最終話 三つ目


港の船着き場にでかい外国籍の船が係留されていて、近くには場違いな高級車が泊っている。「おう、あの船の中じゃ」と清明が言う。


さて、清明はここに置いておくべきだろうか?これからやることを考えたら、清明=良子はここにいたほうがいい。

「そんなことをしたら、娘の心は一生うかびあがってこんぞ」

と清明は言う。

「安心しろ、っていうか、ワシがいないと無理じゃろ」

たしかに、村田銃1本だけで、きっと武装しているプロにかなうはずがない。


「覚悟はできているか?まず、どうやって乗り込むんじゃ?」

俺は村田銃に弾丸を込め、入り口にいる男を撃った。その死体の横を通ってタラップを登った。「なるほど」と清明は言った。


***


人間を殺傷した感覚は独特だった。

食べたことのない食べ物を食べたような胸のつまり。そこから膨張する黒い違和感。それがえずきになって口から出ようとするのを必死にとどめる。



・・


・・・


だからなんだ。俺はやらなければいけない。


目の前で、最愛の人が命を落としかけている。

ならば、まずはその人を救うことだ。善悪については考えるのはそのあとでいいだろ。


俺は覚悟している。

「いくぞ」

と清明を従え進む。


***


「方角と人数を教えてくれ」と清明に言うと、すでに式神であたりを走査している清明が「まっすぐいって階段を上る、そこに1人」という。スーツ姿の男がいた、ガン!と音が響く、死体を乗り越えて階段を上った。

「ハハハ、サーチアンドデストロイじゃ」

「いいから、次」

「登り切ったら背中の部屋じゃ、2人おる」

という言葉の前にナイフで切りかかってくる。のが、ピンク色の気配でわかる。村田銃を槍のように突き、男の腹筋に銃口がめり込んだ。ガン!今度は男の肉がサイレンサーのようになり音は響かない。


「はは・・!こいつは獣ぞ!!」

「いいから次!」


殺した相手の最後の力で村田銃をつかまれ身動きがとれなくなった、もう1人が拳銃をかまえているのが見える。ここまでか。


リボルバーのレンコンが見える。銃口から銃が発射されるのが見える。こちらに弾丸が向かってくる。俺の意識が体を動かす前に、ピンク色の俺自身が、体を斜に構えた。そのおかげで、弾丸は体に当たらずにすんだ。

その数舜の時間で清明がキツネでリボルバーにかみついた。それを見て俺は「えい」とナイフ男を蹴り抜き、村田銃に弾丸を込め、リボルバーの男と距離を詰める。撃つ必要はなかった。キツネに食われて、男は気絶していた。

「この中じゃ」

扉を開けて中に入ろうとするが、カギがかかっている。村田銃で鍵のあたりを撃つ、が、へしゃげただけで扉は開かない。さすが船、頑丈に作られている。

「おまえ、せっかくやったワシの心眼、つかっておるか?」

「?」

「目を閉じてスライドを全開にしてみい」

目を閉じて心眼を開く。透明キューブを最大化。するとピンク色のうねりが見える。隣には清明、そして部屋の向こうには2人と大人と1人の赤子。俺は大人のピンク色に向かって村田銃を撃った。ガラスとカーテンを貫通して当たる。

「ひぃいいい!!!」

という悲鳴が聞こえた。「開けろ」というと、扉が開いた。中には郵便局員が立っていた。昨日の赤子もいた。床にはやくざっぽい男が倒れていた。


***


違法に所持した銃で、4人を殺害したとすれば、それはきっと死刑に相当するのかもしれない。いや、きっとするだろう。だとしても、俺は覚悟ができている。赤子を保護して清明とともに軽自動車に乗り込み、俺は南へと向かった。


京都につくと清明が「おお、なつかしい」といって消えた。良子が人格として現れた。

「ありがとう」

という。それだけで救われる。

「どこに向かっているの?」

「熊本だ」

「熊本に何が?」

「赤ちゃんポストがある」


***


赤ちゃんポストに赤子を預けた後、俺たちは観光地を回りながら警察に捕まるのを待っていた。が、いつまでたっても警察が来る気配もなく、しかたないので生活を始めることにした。路上で陰陽師安倍晴明を名乗り占いをし、俺は地元の食材で料理を作ったりしていた。熊本の空気が合っていたのか、良子はあまり消耗せずに、楽しく生活していた。


1度だけ、名探偵の名刺に書いてあった捨てアカウントにメールが入っていた。「公務執行妨害になりたくなければ連絡しろ」とあったので連絡してみると「港から外国籍の船が出航してしまった、何か知っているか?とにかく署にこい」とある。「なにもしらない」と返信してそのアカウントを閉鎖した。


そんな生活をしていたら良子が妊娠し、10月10日後に赤ん坊が生まれた。額に3つ目の眼を持つ女の子だった。


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最強の対人スキル「営業」を使って陰陽師を救えるのか?説 @hdmp

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