第9話第1ステージ phase1
♢
——俺はきっと、恵まれた人生を送っていると思う。
たかが十代のガキが、何をほざいていると言われるかもしれないけれど、少なくとも今の俺はそう思っている。
優しい両親、仲のいい友達、何でも分かり合える親友。勉強も運動もそれなりにそつなくこなす事が出来る。
毎日は、幸せだった。笑いが絶えない日々。
少し疲れた時は、親友の直人がそばに居た。
直人は気弱で、普段は人と話す事を嫌がるけれど、俺とだけは口を開いてくれた。
腐れ縁ってやつだけど、その幼なじみが直人で良かったと、本気でそう思っている。
大切なものを、俺は沢山持っている。
だから、それを奪ったアイツを、俺は絶対に許せない。
『ほら!人なんて簡単に死ぬんです!!私に逆らうから、死んだんだ!!自業自得ですよ!!!!』
学校からの帰り道。
ここ二週間ほど、直人は学校を休んでいた。
『一身上の都合』と担任は言っていたけれど、俺はやっぱり気がかりで。
先生から地図を貰って、あいつの家に向かおうと歩いていた最中……俺は、意識を失った。
そこから先は何も覚えていない。
気付いた時には此処にいて、訳の分からないゲームの参加者になっていた。
そして俺はそこで——大切な先生を失った。
あの狂った、イカレ野郎に殺された。
だから何があっても、俺はあの案内人とかいう腐った怪物を絶対に許さない。
あいつにまた会う為に、俺は……。
「えーっと……。とりあえず時間も無いことですし、やってみますか、『人探し』ってやつ。」
「人探しっつても、何もヒントがねぇじゃねえか。」
集められたのは、俺を合わせて二十人。そして……今は十九人。
最初のゲームは、『人探し』。この十九人の中に紛れ込んでいる四人の犯罪者を見つけ出す、というもの。
犯罪者がいるというのも、あの案内人の出任せかもしれない。
しかし、あの案内人が立っていたステージの頭上にあるスクリーンには時間が表示されていた。
スクリーンには、二十七分と書かれている。
これはきっとタイムリミットだろう。
この時間が零になるまでの間に、俺達は犯罪者を四人、見つけ出さなくてはいけない。
このゲームは、人を簡単に殺す。
いわばデスゲームだ。今さっき、人が殺されてる姿を見てしまったせいで、皆の恐怖心は一層高まった。
「おまえだろ!早く自白しろよ」
「何言ってんだ!証拠も無いくせに!」
「でも本当にこの中に四人も犯罪者がいるの……!?」
「怖い……早く帰らせてよぉ!」
ガヤガヤと騒ぎ立てるばかりでは、収集がつかない。
このままじゃ、三十分以内に見つけ出す事はおろか、話し合うことすら……。
「あの、とりあえず一つ一つ確認するところから始めませんか?人それぞれ意見があるのは分かりますが、このままだとタイムオーバーになってしまいます。」
そう、凛とした姿勢で意見を出したのは、僕の隣に座っていた少女だった。
ゆっくりと立ち上がり、少女は堂々と声を張る。
美しい金髪の髪に、青い宝石を埋め込んだようなキラキラした瞳。
白いブレザーを着た、顔立ちの整った少女。
「私は、このゲームのやり方は間違っていると思います。でもこのままでは一人残らず死んでしまいます。生き残るためにも、まずは皆さんと一緒に意見をまとめたいんです。」
制服を着ているということは、少なくとも俺と同じ年代の子だろう。
そんな子が、こんなにもはっきりとした物言いで空気をまとめあげるだなんて。
「それもそうだな……」
「確かに、一理あるか。」
「そうね……」
少女の発言に、他の皆も落ち着きを取り戻す。
今まで凍っていた空気が、少し穏やかになった。
「私の言葉を聞いてくれてありがとう。とりあえず、このブレスレットの中にあるデータを確認してみましょう。何か分かるかも知れません。」
金髪の少女の言葉に従うように、皆一斉に自分の手首を触る。
黒いブレスレット型の機械。あの案内人曰く、この中には参加者のデータが入っているとか……。
少女はニコッと微笑んだ後、再び腰を下ろした。
