六
菊地は憤慨していた。
「一度や二度ではない。せっかく捕ってきた獲物がなくなっている。如何いうことなんだ!」
最初は、保管場所を間違えたかと思った。二度目も確か前と同じ場所に置いた。結局、それも戻ったらなくなっている。すると不信感が湧き、誰かが盗んだと疑念が生じた。
納得のいかぬまま、それでも複雑な気持ちで獲物を取りに出掛けた。散々苦労して捕って持ち帰り、前と同じ所に保管しようとしたが、また盗まれるのではと危惧し別の場所を探した。適当なところがなく、また同じ所に保管した。そこで今度は、このまま置くのではなく所有を示す匂いをつけた。
俺が出掛けている間に誰かが持ち去れば、その匂いを頼りに追跡出来る。更に誰が横取りしているかも分かるはずだ。
そう考え、まずはそれを試そうとした。
さすれば、前に奪われた分も取り返すことが出来る。それに、誰が盗人かも判るはずだ。そして問題は。
そこまで考える。が、はて如何するか…。
思い悩んだ。
盗んだ奴に仕返しするか。攻撃を仕掛けて、二度と盗まぬよう痛い目に合わせるか。よくあることだが、仮に我が巣穴に侵入した外敵であれば躊躇なく攻撃を仕掛ける。場合によっては殺す。そうしない限り従属化され、永遠に横取りされるに決まっている。問題は仲間に、姑息にも獲物を奪う奴がいる時だ。
そこで迷い始める。
如何にするか…。やはり見せしめとして外敵と同じようにするか。横取りすることは掟から離脱し、自らの意思を持つことを意味する。少なくとも与えられた役割を忠実に従うことではない。ましてや、一人とは限らない。複数人いたら何とする。まともに張り合えば多勢に無勢だ。逆に反撃されよう。もし、俺自身が争いに敗れれば、一生下僕として働かされ、獲物を取り続けなければならなくなる。
決断に迷った。
「うむ…」
溜息交じりで息を抜く。
そうかと言って、今まで通り保管係に渡すか。いや、如何しても他人には渡したくない。かと言って絶対に勝てるかといえば、それも確実とはいえない。相手がどんな奴らなのか…。
ところがそこまで考えた時、脳裏に閃くものがあった。
そうだ。誰がやっているか、調べればいいんだ。相手がどんな奴か、またどのように防備しているのかをこの目で確かめればいい。よし、盗人を見届けてやる。
今までと同じ場所に保管した。そして、周りの様子を覗いながら、獲物を取りに行く振りして、誰にも見つからぬよう巣穴に戻っていた。更に用心深く物陰に隠れ、息を殺して見張った。すると、暫らくして二人の働き蟻がやってきた。その気配に用心深く身構える。
おおっ、来たか。あいや、巣穴の仲間ではないか…。そうだったのか。犯人は仲間の中にいたとは。それにしても間抜けな奴らだ。俺がここに隠れているとも知らず、馬鹿な奴め。凝りもせずまた盗みに来おって。うぬ、無用心にも笑いながら来るぞ。何か言っているな…。
聞き耳を立てた。すると二人の影は、警戒することなく近づいて来た。そして、一人の働き蟻が臆ぜず大声で叫ぶ。
「何だ!また、ここに置いてあるぞ。巣穴での決めことだ。誰だ、こんなところに置く奴は。保管場所に持ってこず放置するとは。しょうがねえ鈍ら者だな。保管場所まで運ぶのをさぼるのは、どんな奴だ!」
都合よく貶した。おやっと、菊地は思った。何処かで聞き覚えのある声である。それでも見つからぬよう、じっと様子を覗っていた。そうとも知らず野口と池田は、愚痴りつつ獲物に近づく。
「まったく面倒くせえな。地下の保管場所に持っていかにゃあならないんだからよ」
野口がため愚痴る。
「本当だ。しょうがねえ奴だ。この前と同じ所に置いてある。もしかして、味をしめているんじゃねえか?」
池田が応じる。
