菊地のところへ出かけ、暫らくして巣穴に戻った野口を、皆安堵した顔で迎えた。それを覗い頭を下げる。

「ただ今、戻りました。皆さん、大変お世話になり有り難う。無事、ことなく獲物を届けてきました」

すると、意外と言う顔で西田が尋ねる。

「おい、野口。よく無事で戻ってこられたな。まともな姿で帰れないと思っていたんだ。何ともないようだが、ところで菊地の対応は如何だった。また法外な要求をされたんだろ。今度はどんな要求だ、教えろよ!」

一気にまくし立てた。それに応え返す。

「いや、それがな。奴はご苦労さんと言って、身体の傷が癒えるまでゆっくり静養しろと言うんだ。まあ、一週間ぐらい経ったらまた来てくれとも言った。如何いう意味だか分からんが、その時までに処遇を考えておくと言い、それに皆にご苦労さんと伝えてくれとも言っていた…」

考えられぬ答えが返ってきた。

皆、唖然とする。予想だにしないことを、ぽかんと口を開け聞いていたのだ。そして更に続ける。

「まあ俺も、それなりに覚悟して行ったんだ。皆と充分戦略を練って、これで終わると思っていないし奴の暴力を受けることも覚悟していた。それに次の要求を言ってくると待ち構えたが、今話したように何もなかった。それどころか、『このようになってすまなかった』と詫びたんだ。そして『ゆっくりと傷を治せ』ともな。解せないが、如何いうわけだろうか…?」

一瞬、間が空いた。皆にとり意外だったのだが、直ぐに疑問の声が上がる。

「奴が要求してこないだと。そんなこと信じられるかよ!」

「それに暴力も受けていない。それどころか、傷を治せだと。おかしな話じゃねえか」

「そうだ、野口。そんな馬鹿な話はない。昨日のお前や池田の様子から見て考えられんことだ。騙されているんじゃないか。奴のところで何があったんだ」

「だいいち、俺らで練りに練った策が狂い、完全に読み違っているぞ。昨日の話じゃ、こんなことはない。それに俊介さんだって考えてくれた末の策だぞ。そんなこと有り得ねえ。何か裏があるんじゃないのか…?」

「いや、今説明した通りだ。確かに奴はそう言った。他に隠していることはない」

疑念を払うように、毅然と答えた。

意外な話にあっけに取られ、皆混乱していた。あまりにも予想外だったのだ。現に暴力も受けず戻った姿を見、それに菊地の対応を聞き、まったく思惑が違っていた。

「…」

皆、黙り込んだ。訳が分からなくなっていた。

すると、やおら国分が口を尖らせる。

「野口!さっきからお前の話を聞いているが、一体如何いうことだ。菊地の奴が次の要求をしてこないだと。あの短略的な野郎が、そんなこと言うはずがない。何故、要求をしてこないんだ。我々の考えではそうではなかった。奴の要求に時間を稼ぐため、引き伸ばす作戦だったはずだ。そうじゃないのか?」

強い口調で突っ込む。

「引き伸ばせば、間違いなく鉄拳がお前を襲う。殺しはしないだろうが、半殺しにされるはずだ。お前はそれを覚悟し行ったんじゃないのか。戻ってみれば要求もなく、暴力も受けていない。おまけに、ご苦労さんと労われただと。まさか、奴に限ってそんなこと信じられるかよ!」

懐疑の目になっていた。そして更に疑う。

「奴が言ったことではないんじゃないか?もしかして野口…、お前、菊地のところへ行かなかったわけではあるまいな」

すると、慌てて反論する。

「国分、何ていうこと言うんだ。そんなことするわけないだろう。間違いなく獲物を持って行った。嘘じゃない、皆の力を借りて預かった獲物だ。意を決して、菊地のところへ持って行った!」

目を丸くして否定した。それでも皆は、醒めた目で視ていた。

「信じてくれ!奴の言ったことは本当だ。俺だって、こうやって無傷で戻れるなど思っていなかった。奴が何故、こんなことをしたのか分からないが事実だ!」

真顔で釈明した。

「それで、一刻も早く皆に知らせようと、すっ飛んで帰ってきたんだ」

「おお、そうか。疑ったりしてすまないな…」

白々しく国分は頭を下げた。それでも野口は訴える。

「分かってくれればいい。俺は皆に疑われるようなことはしていない。皆から借りた大切な獲物は、間違いなく届けた。これは自信をもって言える。疚しいことなどしていない。獲物を持っていかず隠すなんて、そんなこと絶対にしない。皆を裏切りはせん!」

開き直り気味に力を込めた。すると、熱弁を上辺だけで信じる目つきになる。

「そうか分かったよ。ご苦労だったな。それで野口、これから如何するんだ?お前の考えもあるだろうから教えてくれ。俺たちも乗りかかった船だ、答えて貰ってもいいはずだ。皆、そうだろう」