その瞬間、彼女と目が合う。堂々とした立ち振る舞いがあまりにも美しくて、つい見すぎてしまったみたいだ。
「あっ。」
「……?」
思わず声が漏れ出る。
俺と殆ど歳が変わらないのに、こんなにも凛々しい姿で人を纏めるなんて。と、関心していたのがバレただろうか。
なんて言う俺の焦りは杞憂に終わった。
「——私、結構恥ずかしい事言っちゃいましたかね……?」
あははと、首を傾げたその耳は淡く桃色に染まっていた。
「そっ……そんな事ない!寧ろあんなにも堂々と皆に言えるなんて……。君は、すごい人なんだね。」
「そんな……謙遜ですよ。私はただ……人が殺される姿をもう、見たくないだけです……。」
そう言う少女は、先程よりも声色を暗くする。
そりゃあそうだ。
目の前で人が殺された。
あんな馬鹿げた理由で、西宮先生は殺されたんだ。
挙句の果てに、あの案内人は人の死を笑った。蔑んだ。弄んだ。
「俺も……俺もだよ。だからさっさと終わらせよう、こんな馬鹿げたゲームなんて。」
「……さっき……さっき、殺された方は……その、お知り合い、だったんですか……?」
おずおずと、少女は言いにくそうに俺に尋ねる。
体育座りをして、不安げな顔で俺の様子を伺っていた。
あんなに大声を上げていたんだ、気になるのも無理は無い。
俺は、彼女から視線を逸らし俯きながら答える。
「俺の高校の先生だったんだ……新任の先生だったけど生徒から慕われていて……もちろん、俺も好きだった。」
「そうだったんですね……すみません、言い難い事を言わせてしまいました……。」
「謝らないでよ。それに、俺は君に感謝してるんだ。」
「……え?」
俺はもう一度、彼女と目を合わせる。
真っ直ぐで、穢れのない綺麗な瞳。
「君が皆の前に立ってくれたから、俺も理性を取り戻せた。君は、まるで魔法使いみたいだね。」
そう笑うと、少女の真っ白な肌は茹で上がったタコのように真っ赤に染まる。
頭から湯気が立ち込めそうなくらいあわあわと焦りながら、「何言ってるんですかっ!?」と怒鳴られてしまった。
「だって君のお陰で、皆もこうしてしっかり考えてるだろ?君が立っていなかったら、口論になって収集つかなくなっていたかもしれない。君は凄い人だね。」
「なっ、……な、なななっ……!よくそんな事をサラリと言えますね……お顔も整ってますし、良く女性からおモテになられたのでは……!?」
「それって俺の事?残念ながら彼女の一人どころか、初恋もまだなウブで健全な男の子だよ。」
さっきまであんなに背筋を張って、ピンと立っていた少女とは思えないくらいに動揺している。
そうやって慌てている方が、年相応に見えて可愛らしい。
「なら、貴方は天然のタラシさんですね……。きっと貴方に恋焦がれる女性は数多くいるんでしょう……。」
「何それー!あ、もしかして僻みってやつ?」
なんてからかって見せると、「違います!」と即答されてしまった。
初めて顔を合わせたというのに、こうして彼女と話しているのは、とても楽しい。
こんな状況だというのに、不覚にも彼女の表情一つ一つにきゅんと来てしまう。
「……あ、そういえば私、名前を名乗ってませんでしたね。ブレスレットのデータを見れば名乗らなくても分かると思いますけど……。」
「そういえばそうだったね。でも俺は、君の口から直接君の名前を知りたいな。」
そう言う事なら、と少女は俺の目の前に手を差し伸ばした。
金色の美しい髪に目を奪われながら、俺は少女の名前を耳にする。
「私の名前は——雛郷 アリアと言います。」
「俺は——新谷祐介だ。よろしく、アリア。」
互いに手を取り合う。
彼女の手は俺よりも暖かくて、それが心地よい。
「いきなり呼び捨てって……やっぱり祐介さんはタラシなのでは……」
「その誤解は……まあ、後々ゆっくり解いていくとするよ。」
こうして俺は、アリアと出会った。
この出会いが運命なのか、それとも誰かが仕組んだ罠なのか。
俺はそれをまだ知らない。
——そうして、俺達のデスゲームは幕を開けた。
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