第3話 スキーヤー

 東京にあるS大学のシーズンスポーツサークルでは、毎年夏は海、冬はスキーに出かける。もちろん、春や秋にもいろいろなスポーツをやるのだが、泊まりがけで出かけるのは夏と冬だけだ。

 大学2年の夏、その当時彼女だった子に誘われて、このサークルに入会した。だが、別れてしまったので、彼女は退会した。俺はそのまま所属していた。腐れ縁の幼なじみ、篠崎もいたし、辞める理由もなかったから。それなりに、時々体を動かすのも悪くなかったし。

 そして冬の長期休みがやってきた。一応「春休み」か。1月下旬に試験があって、後はもう3月末までずっと休み。2月の初頭に我らシーズンスポーツサークルは、スキー合宿へ出かけた。

「うわー、すっげえ急だなぁ。」

リフトを降り、少し滑ったところで仲間を待つ。しかし、そこから斜面を下りるのが、どうやらあまりに過酷な感じ。

「誰だよ、上級者コースがたいしたこと事ないって言ったのは。」

「やばくない?私無理かもー。」

初心者を除き、中級者以上のメンバーがリフトに乗ってここまでやってきたのだが、特別スキーが得意な人もいない状況だった。平日だからスキー場全体が空いているのだが、上級者コースは特にガランとしている。

「どうする?どうにか滑る?」

「えー、どうする?」

情けない声を出すメンバーたち。完全にビビっていやがる。

「大回りすれば大丈夫だよ。」

俺が言うと、

「大回りって何?どういうこと?」

と、聞かれる。

「真横に近い感じにずーっとあっちまで行って、またこっちにがーっと行って。」

ジェスチャー込みで伝える。

「ああ、なるほど。」

「でも怖いよー。」

なかなか進まない。

「そういえばさ、さっきうちの大学の連中がいたぞ。」

篠崎がふと思い出した風にそんな事を言った。

「うそ、偶然が過ぎないか?知ってる人だったの?誰?」

「うちの大学のスキー部の連中だよ。俺は鷲尾ってやつと友達でさ。」

サークルではなく部となると、ちゃんとスキーをやっているやつらだ。

「スキー部か。そりゃ、関東周辺のスキー場に現れても不思議はないわな。」

俺はそう言うと、もうこれ以上待ちきれず、ストックを使って前へ進んだ。俺も大した実力ではないが、転びながらでも何とか下りられる自信はある。こんな所に突っ立っていたってしょうがない。

「あ、三木行くのか?俺も行く!」

篠崎が着いてきた。俺はボーゲンにして、急な斜面を滑り出した。しかし、大回りするので時間がかかる。それに、疲れる。

 上手いやつはあっという間に滑り降りるのだろうが、俺は疲れてコースの端っこで止まった。そして、仲間が来るかと思って後ろを振り返った。

 すると―。まぶしい光でちょっと目がくらんだ。斜面の上から、雪しぶきを上げてシュッシュッといい音を立てながら、一人のスキーヤーが近づいて来た。俺みたいに大回りせず、短いスパンで折れ曲がり、あっという間に下りる。

「うわ、かっこいい・・・。」

俺は思わず声に出した。そのスキーヤーをつい目で追う。牛みたいな、白地に黒ぶちの模様のあるウエアーを着て、赤い帽子に赤と黒のゴーグルを付けたスキーヤー。

 ずっと目で追っていたけれど、とうとう見えなくなった。そして、篠崎やその他メンバーがちらほらと俺に追いついてきた。

「三木、待っていてくれたのか。いやー、しんどいなここ。」

篠崎が言う。

「ああ。」

「どうした?心ここにあらずって感じだぞ。」

篠崎が笑って言う。

「今、すげえ上手いやつが通った。」

俺が言うと、

「見た見た!すげえな。プロじゃないか?もしくは地元民とか。」

「・・・そうだな。」

そして、まだ休憩している篠崎を置いて、俺はまた滑り出した。さっきより、ちょっと勇気を出して斜めに進む。スキーはイメトレが大事だ。上手いスキーヤーを見た後は、何となく自分もあんな風に滑れるような気がして、体が勝手に真似をする。

 ・・・が、やっぱり転んだ。ゴロゴロと転がって、やっと止まった。やれやれ。

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