国分が仲間を見廻し、開き直り気味に言った。すると、曖昧気味に問う。

「ううん、俺も帰る道すがら、如何して菊地があんなことを言ったのか考えたが、如何も分からん。逆に、皆に相談しようと思っていたところだ…」

そこで国分が畳み込む。

「そうか、分からんか。それじゃ仕方がないな。でも、これから一体如何したらいい。野郎のことだ、何を考えているか分からんぞ。それに『一週間後に来い』だと、『お前の処遇を考えておく』、そんな話しまともに乗ったらどんな罠に掛かるか。それと、さっき『仲間に助けて貰って』、と言ったよな。お前、奴に俺らの名前を明かしていないだろうな。この一週間の間に突き止められ、狩りの途中で待ち伏せされて、皆殺しに合うかもしれない。用心しないとな、皆!」

そう促し、野口に向かう。

「おい、野口。お前が唯一、奴に会っている当事者だ。とにかく今一度、奴の言ったことを整理して、何を企んでいるかを明日ぐらいまでに答えてくれないか。それからだ」

突き放すように告げた。

国分らとの会話はそれで終わった。

野口は意気消沈し、返す言葉がなかった。そのまま互いに無言の時が生じた。沈黙を破り國分が告げる。

「それじゃ俺は、職場に戻らなければならない。考えが纏まったら連絡してくれ」

野口の前から去った。他の仲間も夫々散った。残された野口は、如何して言いのか分からなかった。それでも考え続ける。

国分が言ったように、何かを企んでいるのか。あまりにも筋書きと違っている。それにしても俺は、奴の前で確かに聞いた。聞き間違ってなどいない。けれど、確かめることなど出来なかった。菊地の威圧する目を、とても正面切って見られなかった。言い成りに平伏しているだけだった。まともに向かい合うことなど出来なかったんだ。何かある。このまますんなりと収まるわけがない…」

その思いが胸をよぎる。と同時に、国分らが急によそよそしくなった気がして、不安の芽が膨らみ始めていた。

そう言えば…、池田がいなかったが、はて?如何したことか?

と思ったが、直ぐに国分の話が気になってか、ついとその疑問も消えた。

一体、何だったんだろうか?でも、あいつ、さっき変なことを言っていたな…、本当に奴に渡してきたのか。と、言われた時は驚いた。その時は否定し聞き流したが、思い起こせば、国分が俺を疑っているということじゃないか。

如何してだ。確かに今回のことでは、国分らに大いに世話になった。彼らがいなければ、とてもあれだけの獲物を確保するどころか、菊地のところへ持って行くことさえ出来なかった。それ故、皆には感謝してもし足りない。だから国分らを裏切るなんて、そんな気持ちはこれっぽっちもない。でも何故彼らは、揃ってあんなことを言うのだろうか?

それに聞き捨てならないことも言っていた。「菊地に自分らの名前を言っていないだろうな」とも…。何でそんな疑うようなことを言う…。俺が仲間の名前など言うわけがないだろ。大体そんなこと聞かれていないし、それを、「奴から聞かれたか」とも問わず、あんな言い方するなんて…。

考えが詰まっていた。いや、憶測を止めたといっていい。

俺は奴に言われたことを包み隠さず話した。聞いた俺でさえ理解できぬほど、意外なことばかりだった。皆にしても考えられないことだろう。もし、俺が彼らの立場だったら如何だろうか…。

野口は立場を変え考えてみた。

そうか…。しかし、偽りなんか微塵も話していない。真実を伝えているのに。けれど俺は、彼らに疑われているのか…。熟考し推測した結果とあまりにも掛け離れた報告ゆえ、信じられないんだ。それが不信感となっているのか。だから、あんな言い方をしているのかも知れない。それで俺の出方を見るために、菊地の放ったことを纏め直せなどと言っているんだ。

そうだったのか…。

確かに彼らにしてみれば、こんなことに係わりたくないことだ。もし自分たちが加担していることが菊地の耳に入れば、何をされるか分からないという恐怖心が湧くからな。俺だって奴の前ではちじこまっていた。もし俺が国分らの立場だったら、同じように発言していたかも知れない。

止むを得ないことなのか?

