第2話 来る者拒まず
ザワザワとした居酒屋の店内。俺は、空になったビールジョッキを高く掲げた。
「はーい、ただいま。」
店員の若い女性が良く通る声でそう言うと、すぐに近寄ってきてしゃがんだ。
「生、お代わり。」
俺が言うと、
「あ、俺も。」
「俺も!」
同じテーブルのやつらがそう言った。
「はい、生3つですね!」
女性はそう言うと、俺の顔をチラッと見て、はにかんだように微笑んだ。そして、俺ともう一人のやつのジョッキを持って、去った。
「あーあ、あの子もやっぱりこいつに堕ちたかぁ。」
前にいたやつが言った。
「何々?」
「こいつ、三木涼介はとにかく女にモテんだよ。」
大学のサークルの飲み会。女子は1次会で帰ってしまい、今男ばかりの2次会である。
「そうなの?三木、彼女いんの?」
俺が答える前に、腐れ縁が続いている幼なじみが答えた。
「涼介はね、彼女を切らした事がないんだよ。中学の時からずーっと、取っ替えひっかえ、引きも切らさず、だよ。」
「へえ。三木、そうなのか?」
「いや、小6から、かな。」
俺はつい、そこを訂正してしまった。そんな事はどうでもいい。あんまりこだわりがない。
「マジかよ!いいなあ。俺も彼女欲しいぜ。」
「だからこのサークルに入ったんだろ?新入生女子、可愛い子けっこういたじゃん。」
男どもは新入生女子の品定めを始めた。だが、俺はそんな話題には興味がない。
何となく、今も女と付き合っているけれど、あまり彼女とか恋人とかに執着はない。
「涼介はさあ、来る者拒まず、去る者追わずなんだよなー。な?」
また俺の話題に戻ってきた。
「だから、彼女がいつでもいるわけだよ。」
幼なじみがそう言うと、
「いやいや、俺も来る者拒まずだけどさ、そもそも来ないからさ!」
「あははは、お前じゃ、来ないなー。」
「なにー!」
周りは盛り上がっている。しかし、幼なじみの言葉は言い得て妙だ。来る者拒まず、か。何となく、付き合って欲しいと言われると「いいよ」と答えてしまう。だが、あまり長続きはしない。
「私たち、付き合ってるんだよねえ?」
と、何度聞かれた事か。聞かれたというか、問い詰められたというか?それでつい、
「嫌なら別れれば?」
なんて言うと、彼女は去って行く。そして、俺がフリーになった途端、また他の女子が来て、付き合って欲しいと言ってくる。だから、また「いいよ」と言う。その、繰り返しだ。
俺は、人を好きになった事がない。自分からつかみ取った恋愛はない。そう言った意味では、恋愛経験はゼロだ。人を本気で好きになってみたい。欲しい、と心から思ってみたい。
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