第10話 第1ステージ phase2

俺とアリアは、早速ブレスレットからデータを確認する。

ブレスレットのデータには、顔写真、本名、生年月日、住所、学歴、その他備考が記載されていた。

そこに犯罪歴などの記載は無い。わざと隠しているのだろう。

俺とアリアが二十人分のデータを確認していると、ある男性が声を上げた。


「あの……ここからどうやって犯罪者を探せば……?」


スーツ姿の男だった。

確か名前は——藤堂義隆。

三十代、今は普通のサラリーマンと、データには書かれている。

見た目からして真面目そうで、どこか気弱な雰囲気を漂わせている。

俺の親友にどこか似ていた。

「そうですね……まず、このデータの中で不審な点があるかを確認しましょう。気になる箇所があった方は教えてください。」

「気になる点だあ??そんな事はどうだっていいんだよ!適当に犯罪者臭ぇやつ片っ端から見つけ出せばいいんだろ!」

アリアの言葉に食ってかかってきたのは、角刈りのガタイのいい男だった。


巻島雷千。

高校二年、備考には、過去に二度の素行不良により留年と書かれている。

確かに見るからに、野蛮そうな男だ。

最初に案内人に突っかかって行った所を見るに、見た目通りガラの悪い青年なのだろう。


「お静かに!データが私達の手元にあるというのには、何か理由があるはずです。ここは慎重に……」

「慎重にだあ?てめぇ、そのデータによりやぁ、良いとこのお嬢様学校に通ってんだろ?全員がてめぇに従うと思ったら大間違いだかんな!!」

「そんな事は微塵も思っていません。今はただ、皆さんで協力をしようと……」

「ゴタゴタうっえせんだよ!怪しいヤツを見つけりゃあいいんだろ!あの男とかな!!」

「えっ……!?わ、私ですか……!?」

藤堂が指を指したのは、ひ弱そうなサラリーマンだった。

確かにゲームが始まってからずっとビクビクと肩を震わせている。


確か名前は、田村正門。

三十二歳で、中小企業に働いているごく普通のサラリーマンだ。普通の県立高校、大学を卒業した後、別の企業に就職。その後退職し、二年前から今の職場で働いている。

年収は平均的なサラリーマンと変わらない。備考には妻と実家で暮らしていると書かれている。

「わっ、……私は、何も、しっ知りません……っ!!」

ずっと何かに怯えながら、物陰に隠れるように気配を消している。

人が殺された場面を見たのだから、怯えるのは当然だ。

「憶測で物事を判断してはいけません。もし間違えたら、私達だって命の危険に晒されるんですから。」

「……そ、そそそうです……!その子の言う、通り、ですよ……っ!!」

データ上だけでは、やっぱり判断がつかないかと思っていた時、不意に田村さんの左手元が光る。

ブレスレットは、右手首に共通して装着してある。なぜ左手の方が光った……?

「田村さん。」

「は、はいっ……!」

「その左手首に付けているのは時計……ですか?」

俺の指摘に、田村さんはビクッと肩を動かす。

今迄になかった反応だった。

すぐさま田村さんは右手で左手首を覆い隠すが、その場にいた全員が田村さんの手に視線を向ける。

明らかに不審な動きだった。

ただの腕時計なら、そこまで慌てて隠す意味が無い。

一体何故……?

「田村さん、私にその腕時計を見せて下さりませんか?」

「な、なな、な何の事か……そ、それに、腕時計には、な、何も、あり、ません……」

アリアの言葉に田村さんの黒目が右往左往する。

随分隠すのが下手なようだ。もう少し顔色を変える事を覚えた方がいい。

それに、俺が見た時計が正しければ……。


「田村さんがつけていた腕時計は、高級ブランドの最新型ですよね?データ上では、田村さんの年収は平均的なサラリーマンと変わらない。そんな貴方がなぜ数百万はする腕時計を?」


俺の指摘に、田村さんはたじろいだ。

「そっ……そ、それはっ……」

「一つ、気になる事があります。田村さんが前に働いていた職場は、その後倒産していますよね?その際、確か会社のお金が報告されていた金額より少なかったと、言われています。」

アリアは田村さんの前に堂々と立つ。

アリアの言い方。その結論は、俺だって分かった。

そして確信めいたように、アリアは田村さんに向けて告げる。


「田村さん、貴方——会社のお金を横領、してますよね?」


田村さんの額から流れた汗が、ぽたりと床に落ちる。

「そっ……そ、それ……は……!」

震える声。歯がガタガタと音を立てる。

何も言い返せない、田村さんの様子にアリアははあ、とため息を漏らす。


「前に勤めていた会社、そして今の会社でも横領しているのでしょう。諦めて、認めてください。」


その額が、幾ら程なのか俺は知らない。

ただ、確実に言えるのはこんなに気弱で臆病な人間でも心の奥には鬼を飼っているということ。

間違えなく、田村さんは犯罪を犯した犯罪者だ。

自ら抵抗する事をしないのは、少なからず横領している事を引け目に感じていたからなのかもしれない。


「それではここで決を採ります。田村さんを一人目の犯罪者として認める方は、挙手をお願いします。最後の判断は、皆さん自身で決めて下さい。」


アリアの指示に、その場に居る参加者達の手が上がる。

ここまで暴かれてしまったのだ。もう誰もが認めざるを得ないのだろう。

「賛成多数。よって、田村さんを一人目の犯罪者として案内人に提示します。」


と、アリアの推理によって、一人目の犯罪者はあっさりと見つかった。

残りは三人。

この中に紛れている犯罪者を、俺は絶対に見つけ出す……!

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