それにしても、これから如何したらいい。「一週間後に来い」と言う。日数的には多少余裕があるが、いずれにしてもまた奴のところへ行かねばならぬのか。それを、その時の策を相談したかったのに。彼らは俺を疑い信じて貰えない。結局、自分で結論を出さなければならなくなった。

菊地との約束を破るとしたら、果たしてどんな仕返しが待っているか。俺のみならず仲間に対し、どのような影響が及ぶだろうか。

そう考えると気持ちが沈んだ。

確かに池田以外は降って湧いたような話だからな。これがいい話なら、自然と温かい輪になるだろうが、こんな危険なことでは一度は協力してくれても、二度目となり、それも予想外の展開で戻れば裏があると疑い避けるに決まっている。

暴力を受け瀕死の重傷を負い、理不尽な要求を突きつけられ戻れば、国分たちの対応も違ったと思うが…。

考えながら野口はあてもなく、というか本来の習性で無意識のうちに巣穴の食料保管場所へと歩き出していた。

そうだ。そう言えば池田は如何しているのか。こういう時は彼に相談するのがいい。当事者同士だし、真意を分かってくれると思う。とにかく池田を探そう。そう言えばさっき、奴の姿が見えなかった。あいつが一番経緯を知っているんだ。相談に乗って貰い解決の糸口を探そう。

すれ違う仲間と触角を合わせ、池田の情報を聞き回った。ところがいくら問うても、居場所が分からなかった。それでも諦め切れず、巣穴の入口付近にも出てみた。勿論、遠くへは行けない。食料保管係りの身では遠出は不慣れだからだ。結局、見つけられず巣穴に戻りかけた時、帰り来る働き蟻に聞くことが出来た。

すると、意外な返事が返る。池田が死んだというのだ。

耳を疑った。

再度聞き直すも同じだった。とても信じられなかった。一時気を失ったが、直ぐに元気になったし、その様子から死ぬなんて思えなかったのだ。

一言漏らす。

「まさか死ぬなんて、とても信じられん…」

あんなに元気だったし、任せておけと言っていた。心強い相棒だったのに。これから彼に頼らなければ、とても解決できないと思っていた矢先だ。

それが…。如何して死んでしまった。何故なんだ!

絶叫していた。

にわかに信じ難く、別の働き蟻に尋ねるが、返る答えは同様である。池田が死んだこと、これは紛れもない事実だった。

通りで集まった中に池田がいないはずだ。あの時、国分らに何故聞かなかったのか。

後悔するが、如何にもならなかった。

それにしても、如何して急に死んでしまったのか?…まさか、昨日受けた暴行が原因ではなかろうか。もしそれが原因だとしたら、奴を許すことが出来ない。

それ故原因が知りたかった。

今知ったところで、如何にもならないことは分かっている。けれど、このまま知らずにいることは、よけい出来ない。

そう思った。必死に聞き回った。その結果、死に至った原因を知ることが出来た。一度は元気になったが、やはり昨日顔面を殴られ仰向けに倒れた時、後頭部を強く打ちつけた。それで亡くなったというものである。

辛かった。

野口は悔いていた。

あの時つい魔が差したというか、出来心が心の片隅に生じた。誰も分からないだろうと勝手に解釈し、池田と合意した。

「こんなところに置いている奴がいる。きちっと食料保管場所に持ってこず、横着して置く奴がいる」そして、「こんなことなら、貰ってもいいか」と。

それを菊地に聞かれてしまった。俺らが運び出そうとするところを、背後から襲われた。容赦なく、実に激しいものだった。

結局、その時に受けた暴行が原因で、池田は命を落とした。

死に至った原因がそれによるなら、俺がよく生き延びたと言うほかない。

そう考えると、申し訳ないと悔やむ。

どちらとは言わないが、奪い取ろうと、やってはならぬことをしたための罰ではないか。それにより池田が死に、俺が生きているのだから…。

自責の念に駆られた。

池田の命を奪った原因が菊地の暴力だけではなく、俺自身の取った行動にもその責任の一部があるのだ。

池田を失い、始めて気がついた。

今自分の置かれている状況の中で、一番真実を知る彼を失うことは、第三者に証言する者がいなくなったということである。国分らの疑念を払拭するには、証明してくれる池田の発言が一番必要だった。

その最も頼りにしていることが、池田の死により完全に削がれてしまったのだ。

それにしても国分らは、何故戻ってきた時に、池田の死を教えてくれなかったのか。

そう思ったが、今さら詮索しても詮無いことだった。

こうなった以上、疑いを晴らしてくれる者はいない。解決への道を断たれたことになる。野口は如何にもならなかった。

如何したらいい…。このまま菊地から言われたことに従い、この巣穴の仲間を裏切り行くか。それとも、醒めた国分らの行いを無視するか。さむなくば、もう一度彼らに弁明の機会を与えて貰うか…。

三者択一をしなければならなかった。仲間との決別か、寄りを戻して貰う道を探すか、野口は迷っていた。どちらかに決めれば、一方は相反する方向へと行く。菊地のところへ行くことは、国分たち仲間との決別を意味する。たとえ野口自身がそう思わなくても、彼らは裏切り者と解釈する。