「うむ、確かに二度ほど、持って行ってやったからな」
「ああそうだ。きっとそうだよ。巣穴まで持って帰るのは大変だと思うが、しかし決まりだからな。こんなところに置かれちゃ困るんだよな」
溢し、野口は嫌な顔を池田に向ける。
「ところで池田、如何なんだ。保管場所まで持って行くのは面倒くさい。俺らが運んでやったところで、感謝などしてくれんぞ」
「確かにそうだよな」
池田が相槌を打つ。すると野口の目が、何かを企てるような視線になる。おやっと思い、躊躇いつつ切り出す。
「野口…。保管場所に持って行くもいかぬのも、俺らの勝手じゃないか?」
その言葉に反応し、野口が相槌を打つ。
「池田、よく言った。その通りだ。俺らはたかが食料の保管係だ。獲物を保管するだけの役目のために生を受けたに過ぎない。だからこの方、巣穴から一歩も出たことがない」
ここぞとばかり吐き捨てる。
「もう、こんな生活うんざりだ!」
すると、池田が頷き返す。
「俺も外の世界がどんなものか知りたいよ。一生、こんな仕事で終わるなんて滅相もないぜ!さぞかし外界は、楽しいところなんだろうな」
言った後、こっそりと尋ねる。
「ところで野口、知っているか?最近噂が立っているのをよ」
「何だ。一体どんな噂だ?」
「一部の仲間が関心を示さぬ振りをして、今の生活だとか役割に疑問を呈しているという話らしいぞ」
「ほう…」
「耳に入ってくる噂じゃ、俊介さんが進める改革説法に目覚め、決められた役割とは別に、自分の意思でいろいろやっている。と言うことだが…。聞いたことないか?」
「いや、俺も彼の説法で目覚めたからな。小耳に挟んだことがある。意識が変わる前はまったく無関心だったが、最近は何をやっているのか気になってな」
「如何も、己の考えで行動している同輩が多くなっている」
「そう言えば、彼らの取ってくる獲物の量が、前と比べると多くなっている。ただ、すべての働き蟻が開眼したわけではないがな…」
考え込む。すると池田が続ける。
「今までの働き蟻は、獲物の在り処を触角で知らせ合う伝承方式だが、抽象的な伝え方で行なう。その場所へ行って獲物がなくても、そのまま帰路に就く。すると行く奴とまたすれ違う。そこで「あそこには行ったがない」とは伝えない。すべからく「あっちに行けばある」と伝承する。獲物がなく帰ってくる者も、行く者も何の疑いもせずそのようにする。それが我ら巣穴社会での決まりごとだ。すなわちそこに、俊介さんの改革論と違いがある」
野口が疑問を呈する。
「それは、如何いうことだ?」
「ああ、触角で伝承する際尋ねるのは具体的に何処にあるかを聞く、そして何があるのかも尋ねるらしい。勿論尋ねられた方も教育されてないことを聞かれ、理解できず何時ものような伝承しかしないが、何度も言われてみろ。そのうち何故そんなことを聞くのかと考え始めるだろう。そうなると、彼に聞かれたことに反応し出すわけだ。「教えて貰った通り行ったけれど何もなかった」だとか、「やっと辿り着いたら蟷螂の野郎がいて近づけなかった」とか、具体的な状況を話し出す。すると、どのような状況になっているか把握出来、もし他の者が先に運び去っていたら、伝承された時点で探す場所を変更する。それで獲物を探し得た場合、帰路に会う仲間に伝承するんだ。それをいろいろなルートの者にやってみろ。それは多くの獲物を捕ることが出来る」
野口が相槌を打つ。
「ううん、なるほど…」
俊介の薦める行動を己に当て嵌めてみると、従来では考えもしないことだった。
池田が感心する。
「やはりすごい人だ…。そうだろう野口。俺らだってこのまま変わることなく朽ちることはないんだ。俊介さんの教え通り己で判断する。是か非は別として、ここに置いてあるものだって、俺らのものにしてもいいじゃないか。持ち去ったところで、誰も気に止めないし関心も示さない」
