第七十九話 わたしはだれ?
んっ?今向こうから音がしなかったか?
俺がウンディーネ様に助けを求めて叫んだ事に対して、返ってきたのは声じゃなくて音だった。しかも、なんか金属みたいな音。
だれもいないと思っていたので、誰かいるということがわかれば、一筋の光が見えるだろう。
早速俺は音のしたほうに向かう事にした。やっぱり道中には何にもなかったが、少し歩くと音の正体が見えた。
1人の男の子が縛られて、壁に鎖のようなもので拘束されているのだ。その男の子は俺が近づいてくるのに気づくと、こっちをじっと見つめてくる。
しかし、それだけだ。助けてほしいとも、この鎖や拘束を解いてほしいとも言わない。いわゆる要求がないのだ。それなのにずっと見てくる。俺はその視線に恥ずかしいやら、見下ろしている構図に罪悪感があるやらで、最初に男の子の拘束を解いてあげる事にした。
鎖や紐など人間の手ではどうにも出来ないものばかりだが、幸い俺がいつも使っている武器は、アイテムボックスに入れている。
そのアイテムボックスから、戦斧取り出して、男の子の拘束を解く。その際、鎖とか切る時に結構怖かったと思うのに、男の子は眉一つ動かさずに、俺の言われるままに動いていた。ちなみに、まだ一言も喋ってない。まずコミュニケーションが取れてないのだ。
「名前教えてもらってもいいかな?」
俺は男の子の拘束を解いてから、その子に質問する。すると、男の子は少し考えるような顔をしてから俺に聞いていたのだ。
「名前ってなに?」
俺の頭の中に電流が走る。名前の概念を知らない子がいるとは。という事は、この子には名前がない。多分、親からつけられてもいないのだ。
「お母さんたちがどこにいるか分かる?あとここって出口あるの?」
「お母さんいない。お父さんもいない。出口は、、、、知らない」
まぁ、そりゃそうだよな。さっきまでここに繋がれてたのに出口知ってますなんて言われたら少し疑う気持ちはあったからな。
俺の予想通りの答えにやっぱりか、と思いながらも心の底では、知っていてほしかったと思う自分がいる。しかし、今はそれよりこの子が何故ここにいるのか、などの疑問が残っている。
どうせ、出口とか探しても見つからないなら、この子と話している方が一人ぼっちから解放されて、寂しく思う事は無くなりそうだし。
そう思うと、俺は男の子の隣に座って話し始めた。少しの間ではあったが、1人だった時の寂しい気持ちを紛らわすかのように。
「ここがどこで、なんで、こんな所に繋がれていたのか分かるかな?」
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