それでは、もし菊地のところに行かなければ如何なるのか。釈明したこと以外は出てこないのだ。それを再び訴えても、それで疑念を払えるのか…。現状ではそうしたところで、おそらく理解を得られないだろうし、たとえ得たとしても二度と助けてはくれまい。

如何したらいいんだ。如何決断すべきなのか…。

悩んだが、結論は出ず。如何にもならぬところまで追い詰められていた。それどころか池田がいない今、手を差し伸べてくれる者はいないのだ。

こんな時、俊介さんさえいてくれたら導いてくれるかもしれない。苦しむ俺に適切な助言をしてくれるだろう。

でも、現実はそうなっていなかった。救いを求めるが如く懸命に彼を探したが会うことが出来なかった。そのまま一週間後という約束の日が来ても、何一つ解決するために動こうとしなかった。いや、容易に動けなかったのだ。近づくに連れ不安の芽が大きく膨らんでいた。

この状態では、国分たちの疑念は払拭できない。かと言って、信じて貰える策があるのか。この巣穴の中で、仲間外れのまま生きて行けるのか…。

それに…。もし、このまま菊地の下へ行かずにいたら、一体如何なるんだろうか…。

二つの難問に挟まれ揺れていた。

暴力は怖い。再び受けることになったら何とする。

苛まれていると、菊地の鬼相顔が浮かんでくる。迫り来る錯覚に陥った。

急に恐怖心が湧いてきた。

間違いなく約束を破ったと怒り狂うであろう。決して俺を忘れていないし、許してくれはしない。むしろ手下に捕まり連れて行かれることも有り得る。そうなった時は、おそらく命は絶たれるだろう。

そう思うと、居たたまれなかった。

どちらにしても、奴に捕まれば殺される。そうであるならば、奴の逆鱗に触れる前に行くことが良策ではないか。もう、ここには居られない…。

そう結論に達した。

少なくともそうすることで、とりあえず己の命を存えさせられる。でもそれは、この巣穴と決別しなければならない。そして、敬う俊介さんを裏切ることになるのだ。

そんなことが出来るのか…。

決別への不安と抱く恐怖心の葛藤の狭間で迷うが、苦悩の末ようやく結論を導いた。

やはり菊地のところへ行こう…。奴が言っていた。それなりの役職に就けるからと。どんな役割かは分からぬが、ひょっとして俺を脅かすものでないならば、選択して良ということになる。是非ともそうなって欲しい。

そのように願うばかりだった。野口の顔には苦渋の決断の後が、眉間に深い皺となって刻まれていた。

仲間を失い、俊介を裏切ることは断腸の思いだが、心が弱かった。勇気が足りなかった。それにもまして、追い詰められていた。狭まる視野の中ことここに至り、菊地から受けた暴行による恐怖心がむっくりと這い出し、身体も心も凌駕していたのだ。世話になった仲間には、恩を仇で返すことになるが他に行けるところがなかった。

強がりにも似た気持ちで、ぼそっと呟く。

「己の命を存えるためには、いわば強い者に屈して己を匿うしかないのだ」

そして、菊地の下へと行くためにおずおずと巣穴から出て行った。結局、その後野口は、二度と仲間の居るこの巣穴に戻ることはなかったのである。

どのような処遇を受けるか、ふつふつとした不安を胸に菊地のところへ向かった。約束した日から二日遅れてのことである。

揺れる気持ちを抑えのろのろと歩く。進むうち不安が恐怖心へと変わっていった。道すがら以前受けた暴行を思い出しては、さらに歩く速度が鈍る。

奴の部下になるのはいいが、また同じような目に遭うのではなかろうか…。

鼓動が激しくなり、抑えきれない恐怖感に襲われていた。このまま菊地の下へいかず、逃げ出そうかと思いに苛まれ歩いていた。

しかし逃げたところで、何処へ行くあてなどない。今までの生き様を振り返っても、生を受けた時には役割が決まっていた。それ以外の経験がない。巣穴を出ることは、菊地の下へ行く以外ないのである。

同じ働き蟻でありながら、俊介たちのように獲物を捕りに巣外へ行くという役割は与えられていない。菊地のところへ行くことも然りながら、巣穴外の世界へ踏み出すことさえ出来ずにいた中で、逃げ出すこと自体無謀だった。

それ故一歩踏み出した以上、国分らのいる仲間のところへは戻れず、かと言って他の巣穴など知らず、どこにも逃げ場はなかった。結局、それはただ現状から逃避するという弱い気持ちだけだったのである。歩む道すがら、受けた暴行がもたらす恐怖に苛まれながらも、よりどころとして俊介に助けを求めていた。

