第八十七話 久しぶりの


 名前が決まって安堵している時に、急に何かに引っ張られるような感じに襲われる。隣を見るけど、真央が引っ張っている様子もない。


くんっ!


 もう一度引っ張られる感覚に襲われる。そして、気づく。俺はこの感覚をこちらにきた時に味わったことがあると。これは神童の実験をした時にアイリスから、100メートル以上離れた時に起こった現象だ。


「結笑、真央。急いで帰るぞ!このままだとまずい。絶対にまずい」


 これから起こることを想像した俺は、結笑と真央の手を引いて教会から出る。そして、走る。


「「護くん(お兄ちゃん)どうしたの?急に走り出したりして?」」


「もう少しで結笑の【【影武者】】の効果が切れる。このままだと俺だけアイリスのところまで引っ張られることになってしまう。しかもアイリスのところまで直線距離と考えると、怖いことに、、、」


 考えただけでも恐ろしい。一体何件の家をぶち壊すことになるのか。


 それを伝えても結笑も真央も分かったような分かってないような顔をしているが。そんなことはどうでも良い、まずは宿に帰ることが大前提だ。


くんっ!!


 どんどん俺を引っ張る感覚が短くなって、強くなっているのがわかる。もう少しで宿に着く。なんとか持ってくれると良いのがだが。


 この時の俺は重要なことに気づいていなかった。もう少しで宿に着くというのに引っ張る感覚が無くなっていないということに。


 しかし、そんな事は頭から抜けているため宿に着くと俺たちが取っている部屋に入る。そして、その時に気付き後悔する。これからどうなるか悟った俺は、これまでずっと繋いでいた結笑と真央の手を離して言った。


「もう少ししたら、帰ってくると思うからここで待っててくれるとありがたいな。俺はこれからアイリスの所まで引っ張られてくるから」


「えっ?どうゆ」


 結笑が質問をしようとした瞬間に俺は大きく引っ張られる。建物の壁を破壊し、川に溺れかけ、屋台に突っ込み沢山の人に迷惑をかけながら、俺の体はアイリスの所に引っ張られていく。


 結局、アイリスのところにたどり着いたどりついた時には、俺の体に加えこれまで俺が通ってきた道はボロボロになってしまっていた。


「わぁ!びっくりした。どうしたんですか?護さん。こんなにボロボロになって、、、。

はっ!まさか、そんなに私に会いたくなってしまったのですか?」


 そんな事を目の前で呑気に串焼きを食っているアイリスに言われる。もう、言い返す気力すら湧かない。せめて、地面に突っ伏している俺に手を差し伸べてくれても良いと思うのだが。


「結笑のスキルの効果が切れたんですね。すると、もう少しすると、、、。あっ、きてしまいましたね」


 そう言ってメアナさんは黙ってしまう。多分ウンディーネ様に色々聞かれたり、心配されたりしているのだろう。


「まぁ、帰って話を致しましょうか」


 その様子を静かに見ていたアテナが改まった口調でそう言うのであった。

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