第10話 アルヴォの日誌

ローレンス歴102年 夏 隠れ月


この世界には、月が三つある。


ひとつ目は、東の空に貼り付けたかのようにいつもそこにいる。

太陽が通り過ぎると、月は黒く見える。大森林の上空だ。


ふたつ目は、春から夏にかけていつも隠れている月。今の季節だ。

見えているときは必ず冷たい風が吹く。


みっつ目は、太陽が隠れると現れる月。

北から現れ、南に消えていく。これが一番大きく丸い月だ。


だから、夜でもこの世界は暗闇とは無縁だ。



日記は俺の日課ではない、業務日誌を日記代わりに毎日書けという業務命令だ。

俺たちを雇用してくださって、今日でだいたい1年くらい。


つたない言葉遣いは許せ。


正確に云うと、ティエラという冒険者クランの組織を作る予定らしい。

プラチナランカー6名在籍のティエラが作ったクランだ。


組織のトップは、賢者ケンタ様。

メンバーは、アン様、あかね様。なつみ様だ。

はじめは、3人がケンタ様の奥様だと思っていた。

しかも、年齢は俺と変わらないくらいの見た目。超美人。


とにかく、女性「三人とも超美人」。大事なことなので復唱した。声出た。

あやうく、採用翌日に、あかね様となつみ様をナンパして首が飛ぶところだった。


物理的にだ。


女の秘密に好奇心を抱くのは、寿命を縮めることになるらしい。

9歳のルイから真実を知ることになるとは・・・。それはさておき


ケンタ様の奥様は、なつみ様。

アン様の旦那様は、王都にいる。アン様の世界の白夜の国の人らしい。

あかね様の旦那様も、王都にいる。あかね様の世界の紳士の国の人らしい。


その元に、各々のパーティが所属するという仕組みだ。まだ未登録だけど。


賢者ケンタ様のお知恵を借りると、

レオ様のパーティが6名。

俺がリーダーのパーティが6名にメンバーは再編された。俺のレベル10。

他は、リン(6)、メル(5)、エル(3)とラッシ(9)・エステル(8)の5名だ。



レオナルド様のパーティは、

レオナルド様 7歳 レベル0、『不思議で便利なスキル』ばかり発明されている。

彼が冒険者になること、この目的が最優先。それに俺が全力を尽くすというわけだ。


アオイ様 7歳 レベル0、剣の才能あるらしい、可愛さ100%の情報。

双子姉のルナ様 レベル10、 驚いた。 

双子妹のヒナタ様 レベル10、 もう驚かない。

ルイ 9歳 レベル0 そのうち、驚かされそうだ。   

妹のアルゥラ 11歳 レベル0 とにかく可愛い。


妹判官びいきの俺が見ても、妹以上に、ほかの女性が可憐な美貌。年下なのに。


そういえば、

俺はアルヴォ。14歳になった。ここから南東にあるエモル村の出身だ。

俺と妹、ラッシとエステルとは、いわゆる幼馴染ってやつだ。


村は、20年前の戦争でボロボロになった。

戦後、村に帰ってきた両親、というか母親が俺を産んだ。


俺は鍛冶のギフトを得た。妹の強力な火力とともに、鍛冶屋をしていた。

村で、包丁や農具を作るのがメインだった。


ある日、ラッシとエステルが結婚するので、稼ぎたい。俺に相談してきた。

このため、商業ギルドにいい仕事がでていないか、4人で見に行ったわけだ。


するとすると、そこには、

部屋住み。食事つき。服も借り放題(違)。6歳児専属。

賃金 なんと4人で金貨100枚!! 

貴族平民身分不問。 なんだこの好条件は。二度見したぜ。


乗るしかない。この神募集に。


気になったのは、

将来、冒険者登録必須、ダンジョン参加予定(プラチナランカー指導付き)。


妹が冒険者なんて大丈夫かどうか。レベル0だぞ。まじ心配。


そんな心配を余所に、グループ選考だったため俺たち4人は、合格した。

俺たちはEチームだったので、ほかのチームの戦術を参考にできた。幸運だった。


特にAチームの奴ら、『あの動きは、素人じゃないだろう』という動きだった。

才能以上に、何か鬼気迫る執着心と意気込みを感じた。



新たなパーティを組んでまもなくして、ルイ経由、メルの相談を受けた。

いつもふわふわ上機嫌な、メルからの相談とは意外だな、と思った。


「ルイはレオナルド様の側室狙い。妹のアルゥラにも狙わせてあげて。

メルとエルは、独身時代のレオナルド様の夜伽担当狙い。これはマスト。

私は障害持ちだから、御主人レオ様にはふさわしくない」


そんな理由で、俺とになってくれと云う。


冗談だろうと思ったが、ルイが前日に書いた日記を

「読んでくれ」

と差し出してきた。


メルを見ると、頷いて真剣な目で俺を見た。

妹が側室になれるなら、これ以上の幸せはないな。


色々考えを消化しながらルイの日記を読んだ。


言葉が出なかった。背中に冷たいものを感じた。


天を仰いだ


隠れ月がそこにいた。


冷たい風が吹き抜けた。



「いかなる時も、レオナルド様のお気持ちが優先だぞ?」

「・・・」


抱きよせたメルは震えていた。


言い聞かせるというより、わかっているよな、の同意の意味で尋ねた。

メルがうなづいた。


「俺に全部任せろ。みんなで幸せになるぞ」

「うん、任せた。」


日誌で、このことを報告できたのは僥倖。

レオナルド様経由で、アン様にも伝わるだろう。



翌日、レオ様に呼び出された。大丈夫か?俺。

同じく、ルイも呼び出された。日記持参とのこと。大丈夫か? 俺たち。

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