第7話 いつも笑ってる

 一日の活動メニューを終えると、後は自由にコースを滑っていい時間になった。暗くなるまで、好きなだけ滑っていいのだ。俺は中級コースを2周ほど滑ったが、疲れたので早々に引き上げた。上級者は上級コースを滑りに行く。また雪哉が滑る所が見たい。だが、俺が上級コースに行くのはちょっと無理がある。最後の日には頑張って行こうかな。

 部屋に戻ると、既に鷲尾と井村は戻っていて、俺の後すぐに牧谷も戻ってきた。

「ユッキーはまだ戻って来ないんだろうね。」

牧谷が言った。

「真っ暗になるまで戻って来ないよ。」

鷲尾がそう言って笑った。

「ミッキーはいいよな、ユッキーと背が同じくらいでさ。」

牧谷が言った。だから、ミッキーは辞めろと言ったのに。でもまあ、こいつらはワッシー、マッキーの仲だから、仕方ないか。井村はイムラだけど。

「何、みんな雪哉の事狙ってんの?」

ほんの冗談で言ってみただけなのに。

「まあね。」

牧谷は真顔で言った。

「うそっ。マジで?」

俺が言うと、

「俺の方が、ちょっとリードしてると思ってるんだけどねー。」

鷲尾も真顔で言った。

「どうだかな。あ、俺は違うよ。彼女いるし。」

井村が言った。

「なんで・・・元々男が好きなの?」

俺が言うと、

「いや、そんな事はないさ。男を好きになったのは、ユッキーが初めてだよ。」

牧谷が言う。鷲尾は自分がリードしていると言うが、牧谷の方がイケメンだと思う。背も高いし。鷲尾は背が低くて、ちょっとおっさんぽい気がする。俺の主観だが。

「ミッキーは?やっぱり狙ってるの?ユッキーの事。」

牧谷に言われて、一瞬ドキリとした。

「え?いや、俺は・・・彼女いるし。でも、雪哉はスキーが上手くてかっこいいなーと・・・。憧れ、かな。」

「分かる分かる。俺も、ユッキーはかっこいいと思うよ。いや、可愛いかな。ユッキーっていっつも笑ってるよね。すごく癒やされるよ。」

井村が言った。俺は大きく2度頷いてしまった。そう、雪哉はいつもニコニコ笑っていて、周りを明るくしてくれる。男子には稀な存在だ。で、鷲尾と牧谷を見ると、うつむいて黙りこくってしまった。だが、ほんの少し微笑をたたえている。うっ、キモい。恋しちゃってる顔だよ。

「ただいまー。」

雪哉が部屋に戻ってきたので、俺たちは異常なほどびっくりしてしまった。声も出ないくらいに。

「どうしたの?鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔して。」

雪哉がそう言って笑った。その表現、ちょっと古くさくないか?だが、その笑顔にはやっぱり癒やされる。

 と、そこで唇が触れた事を思い出してしまった。ドキン、と胸が鳴った。何を意識しちゃってるんだか。キスくらい、珍しい物でもないのに。だけど、雪哉の顔を見るとつい思い出してしまう。それに、雪哉の顔はやっぱり可愛い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る