第11話 第1ステージ phase3
田村さんはあれ以降、口を閉じたままだった。
その間にも、犯罪者探しは続いている。
「あの、一つ気になった事があるんですが……。」
そう言って、小さく手を挙げたのは私服姿の女性だった。
紫色の奇抜な髪に、甘いガーリー系のワンピース。
名前は青崎美晴。大学三年生の二十歳だ。
私立大学に通いながら、大学近くのコンビニでアルバイトをしている。
「山中さんの住所って、確か二週間前くらいにコンビニで窃盗事件があった場所だと思います……。同じ系列のコンビニなので、人ずてに噂を聞きました。その犯人はまだ決まっていないとか。」
「山中さん……山中透さん、ですよね。中学は不登校で、高校には通っていらっしゃらないみたいです。近くのコンビニでアルバイトをしているそうですが……何か心当たりありますか、山中さん。」
そう言って、アリアが呼んだ山中透は、高校一年生の男の子だった。
黒い髪は、ボサボサで目を覆い隠すほど長い。
洋服も汚れが多く、長く着古しているように見えた。
「た……確かに僕が働いてるコンビニで窃盗事件はありました……で、でも!防犯カメラにはその時の様子は写って無かったんです!」
あちらこちらに設置されている防犯カメラに写っていない……?
最近は簡単に物を盗める程セキュリティは甘くない。
そんな中、その犯人はどうやって窃盗を遂行出来たのだろう。
「ふーん。それじゃあまるで、——幽霊が物を盗んだみたいな言い方だね。」
「そうです……!きっと幽霊が……っ!」
「ははっ!君はそんなたわいも無い戯言を信じるの?」
人を小馬鹿にするような言い方。
そこにいたのは、栗色の髪をした小さな男の子だった。
山中さんを蔑むような視線で睨みつけ、嘲笑うその姿は歳の割に大人びて見える。
栗色の髪に、黒目がちな瞳。
中学二年生の、外原俊介。
彼はニタリと山中さんの事を笑い飛ばす。
「ねぇ、本当にそれって幽霊の仕業なの?寧ろ僕には、人間の仕業のようにしか思えないんだけど。」
「どういう事ですか、外原くん。」
「俊介でいいよ、アリアさん。どういう事って、簡単な話だよ。つまりそれって、監視カメラがどの方向を向いているのかを熟知していれば、誰にだって犯行可能だったって事でしょ?例えば……そう、コンビニ店員とかなら、知っているんじゃない?」
「成程……。コンビニで働いている店員なら、客が少ない時間も把握出来るし、他の店員の目さえ盗めば犯行は十分に出来るって事か……。」
「流石、祐介さん!ご名答!」
「……!!」
「あれあれ?どうしたんですか山中さん。顔色……悪いですよ?」
にたりと、笑みを零す俊介とは裏腹に山中さんの顔色はどんどん青ざめていく。
「そっ、そんなのはったりだ!そう言うなら証拠を出せっ……!!」
「証拠?そんな物無いに決まってるでしょ?あるのはこのデータだけ。でも僕、何となく動機は分かりましたよ?」
「それは興味深い。聞かせて貰おうか、俊介くん?」
祐介さんがそういうのなら、と俊介はこくんと頷いた。
「山中さんは中学の頃、不登校気味だった。それはもしかして家庭環境に問題があったのでは?例えば……そう、『金銭問題』とかね。」
「そっ、それがなんだよ!!」
「いえね、それなら山中さんが高校に行かず働いているのも納得でしょ?学校にいくよりも、お金を稼ぐ方が重要ですもんね。でも……アルバイトだけじゃ足りなかった。」
俊介は、くるくると山中さんの周りを円を描くように歩く。
徐々に徐々に、俯いていく山中さんを楽しそうに見つめている。
「足りない。足りない。働いても働いても、足りない。だから——盗むしか無かった。」
自分の全てを見透かされたような口ぶりに、山中さんは大声を上げる。
「黙れぇぇぇぇぇ!!!!!!」
山中さんは両手で耳を覆う。それでも俊介は口を閉ざさない。
「仕方が無かった!盗むしか無かった!そうしないと生きていけないから!だから盗んだ!!ねえ、そうでしょう?山中さん。」
「うるさい……うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!お前みたいなガキに何が分かるんだ!!!!僕はいっぱい苦労して……沢山辛い思いをして……」
「だから盗みを働いた?それが正当化される程、世の中は甘くないんですよ、山中さん」
「中学生のガキに何が分かる!!!そうやって正義ぶって、それが正しいと思い込んでる厨二病野郎だろ!!」
「確かに僕は中学二年生ですけれど……。酷いなぁ、そんな風に言われるなんて。」
くすくすと、愉快そうに笑いながら俊介は、「ねぇ、アリアさん?」と少女に視線を向ける。
確かに、盗みは犯罪だ。正当化される訳が無い。例えどんな理由があったとしても、してはいけない事をしたのなら、その罪は償うべきだ。
山中さんの家庭環境がどれ程残酷なものだったのか、俺やアリアは想像も出来ない。
それでも……。
「——動機は兎も角、山中さんは今、自分の罪を認めた事になります。如何なる理由があっても、してはいけない事を犯したのなら許されるべきでは……ありません。」
アリアの顔は酷く曇っていた。
山中さんがこれまでどれ程苦しい思いで日々を生きていたのかを考えるだけでも、胸が痛む。
アリアもきっと、俺を同じ気持ちなのだろう。
「山中さんを、二人目の犯罪者として認める方は、挙手をお願いします。」
アリアの言葉に、一人また一人と手を伸ばす。
その光景を見て、アリアは数秒黙り込んだ後苦い口をゆっくり開いた。
「賛成多数により、山中さんを犯罪者として案内人に提示します。」
アリアの重たい口ぶりに、山中さんは大きく泣き喚いた。
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!なんで僕がこんな目に遭わなくちゃいけなんだよ!!何がいけなかったんだよ!!!嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!死にたくない!!」
何度も何度も死にたくないと、叫んだ後、山中さんは意識の糸がぷつんと切れたように眠りについた。
その様子に、その場にいた俺達はただ黙って見ている事しか出来なかった。
そうしている間にも、タイムリミットは刻一刻と迫っている。
残りは後二人。時間内に果たして見つけ出せるのだろうか。
「……続けましょう。私達には、このゲームを終わらせるという使命があるのですから。」
そうして、第一ゲームは中盤に差し掛かっていた。
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