野口が応じる。
「そうだ。確かに、そのようにこの巣穴ではなっている。俺らだって、俊介さんのように自由に行動しようじゃないか。こんなところに置く奴がいけないんだ」
獲物に手を掛け、動かそうとした。すると、野口の後ろにすうっと黒い影が忍び寄る。
野口も池田もその影に気づかず、まさか持ち主が現れるとは予想しなかった。その黒い影が大声で怒鳴った。
「この野郎、何すんだ!」
「ひえっ!」
野口も池田も、一瞬動きを止めた。野口などは、獲物に手を架けた姿勢で止まる。池田は失禁していた。
そんな二人の驚愕など構わず、異様な眼光でまた叫ぶ。
「この盗っ人ども!」
発するや後ろから野口を蹴飛ばし、更に振り向いた池田の顔面めがけ鉄拳を飛ばしていた。二人はもんどりうって倒れた。蹴りを受けた野口は顔を強く地面に打ちつけ、池田に至っては仰向けに倒れ後頭部を打っていた。
「この馬鹿どもが。まんまと引っかかりおってざまあみろ。俺の獲物を盗もうなんて、不届者め!」
怒鳴り、へたり込む二人を幾度も足蹴にした。
「ひいっ!助、助けてくれ、俺が悪かった!」
野口が悲鳴を上げた。
池田にしても、あまりの痛さと足蹴の中で、今まで味わったことのない衝撃が己の身体に起きていることを、薄れてゆく意識の中で感じていた。
「ううっ、ぐぐう…」
呻き声を上げるのがやっとだった。微かに菊地の顔が鬼の形相に映っていた。薄っすらと感じる。
死というのは、こういうものか…。
始めてのことだが、不安はなかった。死の恐怖など経験がないからだ。
俺はこの巣穴から出たことがないから、外敵と争ったことがない。もし外界で争い己の力が劣れば敵にやられる。それは教えられた。負ければ即、死を意味する。相手の餌食になるということか…。
朦朧とする中で、必死に考えていた。
だが今は違う。外敵に襲われたのではない。仲間の働き蟻に襲撃され、抵抗できずに死んで行くのだ。
消え行く意識の中で言葉を追いかけた。急激に痛みが身体を襲いだす。池田は息が出来なかった。やっとの思いで弱々しく洩らす。
「お前だったのか、菊地…」
そして、がっくりと頭を落とした。それまでだった。しかし菊地は収まらず、大声でわめき散らす。
「お前らだったのか、獲物をかすめた盗人は!」
更に、瀕死の野口へと向う。
「野口、お前も死にてえのか。この盗っ人野郎!」
再び足蹴にしようとした時、慌てて平伏し詫びる。
「待、待ってくれ菊地。意図的にお前がここに置いているとは知らなかった。だから二度ほど保管場所に持っていった。この池田と。俺は保管係だ。まさかこんなところに置いていたとは解らなかった。ただ誰かが怠けて保管場所へ持ち込まず、ここに置いたと勘違いしたんだ」
苦しそうに息を詰まらせる。
「始めは偶然に見つけた。そして、何でこんなところに置いてあるのかと思い、止む無く保管場所に運んだ。二度目もそうだ。しかし…、今回はさすがに正当性に考えなかった。またかとうんざりした気持ちが生じ、そして邪推を起こしてしまった。許してくれ、本当に魔が差した出来心なんだ」
痛みを堪え、腹を摩りながら詫びる。
「勘弁してくれ。まさか菊地、お前がここに置いているとは考えもしなかった。悪かった。許してくれ!」
地面に頭を擦りつけた。奇相顔で聞く菊地が目を剥く。
「ふざけるな、野口!そんな言い訳で、許すとでも思っているのか。見ろ池田を。犯した罰で死んだ。お前も同罪だ。俺の鉄拳で同じ様にしてやる!」
身構えた。
「うわっ、待ってくれ。殴らないでくれ。俺を助けて。お前の言うことを何でも聞く、だから許してくれ!」
