第12話 リクエスト

 ……


「~~~」


「~~~」


 夕方には少し早い住宅街を、僕は結花と横並びで歩いている。

 空も良い天気で有る。


 微かに金木犀きんもくせいの香りを感じ、秋が本格的に到来したことを告げている。

 誰もが見ても、親子が仲良く歩いていると見るだろう。


 住宅街だけど、そんな爽やかな下を歩いているのだから、僕と結花は自然と笑みが零れる。

 そんな中、結花が和やかな表情で僕に話し掛けてきた。


「ねぇ、陽向!」

「今晩は、何が食べたい?♪」

「今晩のメニューは、まだ決めていないんだ!♪」


 結花は和やかな表情で、僕に晩ご飯のリクエストを聞いてくる。

 僕は結花と歩きながら、食べたい物を頭の中で思い浮かべ始める……


(今晩の気分は……肉かな?)

(肉と言えば……焼き肉、ステーキ、豚カツと有るけど……どれにしようかな♪)


(あっ……最近、結花の手作り(鶏の)唐揚げ食べていないな!)

(唐揚げを結花にリクエストしよう!!♪)


 僕は心の中で食べたい物を決めて、結花に和やかな表情で言い始める。


「お母さん!」

「今晩は、お母さんの唐揚げが食べたい!!♪」


「唐揚げ…?」

「そうね……唐揚げにしましょう。陽向!♪」


 結花は迷う素振りを見せること無く、僕のリクエストを聞いてくれる!

 ちなみに、結花に食べたい物メニューが決まっている時は、僕にリクエストを聞いてこない。


 なので、結花が僕にリクエストを聞いてくる時は、八割以上の確率で叶えてくれる。

 僕と結花でスーパーに向かって住宅街を歩いていると、付近を歩いている近所の人が僕達を見ながら、和やかな表情で声を掛けてくる。


「あら……こんにちは。新居浜さん!」

「涼しくなりましたね~~♪」


「……こんにちは!」

「そうですね……過ごしやすい日に成りましたね~~♪」


 結花も和やかな表情で、近所の人と会話を始める。

 僕はこの近所の人の顔は知っているが、名前までは知らない。


 良く見る人で有る。

 それは、結花も同じかも知れない?


 結花は美人で品行方正だから、元々近所でも噂に成る人で有った。

 そして、孝太郎が死んでからは未亡人に成った上、その死に方も悲惨で有ったから、僕の家の近所と言うより、僕の通っていた小学校区で、結花を知らない人は居ないだろう。


 その分……結花に再婚話を持ちかける不届き者が現れたが、結花は上手に断わっているし、僕もそれに応戦したから、結花に再婚話を持ち掛ける話は無くなった。


「では……失礼します!///」


 結花は和やかな表情で会釈しながら、近所の人との話を終える。

 僕はその人と距離が少し開いてから、小声で結花に聞いてみる。


「……お母さんは、さっきの人知っているの…?」


「ううん。知らないわよ…!」

「けど、声を掛けられた以上返さないと……」


「私も……この界隈では、名が知れ渡ってしまっているから!///」


 結花は穏やかな表情で僕に言うが、最後の文章は頬を染めながら、恥ずかしい表情で言う。

『人の噂も七十五日』と言うが、結花の場合はこれで終わらなかった。


 これは結花が美人なのも有るが、順風満帆な人生が一気に崩落したのだから、それを喜んでいる人間がそれだけ多いのだろう。


『人の不幸は蜜の味』


 結花の正面には敵が居ないが、裏は分からない。

 現に僕だって、裏には敵が居る。


 僕が優秀なのを、ねたんでいる人が居るらしい……

 だけど、それは競争社会だから敵が産まれるのは当然で有る。


 それは……僕(俺)が前世の時から変わらない。

 この世の中。”仲良しこよし”の世界なんて存在しないから。

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