第五十九話 足踏み
入った瞬間からそこは別世界だった。ラト国とは違う。商業大国というのにふさわしいのだ。門をくぐる前から、分かっていたがそこかしこに行商人やら、馬車やら店やら店やらがある。
俺たちも馬車を引いているわけだか、本格的に商売をしていないので形だけだ。まぁ、これは俺たちの荷物を乗せるためのものなんだけどね。
俺たちがミロナン王国に来て、最初にすることは決まっていた。そう、クリスさんを目的の場所に連れて行くことだ。
来る途中に聞いた話だと、ロミオン商会だとかで働いているらしい。そこまで案内してもらおう。
「クリスさん、じゃあ案内お願いしますね。結笑さんもよろしく」
「わかりました。本当にありがとうございます」
「分かったよ〜」
2人が返事を返してくれたので、出発しようとした時だった。
「待ってくださーい。私、忘れられてます!置いてかないでぇ〜」
アテナさんの悲痛な叫びが聞こえてくる。
あっ、そうだ。ギルドカードがなくて俺の後に順番回されてたんだった。荷物の件ですっかり忘れてしまっていた。馬車を一旦止めてもらって、アテナさんを待つ。さすが、動の女神というべきかすぐに追いついてくる。
これじゃあ、別に馬車を止める必要もなかったな。
「なんで、みんなして私のこと忘れてるんですか!置いていかれそうになった時、私泣いちゃうかと思いましたよ」
本当に目元が赤くなっているアテナさんに俺は気になっていた質問をする。
「結局、ギルドカードとかはどうなったの?」
「私のギルドカード、ちゃんと見つかりました。アテナって名前見た時、一瞬驚いた顔したけどちゃんと通してくれました。良かったです!」
「そりゃ、動の女神様と同じ名前なら驚きますよ。私だって、はじめましての時は驚いたんですから。まぁ、多分別人だと思ってますけどね。あの門番さん」
メナさんが少し呆れたようにアテナさんに返す。ギルドカードの情報は偽装出来ないみたいなので、アイリスもしっかり名前が入っている。この世界の女神でもなんでも無いから、女神アイリスを知ってる人はいないんだけどね。
ちゃんとアテナさんが乗車したのを確認してから、結笑さんが出発の合図を出す。
「じゃあ、みんな揃ったみたいなので出発しますね!」
「よろしくね。結笑さん」
「えへへ〜、頼られちゃった、、、」
俺の言葉に、可愛く照れる結笑さんに少しドキッしてしまった。可愛かったな今の。
ここに来るまでで、結構な時間隣に座っているので、結笑さんといると何か安心感のようなものが芽生えているのだろうか?
目的地に着々と進む馬車の席で、俺はそんなことを考えるのだった。
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