俊介さん、助けて下さい。他に誰も頼る者はいないんです。菊地のところに着くまでに、俺を見つけ救って下さい。そして勇気と知恵を授けて下さい…。

一心に祈った。それ以外出来ることがなかった。

見も知らぬ外の世界へ出て行くこと自体、そこで生きて行く知恵がない。恐怖心が更に強くなっていた。それでも必死に耐え、辺りをきょろきょろ見廻しながらカタツムリのようにゆっくりした足取りで、彼が見つけてくれることを祈りながら菊地のところへと向かっていた。しかし出会うことはなかった。仲間と思われる蟻に、ぎこちなく触角で確認もしたが俊介に係わる情報はなかった。

結局、なすことなく菊地の下と来てしまった。足ががたがたと震え、立っていることもままならぬ状態で会う。何の策もなく、手ぐすね引く菊地の前では、あまりにも無防備だった。

「将、将軍様。野口めが馳せ参じました。先、先日は有り難いお言葉を頂き、恭悦至極にございます。本日は遅くなり誠に申し訳ございません…」

深々と頭を下げ、蚊の泣くような声でようやく言うが、次の言葉が出てこない。限界だった。あまりにも恐怖心に追い詰められていた。

「…」

菊地は黙っていた。

野口にしても心臓が張り裂けんばかりに高鳴り、押し黙ったままがたがたと震えていた。顔を上げることもままならず、かと言って話すことさせ出来ずにじっとしていた。ただ鼓動が響くように高鳴りし、気持ちが萎え怯えだけが際立っていた。

それでも菊地は黙り睨みつけたままでいる。野口は耐えられなかった。顔も上げられず、突き刺すような視線を身体に浴びていた。声も出せず、じっとしていることほど辛いものはない。恐怖に苛まれた状態では限度がある。いたたまれなく、恐る恐る顔を上げた。

引きつる顔で菊地を視るが、普通の顔ではなかった。奇相をした魔王のような目が睨みつけていた。そのように思えた。直視出来なかった。そのまま、「は、はっ!」と、腰を折るほどに深々と頭を下げた。と同時に立っていられず、へなへなと座り込み、そのまま地面に顔を擦り付けていた。

魔王の奇相に支配され、生きた心地がしなかった。直ぐにでも死の足蹴りか鉄拳が飛んでくることを覚悟した。すると先日受けた暴行が脳裏に浮かび上がる。激しい痛みが身体全体に蘇っていた。うずくまったまま如何にもならず、ただ生きている証に心臓だけが高鳴り、 それしか耳に届かなかった。

じっと伏せたまま硬く目を閉じた。それとて長く続けられるものではない。しかし、身動き出来ないのである。動いた瞬間、脇腹に足蹴りが飛んでくることが怖かった。

次第に限界に近づく。そして、耐え得ることの出来ないところまで来た。息苦しくなり、無意識のうちに口をパクパクさせる。もう駄目かと観念した。

その時だった。

睨めつける菊地の表情が崩れた。そしてやおら告げる。

「野口、ご苦労だった」

声をかけられた途端、「ひいっ!」と発し、野口の身体がぴんと狐のように跳ねた。そして、

「は、はい。将、将軍様…!」

とだけ、反応するように絞り出された。その姿は完全に服従する以外の何者でもない平伏す凌駕者に、尚も声を掛ける。

「野口、何時までそんな格好をしている。お前が来るのを待っていたんだ。約束の日に来ず心配したぞ…」

笑みを湛えた。だが、その後の菊地の言葉が聞き取れなかった。あまりにも意に反した言葉に、途中から頭の中が真っ白になっていた。

「は、ははっ。申し訳ありません!」

無我夢中で、地面に顔を付けたまま返事をした。すると菊地が優しく告げる。

「なあ、野口。遅れたことなど気にするな。それより何時までも擦り付けていず、顔を上げてみろ」

意外な言葉だった。鉄拳と足蹴りを覚悟していた矢先だ。先ほどの言葉といい信じられなかった。にわかにこの優しい言葉が夢ではないかと思えた。と同時に、恐怖心が急速に遠のいていく。

野口は恐る恐る顔を上げた。見たものは、先ほど垣間見た奇相顔ではない笑みを浮かべた菊地の顔だった。野口は安堵した。そしてまた、深々と頭を下げる。

「有、有り難うございます!」

「本当に有り難うございます!」

慢心の思いで礼を言った。

「おお、そうか。それだけ忠誠心を示すとは有り難い。野口、礼を言うのはむしろこちらの方だ」

優しく声を掛けた。今度は先ほどと違い、耳に入る言葉がはっきりと分かった。再び安堵感が滲み出て、ここへ来てよかったと思い始めていた。

選択は間違いない。これでよかったんだ…。

心の中でそう呟いた。そして再び頭を上げ、しっかりと菊地の顔を見て申す。

「将軍様、これから何でもさせて頂きます。将軍様に仕えさせて頂きますことは、私にとって最大の栄誉でございます。何なりとお申し付け下さいませ」

思っても見ない言葉が口から出た。自分でも不思議だった。いまの今まで恐怖心に凌駕され潰れかけていたのに、菊地の一言で魔法にでもかかったように、揚々とした気持ちでそう応えた。

