第9話 ルイの日記
王国歴102年 夏
私は、ルインリアン。9歳。
ルイと名乗り、今はみんなもルイと呼んでくれる。
ここに来る前には、お嬢様と呼ばれていた。すごく嫌だった。
レオナルド様にお仕えして、1年。
日々の感謝を忘れないよう、日記を書いている。
大好きです。レオナルド様。アン様。
夜な夜な、お二人を想いながら私は指を濡らしている。
◇
20年前の戦争で、当時、北部を任されていた伯爵邸が全壊。
父は亡くなった。
伯爵邸から逃れた母が、侯爵家を頼った。
亡くなった旦那の実家だという。
ラウール侯爵様は快く母と従者たちを受け入れてくれた。
美しかった母の肉体と引き換えに。
私は、ラウール侯爵家で生まれた。
母は、正妻でも側室でもなかった。私は不義の子。
母の言葉の多くは、生き延びるために神と亡き旦那を裏切ったこと。
公爵様への感謝と恨み、憎しみ。それを独り言のように聞かされた。毎晩。
同情はしていない。
物心がついた時には、リンと、メル、エルがそばにいた。
リンは侍女、トゥイリンの愛称。私の4つ年上で大人びている。
男女の事柄、女の子の悦びは、リンがすべて教えてくれた。悪い遊びも。
ある日、侯爵様の次男にリンが襲われた。それ以来、彼女は時々呼び出された。
ナイフで脅されれ、傷つけられていた彼女のことを。
彼女の右の乳房は奴によって切り取られていた。
私は、そのことをその時はまだ知らなかった。
ある晩、私はこの次男に犯された。亡き父の兄にだ。
犯されながら、リンのことを奴の口から聞いた。
その瞬間、私は大声で叫び、奴の耳にかみつき、食いちぎった。
その声で、リンが駆け付け、奴の股間にある醜いものを、縦にナイフで切り裂いた。
シーツの上は、奴の血と、私の血で真っ赤になった。奴はむせび泣きながら逃げた。
誰に、どう説明したのだろう。ざまあみろ。
私は泣きながら笑った。顔面の神経が切れるまで。
次の日から私はうまく笑えなくなった。
メルはメイド、メルウィングの愛称、私の3つ上年上でほんわか可愛い系だ。
彼女も、使用人に犯される日々だったと聞いた。
彼女のお尻の穴周りが切れ、便意が制御できなくなっていた。
神を呪い続けたら、付与魔法を覚えた。と微笑みながら話してくれた。
彼女の作り笑いの完璧さに気づけなかった。私の大馬鹿やろう。なんなのもう!
エルもメイド、エレンリエルの愛称、2つ年上。料理もお菓子作りも上手。
メルの件、私の件があってから、彼女はお菓子作りをやめた。
ティム(魔物調教)のことばかり話すようになった。
ワイバーンをティムして、この街を焼き尽くす決意をしたのだという。
彼女が、テイマースキルを覚えたのは、メルと同じ理由だ。
次の日、家出計画実行のため、商業ギルドに住み込みの仕事を探しに行った。
もちろん4人で。
なんと、部屋住み。食事つき。高賃金。性接待なし。身体欠損不問。
しかも、募集対象が6~13歳。経験者優遇。未登録者は将来の冒険者登録制度あり。
さらに、この街の唯一神信仰者全否定!!
これは、こっそり受付の子が教えてくれた。
彼女は腐女子仲間だ。あはは。
気になるのは、犯罪歴!
耳を食いちぎるって、傷害罪?
リンの縦ちんこ切りは大丈夫?
もう、恥も外聞もプライドもすべて捨てて、受付で犯罪鑑定の有無をお願いした。
結果はセーフ! 奴らは表沙汰にすることを恐れたのだ。汚れた乙女の勝利だ。
幸運は続いた。商業ギルト長は、私の亡父の友人だった。実父は侯爵様の種。
募集に対する試験内容の予想を教えてくれた。
プラチナランカーのアン様のご子息からの依頼。
これは使用人ではなく、バトルメイドの募集に間違いないと。
この日から、四人で弓、風魔法の遠距離の攻防の練習、連携確認を行った。
冒険者ギルドの練習場を借りたガチなやつだ。
魔法訓練や防御指導を教えてくれた先輩の冒険者のみなさんは、
採用後の報酬払いの条件を伝えたら喜んで引き受けてくれた。
汚れ乙女の口づけくらい 安いものよ。
◇
結果は、四人そろって採用決定。
私たちは、契約書の後見人をあえて侯爵様にお願いした。父親だしな。
彼は、事件の口留めの代わりに引き受けてくれた。
次男に家督を譲る予定をやめたこと。
吟遊詩人になった長男を呼び戻そうとしていること。知るか。
いっそ、この事件を唄ってほしい。切実に。
謝罪の言葉はなかった。期待していなかったのでノーダメージだ。
使えるものは何でも利用してやる。同情なんていらない。力をくれ。
◇
出発の日
私たちは、護衛の指名依頼をしていた冒険者ギルドの先輩とともに
ローレンシア公爵領へ向かった。
冒険者にお礼をしたリンが、『房中スキル』が生えたわ。ははは。
と笑っていた。私もつられて笑おうとしたが、顔が引きつって痛い。
道中の盗賊たちは、私たちの練習の成果を試す良い機会だった。
ギルバート草原の一面の風景に心が軽くなった。
私がうたたねしている間に、野良の野獣は、倒されていた。
代行者アン様の主である別世界の神に感謝をささげた。
いつの日か、レオナルド様のご寵愛を頂けることも願って。できればアン様にも。
アン様といえば、15歳で召喚され、16歳のまま肉体年齢が止まったと聞いた。
うらやまけしからん。
「あなたも、レベルが100になったら、代行者の資格を得られるかもね」
生き抜いてやる。目指せレベル100!
かつてお嬢様と呼ばれた私はもういないんだ。
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