必死に懇願した。だが無視し、脇腹を強く蹴り上げていた。その瞬間、「ぐわっ!」と奇声を発し、もんどりうって仰向けに倒れ目玉がひっくり返っていた。
「ぐっひあっ、うっぐぐ…」
あまりの痛さに息が止りかける。
「た・す・け・て・く・れ…」
それだけ言うのがやっとだった。それでも必死に逃げようと身体を動かし、懇願すべく菊地を覗った。するとその視線を振り払い、二度目の足蹴をすべく身構えた時野口が悲鳴を上げた。
「ひえっ、助けてくれ。お前の言うことは何でも聞く、だ、だから助けてくれ!」
だが無視し、無言のまま腹めがけ蹴り入れた。その瞬間、野口の身体がくの字に曲がり飛び跳ねた。
「うぎゃっ!ぐっうううう…」
海老の如く丸くなり、うずくまりながら息絶え絶えに乞う。
「許、許してくれ。俺を、俺を助けてくれ。何でもする…」
すると菊地が、勝ち誇ったように告げた。
「野口、お前の言うこと嘘ではないな」
即座に野口が平伏す。
「絶対嘘は言わない。だから殺さないでくれ。お願いだ、助けてくれ。命だけは助けて下さい…」
涙を一杯溜め、地べたに頭を擦りつけた。立ちはだかる菊地の前で、何時までも這い蹲っていた。このまま蹴り続けられたら、間違いなく殺されると思った。平伏し許しを乞うた。謝るしかない。これしか己の命を守る手段はないと直感した。
そしてひたすら平伏し、怒りが収まるのを待った。勿論、顔など上げられず動くことすら出来ない。頭を擦り付けたまま、脇腹の激痛と湧き出す恐怖に耐えていた。そんな醜態を見下す。
こやつを絶対的に服従させるには、ここで甘い顔を見せては駄目だ。こいつに俺の存在が恐怖心に変わるようにしなければ、必ず裏切るだろう…。
傲慢に考えていた。野口は仁王立ちの菊地を窺うことが出来なかった。その無言の圧力に全身が萎縮した。伏したまま、その威圧に耐えかねるように、恐る恐る漏らす。
「菊、菊地…、あいや菊地様、決して嘘は申しません。あなた様の言うことなれば何でも従います。ですから何卒、命だけはお助け下さい…」
それでも菊地は、這い蹲る姿を黙って見ていた。野口は如何にもならず、恐くて顔も上げられないでいた。二人の間に沈黙が訪れる。それでも地面に頭を擦りつけていた。ただ、そうしているうちに、恐怖心が徐々に引いて行くように思えた。
このままでいれば、助けてくれるかもしれない。これ以上何もしてこなければ、命だけは取られまい。今だって、足蹴が止っているではないか。
そう思うと、ほんの少し落ち着いてきた。
そうだ、こうやって時間を稼ごう…。逆鱗が納まるまで待つしかない。それ以外に助かる方法はないんだ。
腹の中で決めた。すると、隣の池田のことが気になり出す。
声も聞こえない。動きすら伝わってこない。一体如何なってるんだ…。
伏せたまま横目で覗う。が瞬時に身体が凍りつき、冷や汗が滲み出てきた。
目を剥いている。まさか、殺されたのか…。もしそうだとすれば、こいつは何と冷酷な奴だろう。やはり、俺も池田のようにされるかもしれない。如何したらいい。このままじっとしていれば助けてくれるのか。
目の前がぼやけてきた。すると同時に脂汗が湧き、身体ががたがたと震え出す。悟られまいとするが、止めることが出来ない。
如何する…。いや、待てよ。このままじっとしていれば、何とかなるなどと考えが甘いかもしれない。必ず殺しにかかるだろう。池田だって現にそうなっているではないか。まったく動きを感じない。間違いなく殺されたんだ…。
再び恐怖心が、急速に膨らみ始めた。
如何したらいいんだ。黙っているわけにはいかない。黙っていたら反発していると思われかねない。もしそのように取られたら、間違いなく足が飛んできて命は亡くなる。今や風前の灯だ。菊地に許しを乞わなければ…。
