今日の日を…、決して忘れまい。と誓った。

万里子は始めて知った男というものの野蛮さが怖かった。と同時に悲しかった。思い出すと辛くて涙が溢れた。平松に告げられた時はいずれ来ると覚悟したが、まさかこんな羽目になるとは思いもよらなかった。

あまりにも衝撃が強すぎた。

心の整理が付かぬままいきなり経験した。激痛が身体全体に澱んでいる。そっと服の上から触れてみた。するとその記憶が生々しく蘇ってくる。

これから、如何なるのだろうか…。考えると心がめげた。

菊地のなすがままにしかならないのか…。そう思うと、悲しさが胸を突いた。

果たして、このまま己の意思さえ持てず、生きることが出来るのだろうか?不安の渦が襲っていた。

このまま菊地に仕えなければ、生きて行けぬのか…。そう言えば、平松さんに忠告された。菊地に絶対逆らってはいけない。口答えすれば痛い目に合うと。現実にちょっとしたことで逆鱗に触れ、半殺しの目に合った者がいると言う。

そして彼は言っていた。幸い今のところは無事に過ごしているが、先のことは分からない。だから何時も不安でならないんだと。だから、何があっても耐えて我慢しろ。それがお前の生きていく道だから。

そう諭された。しかし、不安が付き纏う。

果たして、耐えられるだろうか?現に、今だって衝撃的なことがこの身を襲っている。それにしても仕えたばかりで、これからどのような試練が待っているのか。諭された時は、何があっても耐えようと誓ったけど。とても…。

後は脳裡でも言葉にならず、喉の奥に押し込んだ。不意を突いて菊地が吠える。

「何をしている。早く服を着んか。ぐずぐずするな!」

「は、はい。申し訳ありません」

つい思案をし手が止っていたが、慌て着だす。動く度に下半身に痛みが走る。万里子は我慢して着終えた。

「大変遅くなりました」

「それでは行くか。ついて来い」

すたすたと歩き出す。慌ててその後を追う。

菊地は、彼女を従え足取りが軽やかだった。歩きつつにたつく。

こんな上玉を手に入れて、これから毎夜が楽しみだ。それも初めて女にしてやったんだ。これからわし好みに仕立てなければならん。多少苦労するだろうが、教え込む楽しみがあるというものだ。

それにしても久しぶりだ。あのぎこちなさ。これだから生娘と言うのは新鮮でいい。

うむ…。

舌舐めずりしていた。それにしてもと、野口に要求したことを思い起こす。

まあとにかく、明日には奴が持ってくる。万理子との楽しみと、どれ程奴が持ってくることやら。あれだけ痛めつけたんだ。それ相応に持ってくるだろうて。万が一、わしの考える量を持って来なければ、その時はまた今日以上の鞭をくれてやる。そうでもしないと、恐ろしさが解るまい。恐怖心を叩き込んでこそ、意のままに動くというもんだ。

何にしても最初が肝心なのだ。甘えなどあってはならない。絶対服従を誓わせる。そのためには約束事に妥協などない。まあ見ているがいい。野口は必ず泣きを入れる。半端な量ではないからな。それに期限とて今日の明日だ。そう容易く出来ぬことは、命じたわしが一番よく知っている。

いずれにせよ。いい加減な量を持ってきた時は、手加減することなく鞭をくれてやる。但し、勢いあまって殺しては元も子もない。その辺は気をつけんと。池田のように死んでは、雑兵の拡大がおぼつかなくなる。それにしても万里子といい野口といい、明日が楽しみだわい。それに仲田め、どれだけ働き蟻を連れてくることやら…。

触角をしごき、ほくそえんでいた。知らぬ間に歩く速度が速くなる。ついと後ろを見ると、遅れ気味についてくる。

「おい、ぐずぐずせずに早く来い!」

足を止めて怒鳴った。

「申、申し訳ありません」

頭を下げ急ぎ足で、立ち止まる菊地へと追いつく。

「すみません…」

傍に来ると、初々しい体臭が鼻腔を衝く。

うむ、やはり若い女はいい。こんな匂いを嗅いたら、また息子が元気になってしまうわい。たまらん…。

万里子を気にすることなく股間に手をやり、一物を握り締める。

「おい、万里子。お前は罪な女だな。ほれ見い、息子がまた元気になってきたぞ」

えげつなく見せた。

「あ、いやっ!」

大胆な行いに度肝を抜かれ、恥ずかしさに顔を背ける。予期せぬ行為にただ驚き、戸惑うばかりだった。


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