そして何時の間にか背筋を伸ばし、菊地を正面に見据え、笑みさえ浮かべ大きな声で応えていたのだ。

「おお、そうか。そこまで言ってくれるか…」

満足する顔の中に光るものを発しながら、意味深気にそう応じた。野口はその一瞬の妖輝に気づかなかった。

さもあろう。受ける悦びをひしひしと享受していたのだから。

そう、偽りの優しい言葉とは知らずに…。

「今言ったこと嘘ではないな」

「はい、将軍様。決してそのようなことはございません。天命に誓って、私めの本心でございます」

事実、野口はそのように思い、確信するように続ける。

「何卒、何なりとお申し付け下さいませ!」

「そうか、それは有り難い。よくそこまで言ってくれた」

「野口、礼を言うぞ!」

耳に心地よい響きが木霊していた。心なしか身体も気持ちのよい鳥肌模様に変わっていた。そんな矢先、ついと告げられる。

「そうそう。この前言っておいたことだが、約束通りお前を正式な部下にいたそう。それと共に役職を与える」

「今から野口を、我が巣穴の食料部隊長に任ずる。心して励むがよい!」

野口は耳を疑った。

温かく仲間として迎え入れてくれる。そして更に部隊長を命ぜられようとは。そんなことがあっていいのだろうか…。

にわかに信じ難かったが、腹の底から嬉しかった。

この残忍非道な菊地が約束日より遅れた俺を許し、それだけでなく組織の歯車として認めてくれるという。もしや、この菊地は非道な奴ではなかったのではないか?先日受けた暴行は、幻だったのか…。

尚も信じ難いことだった。

「嘘か誠か、はたや夢なのか。今までの恐怖心は一体何だったんだ。今しがたまで、間違いなく仕打ちを受けると覚悟し、何をされるかとそればかり考え恐れ戦いていた。それが意に反して、まったく考えもしない処遇で迎え入れるという。おまけに食料部隊長という重責を担えと、全面的に信用し今まさしく俺に命じているではないか。

菊地の発した言葉を噛み締める。

こんな嬉しいことはない。やはり思い過ごしだったのか。あの時はきつく暴力を受けた。さもあろう。彼の獲物をくすね取ろうとした行為だ。そしてそれは戒めとして致し方のないことだ。だが、その後反省の意味も込め大量の食料を献上した。これで俺の罪も帳消しにしてくれたに違いない。これまでしてくれるとは。

あれだけ恐怖を与えた男が、まったく違った態度で接している。自分の取った行為から、逆の立場であれば戒めも容易に理解できる。それを、一時の恐怖心で逆恨みし憎んだ。そう考えてみれば、今の姿が本来の彼なのかもしれない…。

そう思えた。すると、何とも言い難い安堵感が身体全体に広がっていた。菊地を仰ぎ見る。

笑みを湛え、俺を見ているではないか…。

その眼差しは、まるで仏のように覗えた。そして野口は、改めてその顔を見つつ告げる。

「将軍様、こんな哀れな男をかくも温かく、寛大に迎えて頂き恭悦至極にございます。格なる上は、この私め命をかけてお仕え致す所存でございます。如何か末永くお引き立てのほど宜しくお願い致します」

いい終わるやかしこまり、深々と頭を下げ最大限感謝の気持ちを込めた。

こうして忠誠心を表わしていたのだ。恐れ戦き土下座していた今までと比べ、何と嬉しいことかと心中で呟き、小波のような喜びに満ち溢れていた。そんな満ちる余韻に浸っている野口を窺い、きらっと目を光らせ腹の中でほくそえむ。

何も知らずに、のこのこと来おって。こ奴とうとう毒牙にかかったわい。これで一生涯、下僕奴隷として尽くさねばならんのだ。哀れな男よ…。

そして、更に腹内で嘘ぶく。

今の我が巣穴にあっては急ごしらえでもあり、これから訪れる厳冬期の備蓄食料が足りない状況だ。喉から手が出るほど元いた巣穴の備蓄食料が必要なんだ。俊介たちの貴奴らが飢え死にしようが、如何なろうが知ったことではない。わしらが生き延びるために、何としても奪い取らねばならない。そんな恐策があることも知らず、野口めが阿呆面して軍門に下るとは…。