恐る恐る顔を上げ窺い、命乞いをする。
「許して下さい。決して逆らうことは致しません。ですから命だけはお助け下さい。後生ですから…」
直ぐに平伏した。擦り付ける額から薄っすらと血が滲んでくる。それでも止めず続けた。しかし、菊地の形相は変わることがなかった。睨みつける奇相の顔は、この世のものとは思えぬ表情になっていた。そして、突如菊地が野口の首根っこをぐいっと掴み引きずり起こす。
「ひ、ひえっ!お、お助けを。命を取らないで下さい。お、お助け、お助け下さい!」
とまで言った時、鉄拳が飛んできて顔面を捉えた。衝撃をまともに食らった。
「ぐうえっ!うぐ・ぐぐぐ…」
鼻血が勢いよく飛び散った。
「助、助けてくれ!」
絶叫した。すると菊地がやおら告げる。
「野口、言ったことは嘘じゃないだろうな!」
「はっ、はい、嘘など絶対に言いません。あなた様の言うことは何でも聞きます。下僕、いや奴隷となります。ですからお許し下さい。命だけはお助けて下さい!」
息絶え絶え訴えた。
恥も外聞もなかった。先ほど芽生えた甘い邪心など飛散し、心から言い成りになろうと覚悟した。恐怖心がすべてだった。絶対に逆らえないと悟った。
「何でも言うことを聞きますから…」
蚊の鳴く声になっていた。すると、その言葉を待っていたように怒鳴る。
「そうか、それじゃ命令する。明日までに盗もうとした獲物の三倍の食料を持って来い。分かったか!おっと、それに。俺はこれからこの巣穴を出て、新しい住居を構える。こんなこそ泥のいる巣穴などよう住まん。ついてはそこへ持って来い」
野口は返す言葉がなかった。あまりにも理不尽な要求である。即座に分かりましたと言えるものではない。言葉が詰まった。
…断れば、即、池田のようになる。しかし、そんな量の獲物を如何やって集めればいいのか。そんなこと出来るわけがない。
先を考えることが出来なかった。とっぴでもない要求である。あまりの無理難題を押しつけてきたのだ。如何にもならないし、如何にかなるものではなかった。頭から血の気が引いた。途方にくれ、苦渋の顔になっていた。
「如何なんだ!」
見透かすように威嚇してきた。
「は、はい…」
返す言葉がない。ただ押し黙る。
「お前、今何と言った。俺の言うことなら何でも聞くと言ったはずだな。黙っているのは、その場しのぎの出まかせか!」
「…」
「うぬ、何も言わねえということは、惚ける気だな。野口、俺を舐めるのか!」
烈火の如く喚いた。
心臓が破れそうになりながら、やっと否定する。
「い、いいえ。そのようなことは、決して…」
「何だと。野口、死にてえのか。隣でくたばっている池田のようになりてえのか!」
どすの利いた声が巣穴に響き渡った。
「あっ、は、はい。分かりました。菊地様、何とか致します。で、ですので命だけはお助け下さい」
言い訳する余地がなかった。ただ従うしか、この場から逃れる選択はなかったのである。平身低頭している野口を見下し、勝ち誇ったように傲慢に吐き捨てる。
「そうか、分かればいいんだ。それじゃ直ぐに取りかかれ。分かったな野口!」
「は、はいっ!」
すると、平伏す背中に猫なで声が降る。
「おっと、それに野口よ。死んだ池田を葬ってやれ。お前のために死んだのと同じだからな。お前の身代わりによ」
「はい、そのようにさせて頂きます…」
青ざめた顔で応え、震えながら立ち上がり頭を深々と下げた。そして、動かぬ池田の骸を引きずりながら、必死の思いでその地獄場から離れて行く。そんな野口の姿は、まるで敗北者そのものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます