合おうよ!」

と、腕を捕まれたり。

 いつもなら、早い者勝ちで「彼女」にしていたから、こんな風に大勢から言われる事はなかった。だが、今の俺は以前とは違う。

「ごめん、君とはつき合えないんだ。」

と、通りすがりだから、それだけ言って去る。

「えー!なんでー!」

と、大抵キレられる。だが、俺の知った事ではない。俺が誰とつき合おうが、俺の勝手だ。


 「聞いたぜー、涼介。お前今、彼女いないんだって?彼女途切れたことなかったのに、なんと2ヶ月もフリーだなんて。やっぱりスキー部にいい人がいるのか?」

同じ授業を取る事の多い、腐れ縁が続く篠崎。新学期に会って早々、これを言われた。

「何それ。」

俺が素っ気なく言うと、

「噂になってるぞ。お前がスキー部の女子に惚れて、いきなりスキー部に入ったって。」

篠崎が言う。そんな話になっているのか。困ったな。スキー部の女子は少ないのに、そんな噂が立ったらかなり迷惑をかけているのではないだろうか。

「なあ鷲尾、お前スキー部だよな。涼介の好きな人って誰なんだ?知ってるんだろ?」

篠崎が、すぐ前に座っている人物の肩をポンと叩いてそう言った。その人物が振り返った。

「あ、ワッシーじゃん。」

俺は驚いて声を上げた。

「おぉ、ミッキー!久しぶりだね!」

鷲尾も驚いた様子でそう言った。俺らはずっと近くにいたのだろうが、知り合いになり損ねていたらしい。スキー部に入った事で、やっとお互いを認識したのだ。

「鷲尾、どうなの?涼介の好きな人、知ってるんだろ?」

篠崎はしつこく聞く。

「好きな人?いや、知らないけど。」

鷲尾はそう言った。

「そうなのか?でも、心当たりくらいはあるんだろ?」

いや、篠崎しつこい。鷲尾は俺をじっと見た。その様子を見て篠崎が、

「あ、やっぱり心当たり、あるんだな?誰?何年生の人?」

と、迫る。

「心当たりは、あるにはあるけど。」

おいおい、鷲尾。

「誰、誰?」

篠崎が更に迫るが、

「多分俺と同じ人だから、言わない。」

「マジ?マジかあ。そんなにモテる人なのか。ますます興味持っちゃうなー。俺もスキー部に入ろっかなー。」

頼むから辞めてくれ、篠崎。だが、鷲尾はやっぱり心当たりありか。そして、それはバッチリ正解だよ。

「そうだミッキー、今日部活あるけど、行く?」

鷲尾は俺にそう言った。

「え、うそ!スキー場行くの?」

俺はびっくり。

「何言ってるんだよ、そんなわけ無いだろ。階段でトレーニングだよ。週に一度、トレーニングがあるんだ。そろそろLINEに集合時間が入ると思うよ。」

「そ、そうか。びっくりした。トレーニングね。うん、行くよ。」

とにかく雪哉に会えるのは嬉しい。


 校舎の1階、階段近くの廊下で集合したスキー部。きっと、いつもは少人数でひっそりと行っていたのであろう。なのに、何だか今日はギャラリーがざわついている。それぞれジャージ姿などで集合した俺たちを、普通の私服を着た人達、主に女子達が、遠巻きに見ていた。

「なんか、やりにくいな。」

部長の山縣さんが言った。山縣さんは4年生で、そろそろ部長を引退するらしい。次の部長をどうするか、夏休みには決めるそうだ。俺たち3年生の中で。

 俺らは準備体操をし、階段を1階から5階まで、10往復走った。スピードはゆっくりだが、階段なので相当きつい。因みに、女子は5往復だった。雪哉はいたけれど、俺の事はやっぱり避けていて、近づく事が出来なかった。

 女子が先に終えて1階で休んでいるのを、俺ら男子は横目で見ながらまた階段を上がって行くわけだが、何だか、ギャラリーの女子たちがスキー部の女子にズリズリと近寄っているように感じた。気のせいかと思ったが、俺が10往復して戻ってきた時には、そのスキー部内外の女子達が混じり合っていた。ちょっと、興奮気味な声も聞こえる。

「あれ、どうしたの?」

先に到着していた井村に聞いてみた。すると、

「君の事を話していたみたいだよ。」

と、言われた。何だって?

 俺が廊下に座りこむと、スキー部の女子が俺の元へやってきた。

「三木くん、ちょっといい?」

威圧的な声。

「はい?」

座ったまま、4年生の女子の先輩を見上げると、

「迷惑なんだけど。私が変に疑われているみたいで。」

と、言われた。

「は?何ですか?」

「三木君を取るなとか?ハッキリしろとか?何だか分けわかんない事言われるのよ。つまりあれでしょ、三木君の好きな人がスキー部にいるという噂が流れていて、つまり私たちの中にいると思われてるんだよね?でも、どう考えても違うよね?全然そんな素振りは見せないし。三木君、ちゃんとハッキリ言ってやってよね。好きな人はスキー部の女子じゃないって。」

ごもっとも。

「はい。ご迷惑をおかけして、すみません。」

俺は小さくなって頭を下げた。

「頼むわよ。」

先輩はそう言って、俺の元を去った。何のしっぺ返しなのか。女を甘く見ていたせいなのだろうか。ないがしろにしていたからだろうか。

「しかし、どうやって・・・。」

言ってやってと言われてもね。聞かれれば違うと言えるけれど。ああ、でもスキー部に好きな人がいるのかと聞かれたら、ノーとは言えないぞ。スキー部の女子かと聞かれたら、違うと言えるけれど。

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