ぎらつく目の奥で、そんな謀略を描いていた。

俊介たちのいる巣穴から出て、自らの巣穴を作ったのはいいが、これから来る冬を乗り切るだけの備蓄食料を備えていなかった。

菊地らにとり、越冬用食料の確保が緊急なのだ。俊介らの備蓄している食料は垂涎の的だった。それも現状を見る限り、今から狩をして備えられる時間的余裕も働き蟻の数も不足している。それ故転がり込んできた野口に、食料強奪の役目を押し付けようとした。菊地はそんな思惑を込めて敗者を見下げる。

何のために食料部隊長にしたかの意味も分からず、阿呆面して、「一生わしに尽くす」だと。そして「何なりとお申し付けください」と抜かしおる。馬鹿な野郎だ。

「まあ、こ奴がそう望むなら早速任務を全うして貰うか。うふふ、どんな謀略かも見抜けず、間抜け顔をしておるわい…。

心の中で卑下し、かっと目を開く。

「野口、よう言った。わしはお前に感謝する。これほど忠誠心を示す者は他にいない。褒めて遣わす。これからも、多いに働いて貰らわにゃならない。そこで野口よいか!」

「は、ははっ。かしこまってございます。何なりとお申し付け下さいませ!」

次の下知を聞かず、元気よく応じた。

「そうか、そこまで言ってくれるか。それでは部下として寝食をいとわず、しっかりと食料部隊長としての任務を全うせよ!」

「ははっ、かしこまってございます!」

「如何だ、野口。お前の言ったこと、偽りではなかろうな。頼りにしておるぞ」

「は、はい。偽りなど毛頭ございません。誠心誠意励む所存でございます!」

そこまでくどく言わせ、改めて命じる。

「それでは野口隊長。早速だが、下知をつかわす!」

「は、はっ!」

野口は全霊を掲げるように頭を下げ、次を待った。

「我々の敵は、わしが以前住んでいた巣穴にあり!」

「おお、そうだ。お前も今まで住んでおったな。と言うことは、お前にとっても憎っくき敵となる。そこに攻め入り全食料を奪い取って来い。逆らう者あらば皆殺しにしろ!」

「野口、分かったか!」

「それに共に働く部下は自分で集め、それで攻撃せい。幸い、お前の仲間はわしに感謝していると聞いた。即刻、連れ出し体制を整えよ!」

「念のため言っておくが、根こそぎ奪うのだぞ。それでは、直ちに取り掛かれ。我が国家建設のための大事な仕事だ。お前に与えられた、いわば初陣の戦だ。何としても成功させるよう、命をかけて働け!」

雷のような大声だった。

野口はきょとんとする。何を言われたのか、その時は分からなかった。あまりにも唐突な命令は、安堵の余韻に浸る頭にスムーズに入らなかった。

「野口、ぐずぐずするな。直ぐに出陣だ。早く行き奴らから奪い取って来い!」

鋭く次の矢が飛んできた。そこで、はっと我に返った野口は、事の重大さに気づく。だが、その時はすでに手遅れだった。そして、取り返しのつかぬところへと追い込まれていた。

何と言うことだ。こともあろうに今しがたまで暮らしていた巣穴を攻撃し、全食料を奪えとは…。それも逆らえば仲間を皆殺しにしろと言う。あまりにも理不尽な命令ではないか。

うむむむ…。

ひと時の安堵する気持ちは、菊地の一言で一瞬のうちに掻き消されていた。

絶句する。

頭の中が混乱し真っ白になった。急に鼓動が高鳴り出し、心臓がぶち破れるほど激しさを増していた。何とも言いようのない絶望感が湧き出す。だが反発など出来ない。己が今しがた何と言ったのか、その軽はずみな言動が、身体を縛りつけ身動き出来なくしていた。息が詰まり胸が苦しくなってきた。意識が薄れてくる。

今更、出来ませんとは断れない。出されている命令は、とてつもない理不尽なことだ。けれど今しがた、「命をかけて全うする」と誓ったばかりだ。それに、「何なりとお申し付け下さい」とも、言ってしまった…。

