第八十九話 癒しクラッシャー


「お兄ちゃん!あれは何?」


「あれは犬だね」


「じゃあ、あれは?」


「あれは猫だね」


「へぇ〜、どっちも同じに見えるのに違うんだね」


 いや、本当に癒されるなぁ。


 俺はしみじみ思う。今日は真央とお出かけしている。ずっとあんな薄暗い洞窟のような場所に1人でいたのなら、人がいる生活やこっちのことは全然知らないと思ったからだ。


 そして、その俺の考えは見事的中し、今この状況なのである。真央には見るもの全てが珍しいらしく俺に聞いてくるのだ。こんなに気になるんだったら、教会から帰る時に聞かなかったのかな、と思ったんだけど、多分まだこちらに対して心開いてなかったんだろうなって思う。


「護さん、お腹空きました〜。護さん〜、、護さん〜〜、、、、」


「お兄ちゃん、アイリスがなんか言ってるよ」


「んっ?俺には何も聞こえなかったが」


 そう、今日はアイリスが一緒なのだ。本当は今回も変わってもらいたかったのだが、1回目の時に前回だけって言っちゃった気がするし、ウンディーネ様に迷惑をかけるわけにもいかないからだ。


「あっ、串焼きがあります!ちょっと行ってきますね!!がっ、、ちょっと何するんですか!」


 俺は、串焼きを発見して突進するアイリスの首根っこを掴む。別に2人の時はもう諦めに近いのだが、今日は真央がいる。ちなみに結笑達は今日はお休みである。予定通りにギルドに行ってくれてもよかったのだが、一緒がいいということで、明日になった。


「ちょっと、護さん!いつまで私のこと掴んでるんですか!」


「あぁ、真央は食べたい?串焼き」


「うん!食べてみたい」


「よし、じゃあみんなで行こうか」


 俺はアイリスを掴んだまま串焼き屋へと向かっていく。こいつに行かせると何本買ってくるかわからないからな。それならもういっそ一緒に行って仕舞えばいいのだ。


「串焼き3本お願いします」


「はい、3本ね。落とさないように持つんだよ」


 屋台の人が真央に串焼きをも食べてくれる。それを大事そうに抱えている真央の姿がなんとも可愛らしく感じた。


「早くくださいよ〜。そんなに大事に持ってないで、串焼きは食べるためにあるんですから」


 いつのまにか、俺の掴みから逃れていたアイリスが真央の持っている串焼きを奪おうとしている。


「おい待て、1人一本だからな」


「わかってますよ〜」


「じゃあ、なぜ2本も持ってんだ?」


「えっ?私と護さんの分ですよ」


「じゃあ、なんで2本目食おうとしてんだ」


「美味しいからです」


「うん!これすごく美味しい!」


 今日に入ってくる真央の声に俺の呆れも収まっていく。落ち着いた俺は静かにアイリスから串焼きを奪い取って、食べようとした時だった。


パクッ!


 隣からアイリスに食われる。


「お前のやつはもう食っただろうが!」


 俺は、どれだけ癒しがあってもこいつには勝てないと思った瞬間だった。

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