第51話番外編3

「カピアは我が国の英雄である!ここにカピア族の代表としてアメフトジャンに勲章の受賞と、ハルカラ・ラドンナを自治区として認める事をここに宣言する!」


 勲章を授与し、貴族からの温かい拍手を受ける事になった俺は、思わずこぼれ落ちそうになる涙を堪えるのに必死になってしまった。


 未曾有の危機から脱する事に成功したヴァルカウス王国の戦勝パーティーに参加していた俺の隣には、同じように民族衣装に身を包んだジナイダが立っていた。

 死の部隊を含む4万の敵の軍勢を、地方の領主軍を取りまとめながら抑え続けた胆力は流石と言えるもので、ジナイダもまた、俺と同じように勲章を授与している。


「お前、考えは変わらないのか?」

 ワインを片手にジナイダが言う言葉はこればかり。

「ヴァルカウスの傘下になどくだらずに、一族揃ってテンペリアウキオに戻ってくればいいのに」

「我が部族がテンペリアウキオから放逐されて6代目になろうとしているからな、我らが故郷はハルカラの山となってしまったのだよ」


 ヴァルカウス王国は、毒で倒れた我が部族を丸ごと受け入れてくれた上に、王国として我が部族が住まう区域を自治区として認めてくれた。

 蛮族と蔑む風潮は今のところは鳴りを潜めて、好意的に受け入れられているのが肌感覚だが良くわかる。


「それにしても、ヴァルカウス王国に協力をするなんて事を、長老たちが良く許してくれたものだな」

 テンペリアウキオは元々、アテネウム侯国と国交を開いていた。大事な取引相手を捨ててあっさりとヴァルカウス王国の手を握ったということが、俺にはいまだに信じられない。


「アルヴァ殿下の所為だよ」

「は?」

「私たちは過去に一度、アルヴァ殿下に敗北した。完全なる負けを認めたわけだが、捕虜となった私たちを殿下は客人として扱ってくれた。しかも、戦に大勝したというのに、敗戦国である我らに慈悲をくださった」

 ジナイダは口許に笑みを浮かべると、

「恩義を返すのは当たり前の事だと誰しも言ったし、私はこの戦いに勝てば、一族全体を救いあげる大きなきっかけになると考えていた」

悪戯っぽい瞳を俺に向ける。

「なにしろ帝国との繋がりが出来たのが大きかった。あちらの馬は持久力はあるが足が短く、走りが遅い。軍馬としては今一歩のところがあるのは知っていたのでな、親衛隊や皇子に我が部族の馬の良さを売り込むことに成功したし、王国の馬の品種改良を手伝う話も出ているのでな。アテネウムの耕作地帯を切り取ることにも成功したし、大きな戦果をあげたと自慢できるだろう」


「ジナイダ、アメフトジャン、部族間の諍いはどうなったんだ?知らない間に随分と仲が良くなったみたいじゃないか」


 イスヤラ嬢をエスコートしながらこちらに歩いてきたアルヴァ皇子が笑みを浮かべる。

 この王子は初対面の時から、騎馬民族を馬鹿にせず、下に見下すような事などしなかった。テンペリアウキオとの交流があったからだろうとも考えていたが、それだけではない、何か底知れないものをこの若者には感じてしまう。


「ジナイダ様、アメフトジャン様、我が国の貴族の令嬢たちが、貴方様がたとダンスをしたいと言っているのですが、どうしましょうか?」


花のように可憐で、カランガの湖の女神のように心美しき女。光の神レヴィスカの僕であり乙女であり、我が心臓と同じものと、自分の婚約者の事を紹介するだけあって、イスヤラ嬢は月の化身のように美しい。

しかし、彼女の発した言葉は不穏そのものだった。


「だ・・ダンスですって?」


 気がつけば、年若い女性たちが瞳をキラキラさせながらこちらを見ている事に気がついた。目のやり場に困るような胸元が開いたドレスに身を包んだ令嬢たちが近づいてきていることに気がついて、

「お・・俺は妻と子がいるので・・・ダンスはジナイダが・・・」

と言って逃げようとすると、

「は?私を置いて逃げるつもりか?」

ジナイダが衣服の裾をガッチリと握りしめた。


「イスヤラ、無茶言うにも程があるよ?宮廷のダンスをやった事もないのにやれだなんて、勲章を戴いた人間に言う言葉じゃないよ〜」

アルヴァ王子はそう言いながら、ふと、ダンス会場の方に視線をやると、

「ふっふふふ、スーリヤの奴、しぶしぶだけど、スヴェン皇子と踊っているじゃないか」

おかしくて仕方がないといった様子で言い出した。


 確かに、スヴェン王子とこの国の王女であるスーリヤ姫が一緒にダンスをしている。


「まあ!スヴェン王子の想いは伝わったのかしら!」

 興味津々で瞳を向ける二人からこっそりと離れながら、

「肉でも食べに行くかなー〜、どれだけ美味かったか後で妻に報告しないとなー〜」

と、誰に言うでもなく呟きながらその場を離れようとすると、

「私も食べよう!そして部族に自慢してやろう!」

と、言いながら、ジナイダが後を追いかけてきた。

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