第9話 ルイの日記

王国歴102年 夏 


私は、ルインリアン。9歳。

ルイと名乗り、今はみんなもルイと呼んでくれる。


ここに来る前には、お嬢様と呼ばれていた。すごく嫌だった。


レオナルド様にお仕えして、1年。

日々の感謝を忘れないよう、日記を書いている。


大好きです。レオナルド様。アン様。

夜な夜な、お二人を想いながら私は指を濡らしている。



20年前の戦争で、当時、北部を任されていた伯爵邸が全壊。

父は亡くなった。


伯爵邸から逃れた母が、侯爵家を頼った。

亡くなった旦那の実家だという。


ラウール侯爵様は快く母と従者たちを受け入れてくれた。

美しかった母の肉体と引き換えに。


私は、ラウール侯爵家で生まれた。


母は、正妻でも側室でもなかった。私は不義の子。

母の言葉の多くは、生き延びるために神と亡き旦那を裏切ったこと。

公爵様への感謝と恨み、憎しみ。それを独り言のように聞かされた。毎晩。


同情はしていない。


物心がついた時には、リンと、メル、エルがそばにいた。


リンは侍女、トゥイリンの愛称。私の4つ年上で大人びている。

男女の事柄、女の子の悦びは、リンがすべて教えてくれた。悪い遊びも。


ある日、侯爵様の次男にリンが襲われた。それ以来、彼女は時々呼び出された。

ナイフで脅されれ、傷つけられていた彼女のことを。

彼女の右の乳房は奴によって切り取られていた。


私は、そのことをその時はまだ知らなかった。


ある晩、私はこの次男に犯された。亡き父の兄にだ。

犯されながら、リンのことを奴の口から聞いた。

その瞬間、私は大声で叫び、奴の耳にかみつき、食いちぎった。


その声で、リンが駆け付け、奴の股間にある醜いものを、縦にナイフで切り裂いた。

シーツの上は、奴の血と、私の血で真っ赤になった。奴はむせび泣きながら逃げた。


誰に、どう説明したのだろう。ざまあみろ。

私は泣きながら笑った。顔面の神経が切れるまで。

次の日から私はうまく笑えなくなった。


メルはメイド、メルウィングの愛称、私の3つ上年上でほんわか可愛い系だ。

彼女も、使用人に犯される日々だったと聞いた。

彼女のお尻の穴周りが切れ、便意が制御できなくなっていた。

神を呪い続けたら、付与魔法を覚えた。と微笑みながら話してくれた。


彼女の作り笑いの完璧さに気づけなかった。私の大馬鹿やろう。なんなのもう!


エルもメイド、エレンリエルの愛称、2つ年上。料理もお菓子作りも上手。

メルの件、私の件があってから、彼女はお菓子作りをやめた。

ティム(魔物調教)のことばかり話すようになった。


ワイバーンをティムして、この街を焼き尽くす決意をしたのだという。

彼女が、テイマースキルを覚えたのは、メルと同じ理由だ。


次の日、家出計画実行のため、商業ギルドに住み込みの仕事を探しに行った。

もちろん4人で。


なんと、部屋住み。食事つき。高賃金。性接待なし。身体欠損不問。

しかも、募集対象が6~13歳。経験者優遇。未登録者は将来の冒険者登録制度あり。


さらに、この街の唯一神信仰者全否定!! 

これは、こっそり受付の子が教えてくれた。

彼女は腐女子仲間だ。あはは。


気になるのは、犯罪歴! 

耳を食いちぎるって、傷害罪?

リンの縦ちんこ切りは大丈夫?


もう、恥も外聞もプライドもすべて捨てて、受付で犯罪鑑定の有無をお願いした。


結果はセーフ! 奴らは表沙汰にすることを恐れたのだ。汚れた乙女の勝利だ。


幸運は続いた。商業ギルト長は、私の亡父の友人だった。実父は侯爵様の種。

募集に対する試験内容の予想を教えてくれた。


プラチナランカーのアン様のご子息からの依頼。

これは使用人ではなく、バトルメイドの募集に間違いないと。


この日から、四人で弓、風魔法の遠距離の攻防の練習、連携確認を行った。

冒険者ギルドの練習場を借りたガチなやつだ。


魔法訓練や防御指導を教えてくれた先輩の冒険者のみなさんは、

採用後の報酬払いの条件を伝えたら喜んで引き受けてくれた。


汚れ乙女の口づけくらい 安いものよ。



結果は、四人そろって採用決定。


私たちは、契約書の後見人をあえて侯爵様にお願いした。父親だしな。

彼は、事件の口留めの代わりに引き受けてくれた。


次男に家督を譲る予定をやめたこと。

吟遊詩人になった長男を呼び戻そうとしていること。知るか。


いっそ、この事件を唄ってほしい。切実に。


謝罪の言葉はなかった。期待していなかったのでノーダメージだ。


使えるものは何でも利用してやる。同情なんていらない。力をくれ。



出発の日

私たちは、護衛の指名依頼をしていた冒険者ギルドの先輩とともに

ローレンシア公爵領へ向かった。


冒険者にお礼をしたリンが、『房中スキル』が生えたわ。ははは。

と笑っていた。私もつられて笑おうとしたが、顔が引きつって痛い。


道中の盗賊たちは、私たちの練習の成果を試す良い機会だった。


ギルバート草原の一面の風景に心が軽くなった。

私がうたたねしている間に、野良の野獣は、倒されていた。


代行者アン様の主である別世界の神に感謝をささげた。

いつの日か、レオナルド様のご寵愛を頂けることも願って。できればアン様にも。


アン様といえば、15歳で召喚され、16歳のまま肉体年齢が止まったと聞いた。

うらやまけしからん。


「あなたも、レベルが100になったら、代行者の資格を得られるかもね」


生き抜いてやる。目指せレベル100! 


かつてお嬢様と呼ばれた私はもういないんだ。

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