第5話 なぜスキーが上手いのか

 俺は自分のサークルにさっさと別れを告げ、スキー部が泊まっている宿へ引っ越した。いつも何となく、で生きている俺にしては、今回の判断力と実行力は驚愕の境地だ。

 サークルの方はホテルだったのに、スキー部の宿は合宿所。だいぶレベルが下がった。だが仕方ない。宿泊日数が違うのだ。サークルの方は2泊3日だが、スキー部は一週間泊まるそうだ。やばい、俺パンツない。

「き、急に入部とは・・・奇特な人がいるもんだね。」

スキー部の部長である山縣さんが、メガネを片手で押し上げながら言った。

「すみません。俺、サークルじゃ物足りなくて。俺もスキー部の人達みたいに上手くなりたくて。」

俺がそう言うと、神経質そうな顔から、まんざらでもない感じに変化した山縣部長。

「まあ、そうだろうね。いいだろう。宿の人には了解を得ておくから、君は他の2年生と同じ部屋に泊まってくれ。」

「はい!あっざーす。」

というわけで、2年生の部屋を教えてもらい、入って行った。

 今日の活動を終えた夕方。みんながスキー道具を乾燥室に置いて、続々と部屋に戻っている。続々と、とは言っても、一学年5人もいればいい方だ。4年生は2人しかいないので、3年生と合同の部屋だそうだ。

 2年生は4人だったが、俺が入って5人になった。部屋は10畳ほどの広さで、布団も余っていたし、一人増えたところで特に問題ないようだ。

 夕食は食堂で一斉に済ませ、お風呂は思い思いに大浴場で済ませ、部屋で布団を敷いた。さてさて、ちゃんと自己紹介をしないとな。

「あの、俺三木って言います。経済学部です。今日からよろしくお願いします。」

すると、4人が俺の周りに丸くなって座り、一人一人自己紹介してくれた。

「俺は鷲尾。俺も経済学部です。よろしく。」

「牧谷です。法学部です。よろしく。」

「井村です。情報学部です。よろしく。」

「僕は鈴城です。文学部です。よろしく。」

へえ、雪哉君文学部か。

「ユッキー、学科は?」

「心理学科だよ。」

ユッキー?雪哉だから?鷲尾が雪哉をそう呼んだ。それにしても、同じ部でも学科までは知らなかったようだ。こいつら、まだそれほど深い付き合いじゃないんだな。

「そうなんだ。知らなかったなあ。」

牧谷が言う。

「あの、ユッキーって・・・。」

俺は一応確認してみた。すると、

「ああ、鈴城君は雪哉だからユッキー。鷲尾はワッシーで、牧谷はマッキー。」

井村が説明してくれた。そのネーミングは分かるけど、じゃあ井村は?

「それで、井村はイムラなんだよ。」

雪哉が補足してくれた。何だかなぁ。

「あ、三木君はミッキー?!」

鷲尾が言う。

「うっ、それは・・・。いや、俺は名前が涼介だから、リョウスケって呼んでくれよ。」

小学生の時のあだ名は、確かにミッキーだったんだよ。もうやめてくれ。

「そういえば、三木、じゃない、涼介はどこ出身なの?」

井村に聞かれた。

「俺?東京だよ。みんなは?」

俺が言うと、それぞれ長野、群馬、新潟と答えてくれた。なるほど、皆さん雪国育ちかな。だが雪哉は、

「僕は東京だよ。」

と言った。うそ、雪国じゃないの?あんなにスキーが上手いのに?

「東京なの?東京のどこ?」

俺が聞くと、

「多摩。」

「ああ。」

やっぱり山か。

「ちょっとぉ、それどういう意味だよー。」

雪哉は笑ってそう言った。あ、可愛い。

「いや、山、じゃない坂が多そうだから、足腰鍛えられて、スキーも上手くなったのかなーって。」

苦し紛れのフォロー。

「涼介は?東京のどこ?」

雪哉に聞かれたので、

「目黒。」

と言ったら、

「め、目黒!?」

雪哉ではなく、他の3人が声をそろえて言った。

「な、何おしゃれな所に住んでんだよ。ま、そうだよな。涼介はそういう感じだよな、うん。」

それは無視して、俺は雪哉にもっと聞きたい事があった。

「それで、雪国出身じゃないのに、なんでそんなにスキーが上手いの?」

すると、雪哉は言った。

「小学生の時に体操教室に通ってて、毎年スキーキャンプに参加してたから、かな。」

「なるほど。」

スキーキャンプか。それであんなに格好良く滑れるようになるのかは若干疑問だが、特に雪国に住んでいたとか、親がオリンピック選手だとか、そういう事ではないらしい。

 それにしても、だ。最初は俺を囲んで座っていた面々が、いつの間にか雪哉を中心に丸くなっていた。3人とも、雪哉の顔ばかり見ているような気がする。みんな、雪哉の顔に夢中なんだな、こりゃ。こいつはやたらとイケメンだから・・・なのかな。

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