迂闊だった。甘かった。

如何にもならなかった。黙ったまま地面に頭を擦り付けた。そして、何ともし難くじっと目を閉じていた。

「如何した、野口!」

悪魔の叫びが飛んできた。

「今誓ったばかりではないか。初めての食料部隊長としての任務だぞ。早く出立し成果を上げて来い。こら、初陣を飾らんか!」

「何をぐずぐずしておる!」

容赦ない罵声が、地べたに平伏す身に降りかかってきた。

「おい、こらっ!野口。何をそんなところで、ガマガエルのようにへばり付いているんだ。早く攻め行かんか!」

矢の催促に返す言葉を失い、全身が震え出していた。

「ううう…」

呻き声が口から漏れた。頭の中がぐるぐると回りだし、悪寒が背中を支配する。

「何という返事をしている。さっき誓ったことが守れんのか!それを、唸るとは何ごとぞ。この不埒者の嘘つき野郎が!」

大声と共に菊地の足が、野口の脇腹を勢いよく蹴った。鈍い音がした。骨の折れるような音と共に、

「ぐうえっ!」

物の怪のような奇声が、ひん曲がった顔から発せられた。

「何だ、その醜い顔は。俺に楯突くきか!」

「うぐぐぐ…」

臓腑が千切れるように呻く。

「野口、早く行かんか!」

更に、二の足が飛び来て野口の顔面を蹴り上げた。

「ひっ、ぎゃあっ!」

声ではない、恐怖の悲鳴だった。蹴り上げられた野口は、反転し仰向けにひっくり返ったが、すぐに直り地べたに頭を擦りつけ懇願する。

「たっ、たっ、助けて下さい。将、将軍様、許して下さい。お許しを…!」

懸命に訴えた。そうせざろう得なかった。それ以外に何も出来なかった。

「何を言っておる。お前がわしに仕え、何でもすると言ったではないか。それを舌の根も乾かぬうちに、反故にするとはけしからん奴だ。そんな根性の曲がった野郎は、この場で叩き直してやる。部下となった以上、捻じ曲がった精神を叩き直さねば、わしの気がすまん。野口、そこに直れ!」

罵声が飛んだ。

「わああっ、将軍様。お許し下さい!」

悲鳴を上げ、痛む身体で正座した。途端に、

「何だ、その座り方は!将軍である、わしに対して失礼ではないか。この無礼者!」

鉄拳が顔に飛び、鼻がひん曲がるほど強く捉えていた。

「バギィッ!」

鈍い音がした。と同時に、鼻から鮮血が飛び散った。その血が菊地の足にかかる。

「うぬ、何だ!」

血走った目が、大きく開く。

「貴様、わしに汚れた血を掛けるとは何事だ!」

烈火の如くわめいた。

「申、申し訳ありません。お許しを…」

詫びながら、足に付いた血を拭おうと手を添えた。

「な、なんと。このわしに暴力を振るう気か!」

叫ぶなり、その手を払い顔面に一撃を見舞った。

「ぐえっ!」

まともに喰らい、ひっくり返り後頭部を強く打ちつけた。その瞬間、野口は激しい痛みを感じ息が止まった。

「うぐえっ…」

あまりの激痛に顔が歪んだ。そして許しを乞おうと菊地を見上げる。すると、

「何だ、その顔は。睨みつけるとは、とんでもない奴だ。わしに逆らう気だな。何か文句でもあるのか!」

「いいえ、そのようなことは…」

激痛を抑え、懸命に苦渋の顔を横に振った。

「この反逆者めが!」

鉄拳が顔を捉えた。また鼻から鮮血が勢いよく飛び散った。

「この野郎、何と言うことだ。俺様に、また汚れた血をかけるとは、何たる仕草。けしからん!」

仁王の足が二度、三度、腹めがけ蹴り上げていた。

「ぎゃあ!助・助…助けて…!」

もんどりうって仰向けに倒れ、したたかに後頭部を打ちつけた。

それまでだった。

抵抗する力もなければ、詫びる力も残されていなかった。起き上がることすら出来ず絶命の息を漏らす。

「うぐぐっ…」

そのまま白眼を剥き、激しく身体を痙攣させた。意識が遠退いて行く。

「お、お、お助けを…」

ようやくそれだけ言った。それ以外の言葉は、全身の痙攣が止まるのと同時に失われた。

「ううう…」

これが最後の言葉だった。そして、白目を剥きがっくりと頭が落ちた。

「何だ、こいつは。これしきの制裁でへたりおって、だらしのない奴だ」

見下げ、言い放つ。

「馬鹿な野郎だ。わしに逆らうからこうなるのだ。それも分からず反抗するとは何事だ。身の程を知れ。この下賎者めが!」

そう卑下し、動かぬ歪んだ顔を足でぽんと蹴った。

「何だこ奴動かんが、死におったか。間抜けな野郎だ…」

そして、何か気づいたのか、平然と呟く。

「おっと、いけねえ。またやってしもうた。つい手加減するのを忘れてしまったわい。このぼんくらがいけねえんだ。調子こくから、ついかっとなってしまった」

それでも釈然としないのか、高ぶる気持ちを静めようと、しきりに触角をしごいていたが、口欲しそうに漏らす。

「くそっ、せっかく俊介らの巣穴から食料を奪い取ろうとしたのに、計画が狂ってしまったじゃねえか。それにしてもいい思いつきだったのに、こ奴が死んだんでは糞の役にもたたんわい」

そう愚痴り、唾を屍の顔に吐きかけ、けろっとした顔でその場を離れて行った。野口は白眼を剥いたまま動かなかった。息を吹き返し、二度と目が輝くことはなかった。





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